174 卒業とお披露目 7月
夏空の青さが目に刺さる今日この頃、ついに僕たちは卒業を迎えた。
学院での式典をサクっと終わらせ、今日はお家で卒業パーティーだ。
余裕で卒論を提出したルトガー君とアルタイル。僕を心配して意外にもギリギリだったアリエス。それから、…予定通りギリギリだったリヒャルト君とタウルス。
あの二人は…カップル成立しても大丈夫なんだろうか?今のうちに引き留めたほうが良いんだろうか?
そんなみんなを招待してのパーティー。
去年の僕の成人のお祝いは、お兄様の結婚式と重なったから家族だけでこじんまりと終わらせた。
今年の誕生日はみんな卒論があったからやっぱりこじんまりと終わらせた。
だけど今回ばかりはこじんまりとはいかない。
名目は卒業パーティーだけど、これは僕の無事生還を祝う意味と、…愛し子からランクアップしたお祝い…というかお披露目。
「だってテオ君、愛し子どころか神獣様の宝玉って言われてるんだよ?みんなに顔見せくらいしておきなよ。」
「そうそう。そうじゃないと君に謁見しようとといつまでも屋敷の周りが行列だよ?全員集めて一気に済ませたほうが後々楽だよ」
「あ、えぇ…?」
もともとバスティト様の加護を持ってる愛し子な僕。けど、あの後鑑定してもらったら…いつの間にかアヌブス様とシュー様の加護もくっついていた。
アリエスいわく、アヌブス様は、もしかしたら船首に絵を描いたからじゃないかって首傾げてたけど、シャンパンを御馳走したのが効いたのかな…???そんなので?分からない。
こんどバスティト様に聞いてみよう。アリエスに頼んで。
そしてシュー様はもちろん一緒に空を飛んだ時。加護無くして背中に乗ることなど出来ないのだ。
レグルスに大口叩いた時は言ってみただけだったんだけど…三神の加護、これは…プレッシャーだ…
「お兄様、ジローもお祝いに駆け付けましたよ。忙しい身の上とは言えこれはジローにとっても大事な社交の機会ですからね」
アリエスの言葉にホッと胸を撫でおろす。招待状は出したけど…来てくれなかったらどうしようかと思っちゃった。
「聞いたかテオ。ジローは動力船の件と、スラムの住人の就業を助け治安の安定に貢献したとして一代貴族となるようだ。男爵位か…、これでますます大きくなるな」
「えぇ、すご…」
ジローが男爵に…。ほんとにやったんだ!
「下町でのジローの評判は止まるところがない。当然といえば当然だ。ジローが皆に与えたものは仕事や給金だけじゃない。ジローは希望を与えたんだ。腐らず努力をし続ければ何にだってなれるってな」
アルタイルもタウルスも、ジローの叙爵を当然の結果だと思ってる。僕もそう思う。
おじいさまの言うよう、ジローは本当に、脇目もふらずがむしゃらに頑張ったんだ。
その当人が目の前にたつ。いつもの、僕の大好きな笑顔のままで。
「テオ、…無事で良かった。それにしても三神獣の加護か…。えらい事になってるな。はは、まったく相変わらずだ。聞いたか?俺が男爵だと。笑っちまうな。だがこれもお前がくれた恩恵だ。目的は変わったが俺は俺のやりたいことをやる。それは変わらない。これからも応援してくれるな?友人として」
「もちろんだよ。ジローのおかげでみんな助かってる。だけどもっと助けられる。言ったでしょ、僕もいつか薬膳のお店ジローの商会の真ん前に出すって!負けないからね!」
「ははっ、返り討ちだ」
こうして笑い合えて良かった。ジローは僕の甘酸っぱい青春、その全てだから…
「テオ君テオ君、お待ちかねだよ!」
袖を引っ張るリヒャルト君の言葉に振り返ってみればそこには…
「お待ちかねって…、あっ、デルフィ、…と、えっ!」
隣に立っていたのはベレン以来のレグルスだった!
「いつ帰って来たの?聞いてないよ僕!えっ?間に合わなかったと思ってがっかりしてたのに…、えぇ?」
「ふふ、君には二度も驚かされたからね。お返しだよ。君たちが学院の式典に出席している間に、こっそりとね」
「レグルスが秘密にしたいと言うものだから…、骨が折れたよ。全く」
ああっ、相変わらずのレグだ。いつもの、僕をからかってその反応を伺うレグ。今はそれが…とても嬉しい。
うっ!みんなもの凄く見てる…。特に女子。
きゃぁ…見てあれ…
ほらぁ、やっぱり…
ねぇ殿下の表情……
うぅ…、恥ずかしい…。どうしてこう、いつもいつも…
「仕方ないよテオ君。君が神獣様の背に乗って殿下の元へと飛んで行ったの王都中のみんな見てるからね」
「すでに吟遊詩人が歌にしてるんだよ。題名は〝献身と愛”だって。ロマンチックだよね…」ウットリ…
「やっ、やめてよっ!何そのタイトル…、さいてー」
「そうかい?私は甘んじて渦中の人になるつもりだよ。献身と愛か、なかなか良いじゃないか」
別れ際余計な事したばっかりに…レグが余裕だ…。何?その顔。にくたらしい…
ちゃっかり腰に回された腕を振り払う事もしないで正面の席へ。
そして宴の開始はお兄様からの挨拶が合図。
そこにレグルスが声をかける。
おりしも今日は、レッドフォード、ブルースター、イエロー・ダルグレイブ、主要な高位貴族が揃っている。レグルスと一緒にデルフィも来たからグリーンベルも揃ってオールカラーだ。
心配をかけたみんなに、お詫びとお礼がしたいと。改めて報告の機会はあるらしいけど、とりあえず軽く挨拶したいと言うレグルスにお兄様が場所を譲る。
ひとつ咳払いをして話し出すレグルス。ああ、こんな姿も出航以来だ。
「此度は私の不用意な行動で皆には心配をかけた。ここに詫びよう。そして各々が出来得る限りの尽力をしてくれたと聞いている。とても感謝している」
普段なら頭を下げない王太子のレグルスが深々と頭を下げる。今日ばかりはデルフィもケフィウスさんも止めたりしない。
「皆ももう知っていようが、私が今ここにこうしていられるのは、ここに居るテオドール、私の元婚約者のおかげだ。私の為に…、筆舌に尽くし難い危険をおかして精霊様の秘薬を届けてくれたのだ。私は…、テオドールを失うことは…、人生の意味を失うも同じなのだと、そう強く感じた」
んん?僕の名前?
「皆も知っていよう。テオドールには神獣の神託がある。その身は自由であり自由でないのだ。だから皆、私の我儘を、どうか受け入れてはくれないだろうか?」
え?何この流れ?レグは何を言おうと…
「私は王位継承権を第二王子カノプスに譲ろうと思う。そして私は王室を離脱し一貴族として領地を治め、今まで通り外交大臣として国交に励む。これは陛下との話し合いにより既に決まった事だ。陛下は私の初めての我儘を…、快く聞き入れて下さった」
だっ!でっ!な、何だってー⁉だってあの時、結局最後まで良い返事は聞けなかったのに!
騒然とする会場の一同。
平然としているのはデルフィとケフィウスさんだけだ。ああ!お兄様も!
「みな、心配は無用だ。私は今まで通り、いや、今まで以上に陛下を、そして第二王子を支えていく。そしてこの国の護りはこのテオドールが請け負ってくれた。三神獣様の加護をもつテオドールがこの国にある限り安泰であると言えよう」
そ、そりゃそう言ったけど!
「拝領する領地、それは…今は王家の預かりとなっているドラブ領。切り取られレッドフォード領となったエジプシアンダンジョンの周辺全てだ!これをもって再度テオドールには結婚を申し込む!テオ、私の伴侶に、永遠の伴侶になってくれるかい?」
こっ、公開プロポーズっ!
あ…え…どうしよう…心の準備が…、でも、だけど、だって、…だってもう後悔はしたくない!
あんな、あんな後悔はもう…、もう絶対するもんか!
「しっ、仕方ないなぁ。レグはほっとくとすぐに何でも一人でやろうとするから…、しょうがないから神獣の宝玉様が半分こしてあげるねっ!」
きゃぁぁぁぁ!
初めて見るレグのくしゃくしゃな笑顔…、それは今まで見たどのスチルよりも尊かった。




