442:人魔大戦:フェーズⅠ その10
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黒いオーラを撒き散らしながら、悪魔の群れの中へと駆ける。
流石に氷の上に乗るのは足場が悪いため、氷を抜けてきた悪魔が標的ではあるが、それでも数は十分だ。
視界を埋め尽くすほどの量の悪魔は、その分だけ大量のHPを餓狼丸に分け与えてくれる。
残念ながら上空のデルシェーラまで巻き込むことはできていないようだが、それでも餓狼丸の吸収には十分すぎるほどの標的がいるのだ。
徐々に刀身を黒く染め上げて行く餓狼丸は、時間を追うごとにその鋭さを増していく。
ただのデーモン程度であれば、最早三魔剣を使うまでもなく斬り裂くことが可能だった。
尤も――
「《練命剣》、【命輝一陣】」
多くの敵を斬り払うには、やはりテクニックを使った方が効果的であるのだが。
【武具神霊召喚】の効果は、遠距離攻撃であろうとも適用されている。
横薙ぎに放った生命力の刃は、迫りくるデーモンたちをその防御ごと纏めて斬り裂いた。
せめて防御魔法でも使わなければ、この一撃を防ぐことはできないだろう。
歩法――烈震。
「し……ッ!」
崩れ落ちていく悪魔たちの間に分け入って、その先の標的へと向けて刃を振るう。
突き出した一撃は胸を穿ち、停止した俺は強く踏み込みながら刃を上へと振り上げる。
派手に噴き出る血を尻目に、崩れ落ちる悪魔の体を蹴りながら跳躍、こちらへと突き出されてきた槍を回避する。
(……ただの悪魔も武器を使い始めるか)
デーモンナイトたちが持っているような黒い武器だが、それを握っているのはただのデーモンだ。
これまでは素手と魔法で襲い掛かってきていたデーモンたちだが、どうやらレベルが上がると武器を使う個体も出てくるようになるらしい。
尤も、俺からすれば武器を持っている相手の方が対応し慣れているのだが。
思わず苦笑しながら、俺は足元を通り抜けた槍を踏みつけて相手の体勢を崩した。
つんのめるように前屈みになった相手へ、その動きに合わせるようにしながら刃を放つ。
そうしてカウンター気味に入ることになった一閃は、容易く悪魔の首を斬り飛ばした。
「――《蒐魂剣》、【護法壁】」
直後、俺を狙って飛来した魔法に対して《蒐魂剣》を発動する。
全方位から飛来したため、全てを防ぎ切ることは不可能だ。
だが、正面は今まさに斬った悪魔の死体があるため射線は切れている。
残りの反対側を護法壁で受け止めつつ、俺は正面の死体を魔法の方へと向けて蹴り飛ばした。
複数の魔法を巻き込んで爆ぜる死体を尻目に、後方の魔法を防ぎ切ったことを確認して餓狼丸を戻す。
全てを防ぎ切ることはできなかったが、多少の余波程度は【断魔鎧】で防ぎ切ることが可能だ。
故に、それらは一切無視して、飛び散った死体の先へと駆ける。
「《練命剣》、【煌命閃】」
餓狼丸の刀身に生命力を込めながら駆ける。
前方にいるのはすらっとした姿の悪魔――どうやら、デーモンではなくアークデーモンであるらしい。
アークデーモンがこちらへ手を向けると、奴の周囲にいくつもの炎の弾が出現する。
そしてその直後、こちらへと放たれるのは予想通りの炎の弾丸だ。
歩法――陽炎。
緩急をつけ、左右に揺れるようにしながら前に進む。
俺を狙い損ねた炎の魔法は見当違いの場所を貫き、効果を及ぼすことなく過ぎ去っていく。
攻撃を当てられずに苛立っているのか、アークデーモンは一際大きな炎を出現させる。
大きく放たれた魔法――しかし、俺はそれに対し、スライディングをしながら突撃した。
「――――ッ!」
斬法――剛の型、扇渉。
身を焦がすような熱量が頭上のすぐ上を貫き、けれどそれを意に介することなく俺はスライディングしながら前へと進む。
刃のなぞる軌跡と共に、黄金に輝く生命力の刃が広がり、横合いにいた悪魔たちを纏めて薙ぎ払っていく。
そして――
斬法――剛の型、扇渉・親骨。
強い踏み込みと共に刃の軌道が跳ね上がり、アークデーモンの肩口へと振り下ろす。
ただでさえ攻撃力が増してきている餓狼丸は、さらに大量の生命力を纏って強化されている。
その一撃を受け止めきれる筈もなく、アークデーモンは袈裟懸けに両断された。
「く、はは……! 《奪命剣》、【咆風呪】!」
次いで、溜めた呪いを解き放ち、悪魔の群れから体力を吸収する。
《練命剣》によって消費したHPはこれでまとめて回復しつつ、俺は周囲の状況を確認した。
要塞の門は開き、既に多くのプレイヤーが外に吐き出されている状況ではある。
当然ながら、開いている門を目がけて悪魔たちが殺到しようとしているが、そちらは大暴れするシリウスが素直に通れぬように留めている。
多少通れている悪魔もいるが、数多くのプレイヤーがいる状況では多少の悪魔が向かったところでただの餌でしかない。あの程度であれば問題はないだろう。
「【紅桜】!」
一方で、緋真は俺とは少々離れた場所で戦闘を続けている。
振るう紅蓮舞姫より放たれた炎は次々と爆炎を巻き起こし、悪魔たちを纏めて薙ぎ払っている状況だ。
技術も何もないが、多数を相手にする上では非常に強力な能力だろう。
火力の上昇している緋真もまた、デーモンだけではなくアークデーモンとの戦いも苦とはしていない様子だ。
あれならば、こちらから援護を行う必要はないだろう。
(アリスは分からんからいいとして、ルミナとセイランは――)
セイランについては探すまでも無い。風と雷を撒き散らしながら、そこら中を駆け回っている状況だ。
そのスピードは悪魔に捉え切れるものではなく、縦横無尽に走り回りながら、物理攻撃と魔法攻撃を組み合わせて敵を薙ぎ払っている。
あそこまで派手に使っていると消耗が心配だが、まあMPが足りなくなれば戻ってくるだろう。
一方、ルミナはシリウスの近くで戦っている状況だ。
最も多くの悪魔を引き付けているのがシリウスであるため、当然ながら攻撃は受けてしまっている。
アークデーモンが含まれている現状、シリウスのダメージも決して馬鹿にはならない状況だ。
故に、ルミナによる回復の援護が必要だ。回復さえできれば、シリウスの戦いに不安などない。
ルミナも光を宿した刀で悪魔を斬り払っているし、どちらも問題は無さそうだ。
「これなら、しばらくは問題ないか。さて――」
しばらくはこのまま戦うかと、改めて決意を固めた――その、刹那。
背後より響いた音に、俺は思わず眼を見開いた。
「ルォォォオオオ――――ッ!」
「……!?」
遠吠えのような、長く鋭い声。
それは悪魔たちの側ではなく、要塞の方角から響いたものだ。
魔物の咆哮に思えるものであるが、それが要塞内部から響いたものであれば拙い。
舌打ちと共に振り返り走り出そうとするが、内部から出てくるプレイヤーが一切慌てていない状況に足を止めた。
内部に魔物が出現したのであれば、もっと混乱が生じていてもおかしくは無いはずだ。
一体何が起こっているのかと目を凝らすと、外壁の上から白いドラゴンの頭が覗いているのが見えた。
あれはアルトリウスの真龍だが……一体、何をするつもりだ?
「ルォォォオオオ――――ッ!」
俺の疑問を他所に、白い真龍は再び同じ咆哮を上げる。
その内容を【アニマルエンパシー】で改めて聞き取り、俺は思わず眉根を寄せた。
恐らく、これはアルトリウスからの伝言だろう。それも、俺に向けたものではなく――
「……良いのだな、異邦人たちよ」
――今も上空で戦っている、黒龍王に向けたものだ。
同じドラゴンであれば意味を読み取ることができ、そしてデルシェーラには読み取られないと踏んでの行動なのだろう。
だが、その内容は驚くべきものであった。その指示を出したエレノアが正気なのかと、思わず疑ってしまうほどに。
しかし、もはや止める術はない。戦況は大きく動こうとしている。
思わず舌打ちしつつも、今の俺にできることはない。ただ、目の前の相手に集中するだけだ。
意識を切り替え、俺は向かってくる悪魔を再び斬り伏せたのだった。





