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6話 課題試験では気を抜くな

 何時もより早めの昼食を終わらせたルミナスは、曇り空を周りに気付かれない程度にぼーっと眺めていた。今日の魔法演習の講義はいつもより集合時間が早くなっているためだ。理由は課題試験があるから。何時もは一時間半ほどだが、それでは力を測りきれないだろうということらしい。


「ついにやってきましたね」

「そうね……あら、ヒストリアさん?」

「ダンでいいですよ。セレナさんでなくてガッカリしましたか?」

「そんなことはないわよ」

「そうですか? 少し寂しそうに見えたので」


 否定するも、ほんわかとした笑顔で返されてしまった。言わなくても分かっていますよ、という感じである。これ以上否定しては逆により明るい笑顔を向けられそうなのでやめておくことにした。


「ルミナス様のご活躍をお祈りしていますね」

「あ、ありがとう。貴方もね」


 両手を組み、ニコッと太陽のような笑顔を向けてきたダン。含まれる意味は違うものの、どちみち笑顔を見ることになってしまった。嫌ではないが、今まで純粋な応援をされたことが(今ループのセレナ以外に)ないため、むしろ嬉しくて反応に困ってしまう。

 ダンといい、セレナといい、もう一人は知らないが、特別生の条件に「素直で純粋な子」という項目が含まれているのではないかと疑いそうになる。


「そういえば、貴方は剣を用意したのね」

「はい。武器の持ち込みが可能だったので、念のため。剣がまだ使いやすいかと思ったんです」


 ダンの腰には市場でよく見かける一般的な剣が下げられていた。しかし、よく見ればチェーンに彼の瞳と同じ紫色の宝石が付いており、白色の制服と相まってなんだか王族のようだ。アメトリア王国の正式な場では、男性の王族は白い服を着る。その姿を何度か見てきたため、似ていると感じたのだろう。現王子は見たことがないが、現国王も今までの王族達も皆そうだ。


「どうしましたか?」

「いいえ、似ているなと思っただけよ。気にしないで」

「分かりました。そういえば、セレナさんがいらっしゃいましたよ」

「え?」


 顔を横にそらせば、これまた満面の笑みでルミナスに手を振るセレナの姿が見えた。片手に持っているのは何だろうか。

 それにしても、何時もより足音が大きい気がする。今はスカートではないからだろうか。「動く時に邪魔になるから」と男性の運動用制服デザインを元に、女性用に改良されたものを支給されたのだ。それでも、貴族が通う学園だからか、運動用とは言え普段のスーツスタイルとはあまり変わらない。乗馬服にも似ている。だからといってレディらしからぬ大股で歩くのはやめてほしい。また後で注意するとしよう。できる限り優しく。


「ルミナス様! 教師の方から配布物を受け取ってきました」

「あら、ありがとう。また配るように言われたんじゃないでしょうね?」


 そう鋭い眼光を向ければ、セレナは見ているルミナスの力が抜けそうな表情をした。


「へへ」

「へへじゃないのよ!」

「今回は暇をしていたので無理やりじゃないですよ。それよりこの方、どちら様ですか?」


(どちら様ですか?!)


 きょとんと首を傾げるセレナ。まさか同じクラスで、同じ特別生の彼の存在を今まで知らなかったとは。彼女の交友関係が本気で心配になってくる。

 ダンも同じ表情をしているとルミナスは思っい、彼に視線を移した。しかし読みは外れたようで、彼は笑顔でセレナに自己紹介をし始めた。


「同じクラスのダン•ヒストリアです。よろしくお願いします、セレナさん」


 なるほど、とでも言うようにセレナはポンと掌の上に拳をのせた。彼の存在を思い出したらしい。


「よろしくお願いします、ダンさん」

「はい。では失礼します、御武運を」


 そう言い残し、ダンはペアの元に向かって行った。セレナも彼に続いて激励の言葉をかけてきた。ダンが見えなくなるまで手を振らずに。前ループでも彼女と彼は関わりがなかったような気がするため、今回も同じような関係なのだろう。知り合いの知り合い、といった感じか。


(順位の高い二人より高成績を出せるは分からないけど、頑張……でも、セレナさんは今までのループよりも魔法の能力が低いのよね。ただでさえも光魔法以外は苦手だったのに……)


「ルミナス様?」

「えっ? あぁ、何でもないわ。どうしたの?」

「寂しいですがペアのところに行ってきますね。お気をつけて!」

「ええ。……貴女も気をつけなさいよ」


 そう呟けば、豆粒サイズにまで遠のいていたセレナがこちらに走り寄ってきた。


「何て言いましたか?! もう一回聞きたいです!」

「聞こえてるじゃないの!」


 ルミナスはそっぽを向き、次いで笑顔でもう一度手を振って去っていくセレナを横見した。何故この子はこうも私と仲良くするのだろうか。そんなことを思いながら、ルミナスは魔物につけられているタグを入れるための入れ物を装着し、ゴール地点へと向かった。一つの入り口から一斉にスタートするらしい。

 教師からの説明によれば、魔法防壁で覆われた森の中には魔物が放たれており、ペアで協力して倒し、魔物の危険度と撃破数から点数をつけられる。徒歩で森を散策しながらとは、魔法演習から実技訓練に名前を変えた方が良いのではないかと思う。ダンの言う通り武器を使うこともできることからも、それが妥当な名前のように感じられる。ただし、魔法を使ったかどうかはタグに残った魔力から分かるようで、もし魔法を使っていない場合は減点されるらしい。あくまでこれは魔法の講義であり、武器はもしもの時の護身、ということなのかもしれない。


(私は念のため剣を用意したけど、木刀しか握ったことのない素人が使うのは危険だし、魔法だけでクリアしたいわね)


「不安か?」

「っ! ビックリするじゃない! 急に後ろから話しかけないで下さる?」


 何のつもりで先程の言葉を発したのか読めない表情をするディランを軽く睨みつけた。けれどもディランは気にしていないどころかこちらを見てすらいない気がする。目が合っているようで合っていない。どこを見ているのだいったい。


「そうか」

「そうか、って……」

「大丈夫だろう」


 背後から私の隣へ移動したディランはそう言ってきた。無表情ではあるが、心配でもしてくれたのだろうか。


「――俺がすべて倒せば済む」

「それだと私の練習にならないでしょう?」

「時間になったな。行くぞ」

「わかったわよ」


(今までは小さな魔物一匹を木ごと闇魔法で薙ぎ倒して終わっていたけれど、今回は違うわよ。二枚、いや三枚は取ってみせるんだから!)


 制限時間は午後一時から四時までの三時間。それまで彼について行けるのだろうか。体力と筋力は保つのだろうか。

 灰色の空に一抹の不安を残しつつ、ルミナスはディランの背中を追ったのだった。

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