446:人魔大戦:フェーズⅠ その14
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紫の髪の男と、白い髪の女。それぞれ顔の右半分と左半分を仮面で隠した悪魔は、俺たちの接近と共に武器を取り出した。
それぞれ形状は同じ、黒と白のシャムシール。実に対照的な姿であるが、果たしてどのような戦闘スタイルで来るのか。
そんなことを考えている内に、真っ先に相手へと斬りかかったのはアンヘルであった。
「《破壊撃》!」
まるで何も考えていないわけではないだろうが、それでもこの躊躇いのなさはアンヘルの強みだろう。
スキルを纏わせた一撃で狙ったのは、男の悪魔であるゼリオの方だ。
唸りを上げるハルバードは侯爵級悪魔の首を狙い――黒いシャムシールによって受け止められた。
そしてそれとほぼ同時、ポラリスの剣がアンヘルの胴へと放たれる。
だが――
「ッぶねぇな!」
アンヘルに攻撃が届くよりも早く、ランドの長剣がポラリスの長剣を弾き返した。
逸らすのが精いっぱいであったようだが、その攻撃はギリギリアンヘルには通っていない。
どうやら、二人のステータスはこの悪魔たちに劣っている状態ではあるらしい。
全く戦えないというレベルでもないようだが、正面切っての戦いは難しいだろう。
「緋真」
「はい、【紅桜】!」
咄嗟に退避した二人へ追撃を放とうとした悪魔たちへ、緋真が爆発する火の粉を放つ。
光と音を放ちながら爆発する火の粉は、そこらの悪魔であればダメージを与えられる威力にまで達しているが、相手は侯爵級悪魔。この程度ではダメージは通らないだろう。
無論、その程度は織り込み済みだ。
「今回は、強制解放は使わずに倒す。いいな?」
「……やっちゃった方が手っ取り早いと思いますけど」
「だろうな。だが、それができなけりゃ公爵級も、大公級も夢のまた夢だ」
こいつらは強制解放を使わずに倒す。
幸い、敵の数が多いとはいえ、プレイヤー側にもまだ余裕はある状況だ。
今ならば、多少時間をかけて戦っても問題はないだろう。フィノのポイント稼ぎの件もあるしな。
歩法――烈震。
「《練命剣》、【命輝閃】!」
「《術理掌握》、《スペルエンハンス》【インフェルノ】――【緋牡丹】ッ!」
動きを止めた二体の悪魔へ向け、俺と緋真は同時に駆ける。
俺が向かったのは男の、そして緋真が向かったのは女の悪魔だ。
先の様子を見た感じ、こいつらはアンヘル達と同じように、連携行動に慣れている。
故に、こいつらは一緒に戦わせるべきではない。分断させ、各個撃破するのが正解だ。
斬法――剛の型、穿牙。
「しッ!」
「……!」
眩く輝く生命力の刃が、爆発に動きを止めていたゼリオの胸へと襲い掛かる。
しかし、刃が突き刺さる寸前で、差し込まれたシャムシールにより攻撃を防がれてしまった。
(……筋力は相手の方が上か)
分かっていたことではあるが、やはり侯爵級悪魔はまだまだ格上だ。
純粋なステータスだけで考えれば、この悪魔たちの方が上ということだろう。
とはいえ、俺は徹底的に攻撃力を底上げしている。
力押しでは届かずとも、刃さえ届けば相手の身を斬り裂けるであろう。
斬法――剛の型、天落。
相手の足を踏みながら跳躍、前に宙返りをしながら刃を振るい、その首筋へと刃を走らせる。
その一撃は寸前で差し込まれた刃によって受け止められたが、それでも相手の背後に回ることには成功した。
そのまま相手の心臓を貫こうと刃を構え――その刹那、感じた悪寒にすぐさま跳躍してその場を離れた。
そして次の瞬間、俺のいた場所を白い刃が薙ぎ払う。
そこには、いつの間にか出現していたもう一体の悪魔、ポラリスの姿があった。
「ッ……緋真、何があった!?」
「この悪魔、突然そっちに転移しました! 仕組みは不明!」
どうやら、戦闘中だった緋真を無視してゼリオの援護に来たらしい。
どういう仕組みなのかは分からないが、ポラリスの方には転移の能力があることを念頭に置かなくてはならなくなった。
つまり、こいつらを分断することは非常に困難であるということだ。
緋真が雑な攻め方をしていたということはないだろうし、かなり切羽詰まった戦闘中でもあの転移を行えると考えておくべきだろう。
となると――
(分断しても転移でインターセプトされる。白い方だけじゃなく、黒い方にも同じ能力があると考えておいた方がいいし、攻め方でどうにかなる話じゃない。つまり……厄介だが、こいつらは二体同時に戦わなくてはならない)
何らかの手段で転移を封じられればいいのだが、生憎とそのための方法は全く思いつかない。
かなり面倒ではあるが、相手の土俵で戦わなくてはならないようだ。
それに、気にしなければならないのはこいつらだけではない。
「チッ……《蒐魂剣》!」
突如として横合いから飛来した魔法を、青く輝く一閃で斬り裂く。
それと共にこちらへと襲い掛かってきた侯爵級悪魔たちに、俺は舌打ちと共にあえて前へと踏み出した。
歩法――縮地。
俺へと魔法攻撃をしてきたのは、周囲で増え続けている悪魔たちだ。
俺たちと戦っているこの状況でさえ、この侯爵級悪魔たちは悪魔の倍化を止めていない。
増えた悪魔たちは今も要塞へと侵攻を続けているが、その一部が俺たちの方に攻撃を仕掛けてきたのだ。
(厄介、な!)
斬法――柔の型、流水・浮羽。
ポラリスが振るった刃を受け流しながらその勢いに乗り、移動することで次いで放たれたゼリオの一撃を躱す。
間髪入れぬその攻撃に隙は無く、ポラリスの攻撃への対処に足を止めていれば間違いなく命中していたことだろう。
だが、流石にこの位置ならば追撃を受けることも無い――そう考えた瞬間、俺の背後に気配が生じた。
「――――っ!」
視界の端に映っていたゼリオの姿が消えている。
やはり、あちらの方も転移が可能であったらしい。これではポラリスの方への追撃どころではないと、舌打ちしながら回避しようとし――そこに、白い影が割り込んだ。
「シェラート、しゃがんで!」
「ッ!」
横薙ぎに襲い掛かってきた大剣、それを俺が屈んで回避すると同時、振り切られた一閃は背後にいたゼリオへと襲い掛かった。
俺へと攻撃しようとしていたゼリオはそれを中断、唐突に割り込んできたアンヘルの攻撃を受け止める。
その気配を音で確認しながら、俺はすぐさま距離を取っていたポラリスの方へと向けて突撃した。
それと同時、ポラリスはこちらへと向き直り、さらに背後にあったゼリオの気配が消える。
(こいつは――)
歩法――陽炎。
次の瞬間、ゼリオが現れたのは俺の左前方。
その攻撃を陽炎による幻惑で回避し、次いでこちらに放たれたポラリスの魔法を《蒐魂剣》で斬り裂く。
結構な威力ではあるが、牽制程度に放たれた魔法であれば斬ることは難しくないようだ。
ポラリスの属性は光。この対照的な姿を見るに、ゼリオの属性は闇か。
魔法に対処しながら接近すれば、ポラリスは再び刃を構え――それと共に、再びゼリオが転移によって姿を現した。
(……やはり、俺に注意を払っているか)
どうやら、この侯爵級悪魔たちは俺に対して特段の警戒心を抱いているらしい。
デルシェーラから何か吹き込まれていたか、それともこれまでの戦闘からそう判断したか。
何にせよ、こいつらは俺に対してだけはこうして過剰なまでに警戒するような動きをしているのだ。
面倒ではあるが、それはそれで利用できる可能性がある。
「緋真!」
「……了解です、フォローはします」
俺がやらんとしていることを察したのか、緋真は顔を引きつらせながら首肯する。
やることは単純だ。奴らが俺に集中しているのであれば、それを逆に利用してやればいいだけの話である。
俺を狙い移動してきた相手を、他のメンバーで攻撃を加えればいいのだ。
「久しぶりの共同戦線だ、勘は鈍ってないだろうな?」
「それはこの間確かめたでしょう?」
「フォローするから好きなだけ暴れてくれ。その分、こっちがやりやすくなるからな」
二人の戦友の言葉に、頬を歪めながら重心を落とす。
まだ、相手の悪魔の底は知れない。故に、まずは相手の手札を知ることが先決だ。
その全てを丸裸にしたうえで、正面から打ち破ってやるとしよう。