ninety fourth story
私達は、優香たちに手を振って屋上へと向かった。
龍崎の手は、私の手をぎゅっと掴んでて、その手はとても暖かかった。
屋上はやっぱり寒かった。
それでも龍崎が居るだけで、居心地がいい場所だった。
それでも寒かったのか、龍崎は私の手を引いて、日なたに座った。
「ありがと。」
龍崎はボソッと呟く。
「・・・・結構、楽しいんだな。ここって・・・。たまには、佐々木とかと話すのも悪くないかもな・・・。」
そして、柔らかな笑みを浮かべた。
その様子からは、朝の不安感や緊張感、そうゆうの全てが消えていた。
「たまにはいいでしょ?友達と居るのも。まぁ、少し寂しいけど。」
そういうと、龍崎はまたきれいな顔で笑う。
良かった。
本当の目的は果たせてないけど、龍崎が幸せそうな顔をしているのを見てそう思った。
私はクスッと笑って、弁当箱を龍崎に渡す。
「えっ?作ったのか!?」
龍崎はそれを意外そうな顔で受け取った。
そりゃぁ、龍崎のほうが料理のセンスはあるだろうケド・・・。
「私だって、それぐらい作れるし!!」
馬鹿にスナ!!って、少し怒ると、龍崎はいたずらそうに笑って、卵焼きを口に含んだ。
そして、この一言。
「うわ!本当に作れたんだ。」
・・・・・・・やんのかい?
ちょっと、本気で飛びかかろうと思った。
まぁ、その後可愛く笑ってたから・・・結局許しちゃったけど。
「そ〜いや・・・、明後日はクリスマスだよな。」
龍崎が、ベーコン巻きを口に含みながら思い出したように言う。
「あ〜、だね。そっか、クリスマスの日にお母さん、帰ってくんだっけ?」
私も、ご飯を食べながら言う。
「・・・・・・・じゃなくて・・・、いや、そうだけど。」
少しの沈黙の後、龍崎は手でバンと床を叩いた。
少し驚いて、龍崎の顔を見ると、心なしか赤かった。
「・・・俺は・・・何か欲しいものがあるかって、言ってんの!」
それぐらい分かれよ、マヌケ。と、龍崎は赤い顔を隠すように呟いた。
欲しいもの・・・?
そっか、クリスマスだからか!!
私は、ポンッと、手を合わせる。
そんな私を、龍崎は馬鹿を見るかのような目で見ていた。
「・・・・・だから、ないのか?」
急かすように言う龍崎。
「そぉいわれてもさぁ・・・。」
別に、欲しいものなんてそんなパッと思いつくもんじゃないよ・・・。
それに、今、本当に幸せだし。
龍崎が居て、お父さんとお母さんと妹居て、親友が居て・・・。
これ以上の幸せなんて、あるのかなぁって感じ出し・・・。
「・・・・龍崎は?」
「あ?」
「龍崎は欲しいものはないの?」
そういうと、龍崎は少し考えて、
「・・俺の質問が先だろ。」
そう、顔をそらした。
あっ・・、逃げやがった。
欲しい・・・物・・・。
「・・・私は・・・、龍崎が居てくれるだけでいい。」
いつも、これからもずぅっと、私の傍に。
「・・・えっ?」
龍崎は一瞬眉間にしわを寄せた。
そして、すぐ、真っ赤になった。
やばい。
絶対私も真っ赤だ。
心臓の音が周りの音を遮っていた。
「・・・・・・んなん、当たり前だろ。」
龍崎はそっと私の頬に手を添える。
そして、ゆっくりと顔を近づけてきた。
「なに、可愛げなこと言ってんだよ。」
「かぁおぉるぅくぅん!!」
バンという、ドアが乱暴に開けられる音と共に甲高い、思わず殴ってしまいそうになる声が聞こえてきた。
思わず、二人でガバッと後ろに行った。
沙織は顔を赤くしてる私を少し睨んで、龍崎の下へ駆け寄った。
「うちらも、ここで食べていい?」
沙織と奈津実は、龍崎の前にしゃがみこんで猫をかぶって言う。
「・・・・・、別に、いいよ。」
それに対して、龍崎はあの優しげな笑顔で許可した。
―――――え?・・・なんで?
沙織たちは、キャーキャー喜んで、私に嫌味な笑いを向けると龍崎の隣に座った。
その様子を私は、ただ、ただ、呆然と眺めているだけだった。
イラ
また。
まただ。
胸が締め付けられるような不快感。
私は、自分の腕をぎゅぅっと握って、その感情を抑えていた。
さっきは、友達より私を選んでくれたのに・・・。
わきあいあいと話す龍崎たちが、とても目にしみた。