443:人魔大戦:フェーズⅠ その11
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戦闘開始してからそれなりの長い時間が経ってるが、未だ敵の数に衰えは見えない。
というより、むしろ前よりも更に層が厚くなってきているようにも思える。
これまではデーモンが大半であったというのに、そこそこの数のアークデーモンが混じるようになってきているのだ。
爵位持ちでないとは言えども、多少は集中しなければ倒せない相手。俺たちでも多少時間を食うのだから、他のプレイヤーにとっては更に厄介な存在であろう。
プレイヤーが増え、手数も多くなってきてはいるのだが、それでも事態が好転しているとは言い難い状況だ。
序盤に雑魚を押し付けてこちらに消耗を強いた上で、後から本隊をぶつける作戦か。悪魔がどこまで考えているのかは不明だが、そうである場合は向こうにとっては未だ想定の範囲内ということになってしまう。
公爵級悪魔、デルシェーラ。奴はどこまで考えているのか。そして、どこまでが作戦なのか。
未だその辺りがはっきりとしないが、何とも気味の悪い状況だ。
(……エレノアの作戦で、奴の底が見えればいいんだがな)
エレノアとアルトリウスからの作戦を聞き、黒龍王はデルシェーラ相手により苛烈な攻めを行うようになってきている。
結果として僅かながらに隙を見せることになってしまっているが、それも作戦の一部なのだろう。
闇属性に特化している黒龍王は、火力そのものについては赤龍王と比べて控えめだ。
どちらかと言えば搦め手が得意なのだろうが、デルシェーラの方もあまり積極的には攻撃せずに隙を窺うように動いているせいか、どちらも様子見で千日手に近い状況となっていた。
だが、苛烈な攻めを行うようになった結果、デルシェーラは防御に専念しながらも反撃のための魔法を準備し始めているように見える。
ある程度のダメージを受けることを許容して、反撃のための準備を行っているのだ。
「……本当に大丈夫なんだろうな」
ディーンクラッドの力を肌で感じたからこそ分かる。公爵級悪魔の攻撃は、人間の作った都市を破壊するなど容易に過ぎる。
デルシェーラが本気で魔法を放てば、都市一つを壊滅させることなど難しくはないだろう。
だからこそ、黒龍王はこれまで慎重に立ち回ってきた。彼自身が強くとも、俺たち人間が脆弱であるが故に。
けれど――
「焦りましたなぁ、闇の龍王様? そないな様子じゃ、ほらこの通り――」
溢れるような闇に身を削られながら、それでも氷の悪魔は凄惨に嗤う。
黒龍王の魔法を左手にある氷の楯で受け止めながら、構える右の手には巨大な魔力が渦を巻いていた。
そしてデルシェーラが右手を掲げると共に、巨大な氷の渦が出現する。しかし、それが向かう先は黒龍王ではなく、その後ろにある要塞であった。
デルシェーラは、黒龍王が要塞を庇う前提でこの魔法を放ったのだろう。確かに、その魔法は俺が強制解放を使っていたとしても完全に相殺しきれるかは分からないレベルのものだ。
その強大極まりない魔法を――黒龍王は、一切無視してデルシェーラへと襲い掛かった。
「な――――ッ!?」
「焦ったのは貴様の方だ、魔女め!」
荒れ狂う氷の渦を躱し、黒龍王は黒い魔力の滾る拳をデルシェーラへと振り下ろす。
黒龍王が防ぐとばかり思っていたデルシェーラはその攻撃に反応できず、爆発音にも近い魔力の炸裂と共に地面へと叩き付けられることとなった。
それを見ながら、黒龍王は大きく息を吸う。ドラゴンの長たる彼がやることは一つだろう。
一方で、デルシェーラが放った魔法が消えることはない。都市を氷漬けにするほどの魔力を含んだ氷嵐が、手始めにアルトリウスたちのいる門を氷に閉ざそうと荒れ狂い――
「――今よ、やって!」
――そんな中でさえ、エレノアの凛とした声は強く周囲へと響き渡った。
その瞬間、薄紫に輝く光が要塞の中心から立ち上り、それと共に外壁を覆うように半透明の障壁が天へと向けてそそり立つ。
それは、あらゆる都市に備えられた機能たる石碑、その力を何らかの方法で増幅したものであるようだった。
本来の石碑には魔物を退ける力はあるが、流石に公爵級悪魔の攻撃を弾き返すほどのものではない。
しかしながら、エレノアが行ってきた準備は、それに対抗し得る力を発揮してみせた。
薄紫の障壁は、軋むような音を立てながらも、デルシェーラの魔法を見事に防ぎ切ったのだ。
「人間を侮ったな、悪魔。彼らは無力ではない、それを知るがいい!」
大きく息を吸った黒龍王は、その口腔内に莫大な魔力を収束させる。
龍王の放つブレス。それがどれほどの力を持っているのかは、金龍王との戦いで痛いほどに理解している。
ましてや、今回は一切の加減のない、本気の一撃。黒龍王は、地に叩き付けられたデルシェーラへと向けて、その魔力を一気に解き放った。
「ッ……!」
重心を落とし、余波だけで吹き飛びそうになる体を支えながら、じっとその様子を観察する。
黒龍王の放ったブレスは、周囲にいた悪魔ごとデルシェーラの体を飲み込んだ。
黒い魔力の奔流は、触れたものを削り取るような性質を持っているらしく、衝突するとともに拡散したブレスは、地上にいた悪魔たちを抵抗の間すらなく消滅させてしまった。
俺でも余波程度であれば防ぐことは可能だろうが、直撃ではどうしようもない。
黒龍王のブレスはデルシェーラを飲み込み、その威力を存分に発揮しながら奴の体を地の底まで押し込んでいく。
しかしそれも永遠ではなく、黒い柱のように見えていたブレスは徐々に細くなり、後に残るのは巨大なクレーターのみであった。
「やりましたか……?」
あらゆるものが消滅したクレーターの様子を眺め、恐る恐る緋真が呟く。
しかし、その言葉に俺は首を横に振った。
確かに、黒龍王の力は強大極まりないものであった。
しかしながら、その直撃を受けて尚、デルシェーラの魔力は消え去ってはいなかったのだ。
「嗚呼、全く……ほんに、やってくれますなぁ」
クレーターになっていた地面の中心、地の底まで深く穿たれていたその穴から、青白い魔力を放つ悪魔が姿を現す。
優美な着物はボロボロになり、削り取られた体より流れた緑色の血によってどす黒い色に染まっている。
しかしながら、その目に込められた殺意は一分の陰りも見えていない。
いかなる方法で防いだのかは分からないが、どうやら致命傷には届かなかったらしい。
「けれど、あんさんの仰る通り、舐めとったのは事実やねぇ……ディーンクラッドはんと戦った者だけが優秀いうわけやないってことや」
「問答は無用だ、公爵級悪魔。お前は、真龍と人間の力によって敗れる」
「はぁ……怖い怖い。けどまぁ……義理は果たしたし、ここいらでええやろ」
デルシェーラはそう呟き――次の瞬間、その体が突然透け始めた。
その姿に、黒龍王は目を見開き唸るように声を上げる。
「貴様、逃げるつもりか!」
「元より、今回は様子見や。うちらの王様も、今回だけで仕留め切れるとは思うとらんよ。見たかったもんも、見れたことやしなぁ」
そう口にするデルシェーラは、ちらりとこちらに視線を向けた。
やはり、ディーンクラッドを倒した俺たちに対する注目度は高い様子だ。
「確かに強い。せやけど、まだまだ……今後に期待、ってところやね。ほんなら、この子たちと遊んどってな」
デルシェーラがそう告げた途端、彼女の周囲に二つの魔法陣が出現する。
そして、そこからにじみ出るように姿を現したのは、一組の男女の姿。
男は顔の右半分を黒い仮面で隠している紫色の髪の人物で、逆に女の方は左半分を白い仮面で隠す白髪の人物だ。
その身から放たれる魔力は強大で、奴が人間ではないということは容易に想像がつく。
恐らく、あれは――
「ゼリオ、ポラリス。あんさんたちに任せるんで、あんじょう気張りや」
「承知しました、デルシェーラ様」
「侯爵級第十四位、双子星のゼリオとポラリス。敵を殲滅いたします」
姿を現した二体の悪魔――これまで対面することのなかった、侯爵級の存在。
それらを囮にしたデルシェーラは意味深な笑みを残したまま姿を消し――後に残った二体の悪魔は、その身から強大な魔力を迸らせたのだった。





