プロローグ!
揺れる気動車の中。
四人掛け対面式の椅子に、向かい合って座るレンレンと風小の姿があった。
「それにしても、生川・ルーク!なかなか侮れませんでしたデスよ!一体いかような術なのか。あんな強力な人形まで使うなんて!」
風小が、憤懣やる方ないといった調子でそう言うと、大きく溜息をつきながら椅子に深く座りなおした。
「うーん。今回の黒幕は、生川じゃなくてタルトのような気がするのよん」
レンレンはそう言って、椅子の肘掛に肘をつき、頭を乗せる。
「えっ!」
風小の上半身が、思わずレンレンに迫り寄る。
「私が、病院の廃墟に調査に行ったとき、生川の御符を見たけど、全くの素人だったわん。たまたま、生川の念が廃墟に結界を張ることになったと考えるより、もうその時点で、タルトは妖怪の姫として覚醒していて、生川を操ったと考えるのが無難ねぇ」
「はあー、そうデスか?でも、それなら尚のこと、何で、何の力も持たない生川がタルトを作り上げる事が出来ましたデスか?」
風小が問いただすと、レンレンはそのままの姿勢で考えを整理するかのように目を閉じ、話し出す。
「もともと人形は人の想いを宿しやすいでしょう?生川の胡散臭い仕事で、彼方此方の霊場に連れ歩かれたタルトが、その身に邪霊を憑依させていったってことかしらねぇん」
「おー!なるほど!」
ぽん、と、風小が手を叩いた。
「すっかり霊媒体質になってしまったタルトに、迷宮を抜け出られず彷徨っていた病院廃墟の『恐怖』が取り憑き完全覚醒。怖がりな生川の恐悸心を糧として力を増強させていったってところかしらねぇん」
レンレンが目を開けて、ぼんやりと窓の外に視線を送る。
「なんか、呑めないとなると、ちょっと寂しいわねん」
そう言ってレンレンが遠い目をして続けた。
「――海亀」
「お呑みになりますか?」
そう言って、風小が足下に置いた大きな鞄の口を開けた。
中には、まだ、封の開いていない清酒海亀のビンがごろごろと詰まっている!
「あんた!」
レンレンが驚いて椅子の上で飛び上がった。
「キッコちゃんのお母さまが、どーしても御礼がしたいと申されましたので。姫さまのお土産にいただいたのです。それにしても――は~っ、何本くらい入ってますかねぇ。これは――」
風小は覗いていた鞄から、右手でビンを一本引っ張り出すと、空いている手を自分の胸元に突っ込み、ごそごそと探り、お茶碗を二つ取り出す。
「ささ、まずは一献」
そう言いながら、茶碗を一つレンレンに渡し、ビンの封を開け始めた。
「いいけど。あんた姫緒に殺されるわよ」
レンレンが楽しそうに笑って茶碗を風小に差し出す。
「それでは――」
風小がそう言って開いたビンを傾けようとした。
が、次の瞬間、そのまま固まり動こうとしない。
「どうしたのよん?」
レンレンが催促したその時。
「レンレンさん!あれっ!」
風小は窓の外、進行方向に見えてきた踏切を指差して叫んだ。
そこには――。
群青色の紋付き袴姿。
白いサテンの手袋を着けた、太った男が立っており、気動車が迫ってくると、伏せていた目を開いて不敵に笑いながら、ゆっくり、ゆっくりと、レンレンに向かって深く一礼した。
すれ違いざま、レンレンは窓辺に仁王立ちすると、その人物を見下ろして言った。
「いいわよ?いつでもいらっしゃい」
そう言った彼女の口元が三日月をつくった。
その時、確かに――。
確かに。
生川に抱えられた腕の中で――。
タルトが無邪気に笑ったのである。
完?
またあそぼおね。




