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第1話 プロローグ

 ガルシア財閥日本支社の最上階にあるCEO室。アレンは室内にある高級ソファに座って、「退屈」と戦っていた。


「ねぇ、フランツ。暇という退屈を消すためにはどうしたら良いと思う?」


 アレンは、目の前に立っている20代前半の男性秘書に話しかける。

 スラリとした長身で、顔立ちも整っていた。


「ボス、退屈というのは贅沢なものですよ。ドイツに居た時は、休む暇がないほど忙しくしていらしたのですから。」

「それはそうだと思うよ。でもね、やっぱり、暇なんだ。仕事も終わらせてしまったし、白鳥(スワン)の皆に指示も出したから他にすることもない。」


 白鳥(スワン)。それは、世界の裏社会の頂点に立つマフィアの名だ。アレンはそんなマフィアの若きボスである。


「そうですね……ダンジョン配信はいかがでしょうか。リアルタイムの反応もありますし、他の方の配信も見れるので退屈はしないと思いますが……」

「ダンジョン配信か……どんな感じの配信をしてるんだ?」


 アレンが言い終わる前に、フランツは動画配信アプリ「Hiyoko」を開いて、あるダンジョン配信を見せる。

「Hiyoko」は、十年程前にサービスを開始したアプリで、世界中の人々が使用している。


 フランツが見せてきた配信には、一人の男性が真剣に魔物と戦っている姿が映っていた。

 男性は大剣を手に持ち、魔物に切りかかっている。しばらくして魔物に勝った男性は、ドロップした魔石を手にして喜び、コメント欄も盛り上がっていた。


 ”さっき避けれたの大きかった

 ”すげー!!勝てたの熱い!

 ”おめでとー!!!


「彼は人気配信者で、日本でAランクという、ある程度の実力を持っています。ボスもダンジョンには行ったことがあると思いますし、実力もあるので探索に困ることはないかと。そして、配信はドローンを使えば簡単に出来ますし。」

「面白そうだね。やってみる価値は充分にありそうだ。そして、このコメントも面白いね。リアルタイムで他の人の感想が聞けるのは良い。」


 アレンは、配信画面をジッと見ていた。表情に変化はない。特に細かくは言わないが、内心、とても面白そうだと思っている。そして同時に、大剣をもっと活かせる戦い方をしたほうが勝率も上がる、と分析していた。

 元々、ダンジョンは探索したことがあるし、家柄的にも一般の人が知らないような情報まで知っている。

 

 それに、動画配信アプリの存在も知っていたが、実際に見たことはなかった。ドイツに居た頃は休む暇がないほど忙しくしていたし、自分から見るようなこともしなかったからだ。

 動画配信を見るくらいなら、本などで知識を取り入れるほうが楽しい・面白いと思っていたからだ。


「ボス、どう致しますか?」

「やってみようかな。飽きたらやめれば良いだけだ。」

「了解致しました。明日には整えましょう。」

「よろしく。僕は暫く、他の配信者の配信を見てみることにするよ。父上には僕が聞いてみるから。」

「では、失礼致します。」


 フランツは書類を抱えて礼をし、部屋から出ていった。靴音すらも聞こえない身のこなしは、やはりマフィアの最高幹部だと感じられた。

 フランツが部屋から退出した後、アレンは暫くソファで他のダンジョン配信を眺めていた。

 どの配信を見るときも、自分の知識が通用するかどうか確認していたのは、言うまでもない事実だ。



 ◇◆◇



 ドイツ、ボーゲンハウゼンの一等地にある大豪邸の執務室。アレンの父、ルドルフは椅子に座っていた。

 机には書類が積み上げられている。だが、それも全て見終わったものだ。


 現在は昼の13時。アフタヌーンティーを静かに飲んでいる。ルドルフは何気にこの時間がとても好きだ。穏やかな時間を過ごしているとつい、眠くなってしまう。だが、スマホから鳴り響く音に、眠気はかき消された。


 スマホには、アレンと表示されている。愛しい、一人息子だ。穏やかな時間よりも息子であるアレンからの電話のほうが大事なので、直ぐに出る。


『もしもし。父上?聞こえてますか?』

「ああ、聞こえているよ。日本での生活はどうだい?」

『暇を持て余していますね。父上は?』

「アレンらしいな。私か?私もいつも通り過ごしているよ。」

『それは良かったです。今日は少し確認があって……』

「確認?何でも言ってみなさい。」

『ダンジョン配信をしてみても良いですか?』


 ん?ダンジョン配信?確かに何でも言ってみなさいとは言った。だが、ダンジョン配信?配信……?あの知識や技術にしか目がないような子がそう言った……?


「ダンジョン配信か。別に良いぞ。思う存分、楽しみなさい。ああ、アカウントは教えてくれ。」

『良いのですか?ありがとうございます。アカウントはフランツ経由で教えます。』

「ああ。今日はそれだけか?そっちは夜だろう?」

『そうですね。では、僕はそろそろ失礼します。父上、ありがとうございました。』

「こちらこそ、電話をありがとうな。」


 そう言って、通話は切れた。

 ルドルフは自らの手で頬を抓る。痛かった。夢ではない。あの子が配信をする?姿が見れる?勿論許可するに決まってるだろう!?可愛い可愛い一人息子なんだ。姿を見たいのは当たり前だ!


 ダンジョンでも別に大丈夫だ。アレンは昔から魔法の扱いが上手かったし、武器も何をつかっても完璧だった。それに、ガルシア家の直系で嫡男だ。心配はない。


 何かあっても、持ちうる全ての力を使って私自らなんとかするので大丈夫だ。よし。こうなったら、妻のソフィアにも知らせなくては。善は急げと日本のことわざ……?にあったな。



 ◇◆◇



 翌日の朝。ガルシア財閥日本支社の最上階にあるCEO室。アレンは昨日とは違い、しっかりと椅子に座り、机と向き合っていた。そばには書類が積み上がっている。もう既に終わった書類ではあるが。


 目の前にはフランツが立っていて、机の上に一体のドローンとパソコンが置かれていた。


「ボス、こちらのドローンで撮影、配信が出来ます。そして、アカウントを作っておきました。ガルシア財閥の軍用プロキシを数十と経由しておりますので、追跡は出来ません。」

「完璧だよ。ありがとう。父上も了承してくれたしね。早速、今日試してみようかな。」

「ボス、その前に一つ確認が。アカウント名はいかが致しましょう。」

「あー……本名を言うわけにはいかないし……シュヴァンとかはどうだろう。」

「良いと思います。では、アカウント名はそのように。」

「僕はダンジョンに行ってくるから後はよろしくね。」

「了解致しました。ボス、お気をつけて」

 

 アレンは椅子から立ち、ドローンを手に持つ。指をパチンッと鳴らすと、空気中に亜空間への入口が現れた。その中にドローンを入れる。


「手で持っていくと目立つよね。」


 誰かに話しかけたわけではない独り言を言って、アレンはCEO室から出ていった。

 

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