大団円!!
たぶん。
そこが、駅だと言われなければ、誰もそうは思わなかっただろう。
いや、それは、駅そのものが奇抜な格好をしていて、駅には見えないと言うような事ではなく。
駅に『見えない』では無くて、駅が『見えなかった』のだ。
ホームと思われる場所は勿論、路線バスの屋根付き待合所を連想させる駅の待合室――その駅の建物にも溢れんばかりに人が取り付き、屋根の上すら座る場所が無かった。
まるで、果てなく広がる真っ青な水田の中に浮かぶ小さな浮島が、島が沈むくらいの人でごった返していると言った場景。
ホームには、二両編成の赤い気動車が止まっていたので、或いは、引退して公園に納められた懐かしの気動車の前で、観光客が記念の集合写真を撮っていると言う見方も出来たかも知れなかった。
溢れる人の中には、『源九浪』の名前の入ったオレンジ色のハッピを着た若者達や、揃えた紫色の和服を着た婦人達も多数見られる。
「来たよー!」
屋根の上に乗って遠くを見晴らしていた美土里が、そう言って四方に声を飛ばした。
時を同じくして、腹に響くような車の排気音とともに、真っ赤なオープンスタイルのコルベット・スティングレーが駅の前にゆるゆると現れると、割れんばかりの拍手が辺りに鳴り響いた。
「あらぁん!ハリウッド・スターでもやってくるのかしらん?こんな田舎にぃ」
悪路を走ってきた際にズレたのか、右目のアイパッチを直しながら、そう言って後ろの席からレンレンが降りてくる。
「なんだかこっぱずかしいデスよ!」
助手席からは大きな鞄を肩に担いだ風小が降り立った。
「あねさん!ホントニこのコルベット貰っちまっていいんですか!」
運転席のしげちゃんが、前が見えなくなるほど涙を流しながら、レンレンにそう言ってハンドルに頬ずりしている。
「いいって言ってんでしょ!私、疲れてんのよん!帰りはお酒飲みながら帰るんだからぁ。ジャマ!なのよん!」
そう言ってレンレンはキッコを探し、見つけるとゆっくり近づいて耳打ちした。
「じゃあね。歩夢は返すわん」
そう言って微笑みかけると、キッコは真っ赤になり、そして――大きく頷いた。
「風小ちゃん、姫緒さんによろしくね」
キッコのお母さんがそう言って風小に小さくお辞儀をする。
「ありがとうございます。竜神の令子さま!」
風小がそう言うと令子は恥ずかしげに笑った。
「今度は姫緒さんも一緒に来て下さいね!あ、あと、私にサイン下さいって言っといて下さい!」
美土里がそう言って風小と握手する。
「……」
風小は、ただ照れたように苦笑いするしかなかった。
「あらよぉ、トシ坊ちゃん――。いやいや、町長さんもよろしくってさ!今は騒動の後片付けでどうしても来れないんだってさ」
源九浪のおばちゃんがそう言ってがははと笑い、角刈り頭で細身の、無愛想な親父の背中を押した。
「あらよぉ!うちのとうちゃんがねぇ、どうしてもごあいさつしたいってさあ!さっ!とうちゃん!」
そう言って催促された『とうちゃん』が、とつぜんぼろぼろと涙を流し出した。
「すまねぇ。笑いたかったんだが。どうしたらいいか――わからねぇ」
「無理しなくていいわよん。身体に悪いから」
レンレンが『とうちゃん』の肩をそういってポンポンと叩く。
とうちゃんは何度も何度も頷いて涙を拭った。
「ネモ!」
歩夢が駆け寄ってきた。
「また来るよね!」
「あら?来てもいいの?」
「うん!来るといいよ!」
ふと、歩夢の脇を見ると老婆が立っていた。
「ババア。あんた、そろそろ名乗りなさいよ」
レンレンがそう言うと、老婆は小さく頭を下げて口を開く。
「鬼追師、月読みの菫と申します。お見知りおきを。符術師様」
「ババア。あんた全部知ってたわね」
老婆はレンレンに答えようとはせずただ上目づかいに笑って見せた。
「あのお――」
駅長と思われる制服を着た男が、帽子に手をかけながら申し訳なさそうにレンレンに声をかける。
「もうそろそろいいだろうか?発車の予定時間を三十分も過ぎてるんだが――」
集団から笑いが起こった。
「さー!それじゃ!みなのしゅー!お見送りザンスよー!」
オレンジのハッピにスキンヘッドの出で立ちの、たけちゃんがそう言って、人をかき分けレンレン達に道をつくる。
勿論、ホームに入りきれるわけが無かった、入りきれない人たちが、線路の脇にも溢れ出し、手を振っている。
「あ、ハリガネ!」
風小が気動車に乗り込もうとした時、中からハリガネが降りてきて、レンレンと風小を一瞥するとそのままどこかへ駆けて行った。
「なんか――」
風小が言葉を詰まらせる。
「ふん、相変わらず無愛想なヤツゥ」
そう言ってレンレンが気動車に乗り込む。
汽笛が鳴った。
みんなが口々に、いってらっしゃいと言いながら手を振っている。
その中を――。
気動車が動き出す。
「レンレンさん!あれっ!」
風小が気動車の中に何かを見つけて指さした。
そこには、二匹の霊狩蟲が漂っている。
(ぼくはこの町が好きだから)
(おいしいお魚が好きだから)
(ネモも好きだよ)(風小も大好き)
(また逢おうね)
「ハリガネデスよ!」
風小が、窓から外へ大きく身を乗り出して手を振った!
「また来ます!ぜってい、また来ますデスよ!それまでみなさん!お元気で!ごきげんよお!」
気動車は青い青い水田の中を進んでいくのだった。
次回、
最終話。




