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sixty eighth story

「君、可愛いね。俺と一緒にお茶しようよ?」


じわじわと私を包んでくる闇の中、見知らぬ男が話しかけてくる。


どうしよう・・・?

もう、どうでもいいかな?



「・・・・・・・うん・・・。」



私がそう言うと、男は怪しげに笑って、私の手を掴む。


・・・・ヤバイかも・・・。



そう思ったけど、私の体と心は別の物みたいに動かなかった。



なすがままに引っ張られる。


前を歩く男からは、汚らしい感情があふれ出ていた。







その男はどんどん人気の無いところへ引っ張っていく。



目の前には、廃止された古びた工場が見えた。



ドクン



ココまで来て、やっと体が動き出した。



「嫌だ!やっぱ止めます!離して下さい!!」


叫んで、必死に手を解こうとしたけれど、その男の手は離れなかった。

それどころか、暴れる私を見て気持ち悪く笑っていた。



怖かった。


男から溢れる感情が。

一向に離れようとしない手が。

私を見て笑ってるその男が。




・・・・・・・もう、駄目だ。



私は諦めた。

もう、どうなってもいい。



それでも私の頬には涙が流れた。



最後に龍崎に会いたかったな・・・。





男のてが私に伸びてくる。


ぎゅっと、目をつぶった。















「おまえ、馬鹿じゃねぇの?」



―――――――――――えっ?



ゆっくり眼を開けると、目の前には龍崎が息を切らせながら立っていた。


男は殴られたのか、倒れていて、さっきまで掴まれていた場所は、あの男の手の変わりに龍崎の手があった。




「聞いてんの?」



龍崎は怒っていた。

目の前にいる男を蹴ってから、私のほうに振り返った。



「何やってんの?何、変な男に付いて行ってんだよ。」


その目は、まっすぐ私を見ていた。


「ごめんなさい。」


涙が勢いよく流れる。


怖いからじゃない。

怒られたからじゃない。


龍崎が助けに来てくれたから、それが嬉しかった。



「・・・・・・馬鹿。」


龍崎は私の頬を伝う涙をそっと親指でぬぐった。





そして、ゆっくり私を抱きしめた。



全身に漂う、龍崎のカオリが、私を安心させた。



このまま時間がとまればいいのに・・・・。



でも・・・、この人には、恵里が居る。




「離して。」


私は龍崎の体を両手でゆっくり押す。

龍崎は目を丸くさせた。


「駄目じゃん。恵里が居るでしょ?」



そう言って、涙を自分でふき取ると、私は走った。


後ろで龍崎が何か叫んでいた。



私は、聞こえない振りをした。


実際、聞き取れなかったけど。
















どれくらい経ったのだろう?


もう、ほとんどの店はしまっていた。

町は、活気をなくして、ただ、夜道をふらつく若者や、野良犬の声だけが響いていた。





そんな町の街頭を頼りに歩いていると、横に車が止まった。



見慣れた赤いスポーツカー。



直哉さんだった。



「どうしたの?奈緒ちゃん。こんな時間に・・・・あぶねいぞ?」



「・・・・・・直哉さん・・・・。」



優しい直哉さんの顔は、私の涙を再び呼びおこすのに充分だった。










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