27話「なんとか家族と暮らしたい」
体が...動かない...。これは...ブレス、いや魔法を食らったのか?
ザインは何とか顔を挙げようとする。しかし、ザインにはもうドラゴンの巨体を制御するほどの魔力は残っておらず、体も溶け始めていた。
「隊長!ご無事ですか!」
「私は絶好調だ!それよりも、怪我をした隊員の治療を急げ!」
同じく溶けかけの体を引きずりながら、緑のドラゴン、ガミルはテキパキと指示を出していた。そして、一通りの指示を出し終わったガミルは、ザインのもとへ近づいていく。
「隊長!近づいたらまた...」
「もうそんな魔力は残っとらんよ。見ればわかるだろう」
そこにいたはずの白いドラゴンは、もはやドラゴンとは呼べない塊になっていた。その隙間から、息も絶え絶えのザインが顔を出している。
「子供だったのか...!」
「...」
ザインの姿を見て、隊員たちは驚きの声を上げる。白い髪に、童顔で整った顔、まさかこんな少年がこの事態を引き起こしていたとは...
驚いている隊員たちをしり目に、ガミルは真剣な顔でザインに身を寄せる。少し名残惜しそうな顔をしながら、ガミルはドラゴンの体から出てきた。
「...分かってたんだ...僕は...あの約束を...母さんを殺して...一緒に死ぬべきだったんだ...。けど...それが怖くて...結局...こんなところまで生きてしまった...」
ザインはガミルを見上げる。威厳あるガミルの姿が、今のザインには余計まぶしく見えた。
「私は...君のことを知らない...だが一つ言えることはある」
ガミルは腕についていた肉を振り払う。緑の鱗は地面に飛び散り、そのまま消えた。
「すまなかった」
「...!」
ザインは驚きの目でガミルを見つめる。
「なぜ...お前が謝るんだ...」
「君は、まだ幼いにも関わらず、本来望んでいないであろう戦いに臨み、命を散らそうとしている。そんなことになる前に君を止め、救ってやれなかったのは騎士団の責任だ。だから謝罪をした」
ガミルは膝をつき、ザインと目を合わす。ガミルの輝いた目は、ザインの心の奥深くまで見えているような力強さだった。
「...ふざけるな...ふざけるなよ...謝罪なんて...」
「謝罪を受け入れられないことは分かっている。しかし、騎士団は市民を、人々の幸せを保証することが責務だ。君が苦しんでいた時期に、”騎士団を頼る”という選択肢を選ばなかった、もしくはその選択肢が浮かばなかったことが問題なのだ。我々が、苦痛に耐える君を見つけてやれなかったことを、悔いているのだ」
頼る。その言葉がザインの脳内でこだまする。なぜあの時、僕は誰かに頼らなかった?家族を守るために、僕は一人で...。もしあの時、誰かを頼れていたら、あの時大きな声で、僕はザインだと叫べていたら、もう少し違う結末が...
だらんと垂れ下がるザインの手を、ガミルはためらいなく掴んだ。
「無責任な約束はできない。だが、これだけは覚えておいてほしい。君が生まれ変わって、苦痛に耐えられなった時、きっと私が、君を助けに行こう」
生まれ変わり。くだらない。そんなものあるはずはない、死んだら無だ。きっと何も残らない、けど...けどもし、僕が生まれ変われるとしたら、僕は...
「...お前が助けに来る必要は...ない。僕は...生まれ変わって...家族と...幸せに暮らすんだからな...」
ガミルの手の温かみを感じながら、ザインは優しい笑みをこぼす。年相応の笑い方。それは何も混ざっていない、純粋なザイン・アルバーツとしての笑顔だった。その口の端からは、一滴の血がしたたり落ちている。
走馬灯。目の前を流れていく家族の姿が、ザインに笑いかける母の姿が、自らの記憶であると気づくのに、時間はかからなかった。
母さんが最期に言った言葉、あれは最後の抵抗として、記憶にあった適当な言葉を放り出しただけかもしれない。けど、けどあの言葉が僕は...嬉しかったんだ...。
もっと、何度でも、母さんの口から言ってほしかったんだよ、ザインって
ザイン・アルバーツ、隠してしまった自分を、失ってしまった家族を取り戻す。彼の人生は、常に”探し物”で満ちていた。
月は姿を消し、太陽が身支度を始める。夜明けがもうそこまで迫っていた。
「ほかの戦場の状況確認を急げ!倒し切れていないドラゴンがいるはずだ!」
隊員たちは戦果報告や、死傷者の確認を行っていた。真夜中の奇襲、しかも、直前まで気配を察知できなかった。被害も相当なものに違いない、一刻も早く態勢を立て直す必要がある。
「状況はどうなっている」
「ガミル隊長!ご無事でしたか!」
ガミルはマントを翻しながら、テントの中へ入る。中では、見知った顔の隊員たちが、次々とくる伝令をまとめていた。
「ドラゴンはほとんど討伐できました。ただ...先ほどからそのドラゴンが、溶け始めたとの報告が」
「やはりか」
ガミルは手をあごにあてた。
魔法を使えるドラゴンの集団、どういう仕組みかわからなかったが、あの少年によって変身させられていたなら、納得できる。あの少年が死んでしまった以上、彼らの目的を知っているのは、変身していた人間だけだ。
「中から人が出てくるはずだ。殺さず捕虜にしろと伝えろ」
「それが...」
隊員の一人が言葉を詰まらす。テント内の空気がより一層暗くなったように、ガミルは感じた。
「ドラゴンの中からは...子供が出てきました」
「何?」
「伝令!伝令!」
突然テントの中に一人の隊員が入ってきた。急いできたのだろう、息は切れ、荒い呼吸を繰り返している。
「その紋章は...4番隊か。何があった」
「消えて...消えていたんです」
ガミルからの問いかけに、伝令を伝えに来た隊員は振り絞るように答えた。
「一番隊がいた物見やぐらが、跡形もなく消えていたんです!」




