sixty nineth story 馬鹿だ・・。
不気味な男について行っていた、神田を見つけ、追いかけたのはいいが・・・・・。
神田が可愛すぎて、守りたくなってしまって、俺はいつの間にか抱きしめていた。
神田はとても暖かくて、柔らかくて、細かった。
少し力をいてると簡単に折れるぐらい。
神田も、俺の背中に手を回してきてくれて、少し・・・・・だいぶ嬉しかった。
でも、その数秒後俺は引き離された。
2本の細い腕によって。
『恵里がいるでしょ?』
涙の乾ききらぬ目で神田はそう言った。
どこか、悲しそうな、つらそうな顔をして、確かにそう言った。
なんで、田上が出てくるんだ?
俺は詳しく話を聞こうとして、神田の腕に手を伸ばしたが、それはするっと抜けてしまった。
そして、走って行ってしまった。
追いかければ間に合ったのに。
足はまるで地面に縫われたかのように動かなかった。
「・・・・・んだよ。」
神田の訳の分からない言動に俺は相当イラついていて、鼻水をたらしながら倒れている男を、少し踏みつけておいた。
とぼとぼと帰路についていると、家の前にまだ赤いスポーツカーが止めてあった。
「まだ、いんのかよ。」
そうぼやきつつも、嫌じゃなかったりする。
途中、コンビニで買った弁当を手に、玄関を開けると目の前に直哉が正座していた。
なにやら、俺を睨みつけるかのように正座していた。
「・・・・・・・・・・・なにしてん・・。」
「お前・・・・・・・そんな奴だったんだ・・・。お前は、奈緒ちゃんが好きなんじゃなかったのかよ!?」
ナッ!!
顔の温度が急上昇するのが分かる。
なんで知ってるんだ?
俺、言ったか?
・・・・・言ってない。
命かけて言ってない。
じゃぁ・・・・何で?
「おまえさぁ・・・・、俺にばれてないと思うわけ?天下の直哉様だぞ?」
いつもなら、スルーしていた言葉だが、今は何も言い返せなかった。
「奈緒ちゃん、お前が恵里だっけ・・?そいつと付き合ってるって、泣いてたぞ?」
ハッ?
ナイテイタ?
誰が?
カンダガ。
何で?
オレト タガミガ ツキアッテルカラ。
俺、付き合ってたか?
・・・・・・いや、付き合ってない。
あの時、振ったはずだ。
というか、振った。
なんで、神田が・・・?
「だからか・・・。」
ようやく、さっきの神田の意味不明な行動が理解できたような気がする。
きっと、どこかで俺と田上が付き合ってると誤解していたんだ。
馬鹿。
ホントに、馬鹿だ。
俺もだけど・・・、アイツが。
泣いてるとか・・・。
期待するだろ?
俺と田上が付き合ってると思って泣くとか・・・・・・。
俺が好きなのはアイツなのに。
「・・・・・・・馨君?何笑ってるの?」
直哉が不気味そうに見てくる。
俺は知らないうちに笑っていたようだ。
まぁ、確かに嫌な気持ちは無い。
「明日、誤解、解いとく。」
俺はそう言って、直哉に弁当を投げつけた。
そして、そのまま部屋に上がった。
ベットに飛び込むと、笑がこみ上げてきた。
自分で、キモイと思った。
でも、止められない。
明日、どうやって誤解を解こうか・・・・?
俺は、屋上でのことを思い出してみた。
月明かりがかすかに窓から漏れていた。