445:人魔大戦:フェーズⅠ その13
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「あっははははは! 結構歯応えが出てきたじゃないですか!」
風を切る音とともに振り回されるアンヘルのハルバードが、悪魔たちを纏めて吹き飛ばす。
一体どんなスキルを併用しているのかは分からないが、大層な攻撃力であるようだ。
振り切ったハルバードは即座に姿を消し、次に出現するのは二振りのハンドアックス。
アンヘルの体勢を見てチャンスだと思ったらしいアークデーモンは、瞬時にその顔面を叩き割られることとなった。
とはいえ相手も頑丈で、頭に斧が突き刺さっただけではまだ死なないらしい。
動きを鈍らせながらもアンヘルへと襲い掛かろうとし――その首が、音も無く迫った黒い刃の一閃によって斬り飛ばされた。
「遊びすぎだ、アンヘル」
「貴方が来てくれるって分かってましたから」
前へと突っ込むアンヘルのサポートをするのはランドの役目だ。
黒い長剣を振り切った彼は、武器を即座に換装して銃撃を放ち、前方の悪魔たちを足止めする。
そして次の瞬間、爆発的な加速と共にアンヘルが前方へと向けて飛び出した。
その手に握られているのは銀色に輝く突撃槍。馬上で使うような武器を平然と振りかざしながら、彼女はその切っ先で三体の悪魔を同時に串刺しにした。
「『アインス』!」
その直後、アンヘルは突き刺した槍を足場に跳躍しつつ、その槍を消し去る。
高く舞い上がった彼女が次に出現させたのは、長大な刃を持つ大剣、ツヴァイヘンダーであった。
ただでさえ大層な重量を持つその剣は、その高さからの勢いも相まって、防御しようとしたアークデーモンをその上から真っ二つに斬り裂いて見せた。
流石に、あの威力はスキルを使わなければ俺でも難しいだろう。
「相変わらずだな。こっちも負けちゃいられない」
アンヘルとランドが暴れているおかげで、敵の動きも若干鈍っている。
これならば、手数としても十分だろう。俺は笑みを浮かべつつ、アンヘルが踏み込んだ最前線へと身を躍らせた。
「《練命剣》、【命輝一陣】」
まずは牽制の一撃――と言ってもデーモン程度であれば一撃で両断できる威力のそれを放ちつつ最前線へと躍り出る。
血を噴出させながら倒れる悪魔たちを踏み越えて、その群れの中へ。
やることは単純だ。まずは、敵を動けない状態にしてしまうことである。
「《奪命剣》、【咆風呪】」
クールタイムを終えたテクニックを即座に発動し、悪魔の群れを黒い闇で包み込む。
まとめてHPを削ることができるこのテクニックは本当に便利なものだ。
それだけでただのデーモンはほぼ瀕死に、アークデーモンでも十分に体力を削ることができるのだから。
黒い風が過ぎ去った後には、脱力感によって動きを鈍らせている悪魔の群れの姿が。そして当然――
「『ドライ』!」
「【紅桜】!」
動きを止めた悪魔たちへと向けて、近距離の相手にはアンヘルの横薙ぎが、そして遠距離の相手には緋真の放つ爆炎が襲い掛かる。
丸ごと吹き飛ばされてぽっかりと空いた穴――そこへと向けて踏み出しながら、ランドがインベントリから取り出した物体を前方へと向けて投げつける。
そしてそれを抜き打ちで放った弾丸が撃ち抜き、周囲へと向けて黒い液体を降り注がせた。
飛び散った液体はすぐさま同色の煙を発生させ始め、悪魔の群れを気色の悪い色の煙で包み始める。
「お嬢さん、あそこに火を頼む!」
「わ、私ですか!? 《スペルエンハンス》、【フレイムストライク】!」
ランドからいきなり声をかけられて驚いたらしい緋真であるが、その反応は迅速だった。
即座にストックしていたらしい魔法を発動した緋真は、燃え盛る炎を黒い煙に包まれた悪魔たちへと放ち――突如、爆発が起こったかのように炎が膨張した。
可燃性の液体や気体……というわけではないのだろう。どちらかというと、触れた炎そのものが増幅したかのように見えた。
「この世界は色々と興味深いよな、シェラート。条約に縛られているわけでもないから、思いついた兵器をすぐに試せる」
「……向こうでもかなりスレスレなことをしてただろ、アンタ。まぁ、相手がMALICEなら何でも構わんがな」
「ははは、ただの魔法錬金薬さ。お前さんがつるんでる商会の姉さんも同じだろう?」
「使えるものは何でも使う、か。確かにその通りだな」
大砲だの都市結界の強化だの、訳の分からない準備をいくつも整えてきたエレノアの姿を思い浮かべ、思わず苦笑する。
あれと比べれば、確かにランドの実験など可愛いものだろう。
増幅した炎に巻かれた悪魔たちは、即死はせずとも大ダメージを受け、更に『炎上』の状態異常を受けている。
緋真の持つスキル《燎原の火》は、『炎上』の効果を高める能力を持っているため、あの火が簡単に消えることはないだろう。
そうしてのたうち回る悪魔たちは――
「グルルルルッ!」
躊躇なく襲い掛かったシリウスによって、あっさりと踏み潰されることになった。
多少ダメージを受けている様子のシリウスではあるが、まだまだ健在だ。
ルミナもきちんと目を光らせているようであるし、放っておいても大丈夫だろう。
そのまま次なる獲物へと向けて走り出すシリウスの姿に、再びハルバードを手にしたアンヘルが楽し気な笑みと共に声を上げる。
「さっきも見ましたけど、派手なペットを飼ってるじゃないですか」
「ペットってなぁ……まあいいが、あいつとは仲良くしておいた方がいいかもしれんぞ? もしかしたら鱗を分けてくれるかもしれんからな」
「え、真龍の鱗を? 本気で言ってます?」
「ああ、緋真やアリスがたまに貰ってるところを見るからな」
シリウスはあくまでも俺のテイムモンスターであるのだが、緋真たちのことは群れの仲間とでも思っているのか、剥がれた鱗を分け与えることがあるのだ。
無論、大半は俺に対して渡されているのだが、緋真やアリスも多少は受け取っていた筈だ。
どういう表現なのかは謎だが、シリウスなりの信頼の証なのだろう。
俺の言葉を聞いて真顔になったアンヘルは、そのまま無言でシリウスが向かって行った方向へと走り出す。何ともまぁ、分かり易い女だ。
「……いつもながら、欲望に忠実だな、あいつ」
「ははは……まあ、戦果は上げるからな」
乾いた笑みを浮かべるランドは、溜息を吐き出しつつもアンヘルを追って走り出す。
あいつを一人にするとどこまで暴れるか分からないのだ、当然の措置と言えるだろう。
そんな二人の背中を見送って、緋真は曖昧な表情を浮かべながら声を上げた。
「あのお二人、国連軍時代のチームの人なんですよね?」
「ああ、その中でもトップクラスの実力者だったな。ちなみに事情は知ってるぞ」
「成程……凄いですね」
緋真は、そう素直に感嘆の言葉を零す。
単純な個人の実力としては、恐らく今の緋真の方が上であろう。
だが、二人そろっての戦闘となった場合、あの連携は緋真の実力があったとしても再現はできまい。
あれは相方の一挙手一投足、果ては呼吸すらも完璧に把握しているからこその連携だ。普通の人間に真似できるようなものではない。
その異常さがどれほどのものであるかは、この短い時間の攻防だけで十分に把握できたのだろう。
「ま、あいつらがおかしいのは今に始まった話じゃないがな。それより、ぼーっとしてる暇はないぞ?」
「っと、そうですね。標的も近付いてきましたし」
倍増して押し寄せてくる悪魔の群れ。
二体の侯爵級悪魔は、未だ続く悪魔の軍勢を増やし続けているらしい。
だが、そのせいなのかは知らないが、当初いた位置から動いている様子もない。
そして、その侯爵級悪魔が待ち構える位置へとむけて、大暴れするシリウスが向かっていく。
「《練命剣》、【煌命閃】」
「【火日葵】!」
そして、そんなシリウスを背後から狙おうとする連中を、俺と緋真の放ったテクニックが押し返す。
シリウスの近くでも、多数の悪魔をアンヘルとランドが片付け、ルミナがその援護を行っている。
悪魔からの攻撃を受けても揺るがぬシリウスは、周囲を薙ぎ払いながら大きく息を吸い――
「ガアアアアアアアアアッ!!」
鋭い刃のブレスを放ちながら、首を大きく横へと振った。
前方を薙ぎ払いながら放たれたブレスは、広範囲に渡って悪魔の群れを蹂躙する。
足元ではしゃいでいるアンヘルは、どうやら間近でドラゴンのブレスを見られて大興奮の様子だ。
だが、だからと言って標的を見逃すほど遊び気分ということもあるまい。
「っ、先生!」
「ああ、見えた!」
シリウスが薙ぎ払い、吹き飛ばした先。
悪魔たちの姿がぽっかりと消えたその空間に、二体の悪魔が立ち尽くしている姿が目に入る。
それを目視した瞬間、俺と緋真、そしてランドとアンヘルは同時に地を蹴った。
対するは侯爵級悪魔、相手にとって不足はない。俺たちの姿を認め、悪魔たちもまた戦闘態勢を取り――ついに、真の戦いが幕を開けたのだった。





