第3話 お台場ダンジョン
配信を初めてから、1時間程経過した。視聴者はいつの間にか8千人を超えていて、コメント欄が止まることはない。
”やってることヤバいけど、配信自体はゆるいんよね
”ちょっと、何言ってるか分かんないわ
”神よ、シュヴァンにいろいろと与えすぎでは……?
”みんな慣れてきてるの草なんだが
”こういうのはね、一回壊れたら平気になるもんなんだよ
アレンは1時間、背景と化した魔物たちを片手間に狩っていた。最初は驚いていた視聴者たちも、慣れるしかないと判断したのか、無理矢理にでも慣れようとしている。
1時間で中層の50階層だったのが、80階層程まで進んだ。そして、丁度81階層に降りるための階段で立ち止まる。階層移動用の階段は、魔物が寄り付けないため実質的な安全地だ。
「素材も結構手に入れたし……もう良いかな。なんか質問とかあります?」
アレンは、手に入れた素材を階段に並べて整理していた。カメラに映らないよう、コッソリ亜空間へとしまいながらカメラの方を向く。
1時間経てば、配信はもう慣れてくる。素材も充分に集まったし、質問に答えて配信は終わろう。ただ、配信画面を暫く見ていなかった事もあって同接8千という数字を見たときは内心驚いた。
”その金髪は地毛ですか?
”碧眼もカラコン?
”ハーフ?
”なんでスーツ?
”どうして配信初めたんですか?
「金髪と碧眼は元からだね。金髪は父と母もで、碧眼は母。ハーフじゃないよ。あと、日本人でもないかな。スーツなのは、慣れてるから。配信を始めた理由か……強いて言うなら暇だったから。」
”元からなんか
”日本人でも無いの!?日本人よりも日本語ペラペラなんだが……
”え、じゃあ、何処なん?
”慣れてるから……?めっちゃ若そうやけど
”暇だったからって理由で中層80階層まで楽々と来ないでもろて
”初見です。え、どういう状況?
「何処か?秘密かな。年齢も秘密。日本語が喋れるのは……勉強したから。他の言語も喋れるよ。」
”秘密かぁ〜
”なんか間があったな
”他の言語も喋れるのすごい
”勉強してもそんなにペラペラ喋れへんて
”まだ配信続ける?
「いや、今日はもう終わろうかな。次の配信は……まだ決めてないね。まあ、その時はよろしく。バイバイ」
アレンは配信終了ボタンを押して、配信画面を閉じた。ドローンは付けて、一応録画をしておく。配信は終わったが、数分の間はコメント欄も盛り上がっていた。
”本当に、とんでもなかったなぁ
”とんでもなさすぎるのよ
”初配信で同接1万て
”ヤバすぎ。
”いろんな意味でぶっ飛んでた
◇◆◇
ドイツ、ボーゲンハウゼンの一等地にある大豪邸のリビング。アレンの母、ソフィアはソファに座って配信を見ていた。昨日、夫であるルドルフからアレンが配信をすると聞いて、本当かどうかフランツに確かめてみたところ一つのアカウントを教えてもらった。
ルドルフが眠りについてから暫くして……配信開始の通知音が鳴った。私は夫を起こさないように起き上がり、リビングへ歩いていく。大画面のテレビに配信を映してソファに座った。
「あら、剣を使うのね。スーツに黒手袋も似合ってるわ。」
画面には、剣を持ったアレンがスーツに黒手袋の姿でダンジョンにいる様子が映っている。母目線から見ても、絵になると思う。カメラの方を向いて、語りかけてくるその姿は性別年齢関係なく堕ちてしまうだろう。流石に息子なのでそこはなんとも思わないが。
「日本語も前より上手くなって……あら、大きな蜘蛛じゃない」
アレンの背後に、とても大きな蜘蛛、Bランクの魔物であるグレートタイラントがいた。あの蜘蛛の素材である糸と毒は使い易いから重宝するのよねぇ……。毒なんて、針とかの武器に塗ったらもう、最高よ。
アレンが剣を横に振ると、グレートタイラントは粉々になる。流石に当たり前よね。あれくらい。むしろ、出来なければ死んでるもの。アレンを見てたら、私もダンジョンに行きたくなるわね……ルドルフと行こうかしら?
ふふふ、アレンが楽しそうで良かった。こっちに居た時はずっと何かに焦っているように見えていたから。ダンジョン関連で日本にあの子は行ったけれど、私もルドルフも、やっぱり誰かのために忙しくしてるだけじゃなくて、自分のために生きてみて欲しかった。
だから、ルドルフから配信のことを聞いた時は嘘でも、本当に嬉しかった。あの子が……アレンが、自分からやりたいと言ったのは初めてだったのだから。
「アレンに、この事を伝える事が出来たらどんなに良かったか……。いえ、後悔なんてしても遅いわよね。今は、楽しそうなアレンを見れたのだからそれでいいじゃない。数年後、言えたら良いわ。」
ソフィアが、配信を見終わり隣を見ると、ルドルフが立っていた。ソフィアには、いつからそこに居たのか分からなかった。だが、ルドルフは何も言わずにソフィアの横へ腰掛ける。
「ソフィア、あんなに生き生きとしたアレンは初めて見た。小さい時からずっと誰かのために生きていた子が、フランツからの提案だとしてもやってみたいと言ったんだ。本当に嬉しかったよ。」
「ええ、そうですね。」
「ああ。俺たちはアレンのやりたい事を出来るだけサポートしてあげようじゃないか」
ソフィアとルドルフはお互いに、アレンの姿を静かに眺めている。ただの父として。ただの母として。愛する息子を。
◇◆◇
アレンは、お台場ダンジョンから出て、白鳥の男性構成員が運転する車に乗っていた。入口では、ダンジョン省の人が溢れかえった人々の対応をしていた。
巻き込まれるのは嫌だったので、気づかれないよう、気配を消して建物裏へと隠れた。そして、行きも運転してくれていた構成員に連絡して車で来てもらったのだ。
「ボス、配信お疲れ様でした。拝見しておりましたが、流石ですね。そして、どうでしたか?」
「……退屈ではなかったな。たまにやってみるのも良いかもしれない」
「そうですか。そのお気持ち、是非、忘れないでいてくださいね」
「ん?あ、ああ」
後頭部座席で窓の外を眺めていたアレンに男性構成員は声をかけてくる。返した言葉は本音だった。本当に退屈ではなかったし、楽しかった。これはこれで良いな。と思ったのも事実で、またやりたいと考えていた。聞けば反応があるのも、友人と話しているようでとても嬉しかったし、楽しかった。
20歳の大人が何子供みたいなことを言ってるんだ。と言われれば、そうかもしれない。だが、あの時間が、本当に楽しかったんだ。




