不器用な男と素直な男
墓はジャスパーにとって意味をなさない、ただの石だ。愛しい彼女の魔力なんてものはないし、あるのは、虫に食われた肉体だけ。
そうなるくらいなら、掘り起こしてでも食べればよかった。そうしたら、肉体だけでも自分の中で生きたのに。
なんてことを思いながらも、人間の感覚に従い、花を手向ける。黒い傘からは絶え間なく雨粒が落ちていき、ミモザの花を濡らしていった。
王宮に来て数ヶ月、今日は今朝から国王に呼び出され、馬車に投げ入れられた。
また遊びに連れまわされるのか、と呑気に空を眺めていて着いたのが、王城から離れたこの閑静な墓地である。
今日はミモザが亡くなった日だそうだ。
(俺が目を覚ました時と同じ日だ)
ジャスパーが覚醒した日に、アカシアは永眠したのだ。
いや、彼女の言葉から考えて、永眠ではないか。
「ん?」
ふと、墓跡のそばに枯れた花が落ちていることに気がついた。不思議に思い、足を折る。
その時、背後から誰かの魔力を感じ、ジャスパーは立ち上がって振り向いた。
「……あっ」
「あ」
黒い傘の中から現れたのは、かつてアカシアに瓶を振り上げた、忌々しい暴力男だった。名前などは忘れた。
ビリビリと殺気で肌が粟立ちだす。
――だめだよ
「っ」
そう、彼女が耳元で囁いたような気がして、ジャスパーは殺気を拳を握る力へと変えた。傘の取っ手からパキリと音が聞こえてくる。
(そうだ。俺は帰って、魔道具を直すんだ)
ようやく一つ直せそうなのだ。
ジャスパーは傘を前のめりにさせ、墓地から離れた。男の横を通り過ぎる。
「なぁ」
しかし、力のない男の声が、足を引き止めた。
「君と彼女は、いつから付き合っていたんだ?」
「付き合う?」
「愛し合っていたのかと……聞いています」
声も聞きたくないのに、質問をかけられ、嫌々ながらに聞き返す。殺気を感じ取ったのか、男は口調を改めた。
「彼女を騙した貴方に言うことはありません。では」
成人してもなお苦しみ続けた彼女の苦労が、わかるものか。なのに、そんな質問をするなど、おこがましいにも程がある。
没落したはずなのに、わざわざシワ一つない黒いスーツに身を包んで、雨が降っているのにやって来て、おまけに、カバンの中から花なんて覗かせて。焦げた茶色の花なんて、太陽のような彼女には合わないだろう。何を考えているんだ。
(やっぱり彼をここで……いや、王城に戻ろう)
愛する彼女を待たせるわけにはいかない。
ジャスパーが去った後、アカシアの墓跡の前に男は膝をついていた。
「……本当は、好きだったんだよ」
男の頬に伝うものは、雨ではなかった。
彼が持って来た花はチョコレートコスモスです。
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