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第27話 「天使の懐古」

 白い巨城。その城主としての仕事が残っている。

 薄目を開けて、部屋の外を見ていた。

 国中から様々な重役が、この城に集まっている。


 朧げな気持ちで背を椅子にもたれかけさせるが、ずっとこうしてばかりもいられない。

 僕、ウィスパー・サンシャインは、部屋での休息をとっていた。


 今日は娘のお披露目会も兼ねた式典が開かれる予定だ。

 しかし、その主役となる娘はこの場にいなかった。


 城を抜け出し、どこかへ行ってしまったのだ、戻ってくる気配はない。焦る従者をなだめて式典を開始させた。

 息子のアレガルドも、怒り心頭に発していたが、何とか式典に向かってくれたようだ。


 部屋にいる私を抜きにして式典は進んでいく。

 これを機に僕の出番を減らしていこうとは考えていた。息子と娘が台頭していき、僕の代わりにこの国を引っ張っていくのだ。


 そういう筋書きだったため、息子に進行を行わせている。優秀な部下が揃っているため、息子に司会進行の技量がなくても心配はなかった。


 部屋の窓から外を眺める。もう夕暮れが近かった。

 娘の所在。それは誰にも分からない。

 娘が空けた席を、替わりの子が埋めている。


 娘の影武者。彼女は良い子だった。娘の不在にはとっておきのような子だ。

 演技力があり、従順。

 娘に対して強い憧れを抱いていることから、娘のことを良く観察していた。

 それもあって娘の代役を取らせるにはこれ以上ない逸材だった。


 部屋のなか、そんなことを考えていた。

「旦那さま。いつごろ式典に参加しますか?」

 そうベンジャミンに聞かれた。

「あと少しだけゆっくりするよ。このお茶を飲み終えたら行こう」


 そして僕は机に置いてあった湯呑みを口に運んだ。

 温かい飲みものを口に含み、ゆっくり娘のことを考えていた。

 正直、娘の扱いには困っていた。彼女の気質は、どちらかと言えば悪性だ。


 善か悪かで語れば、悪に傾く。彼女の性質上しょうがないことだった。

 僕は昔から人の性質が見えた。そういう「天賦」を持っている。

 娘の力は非常に強力だったが、それは同時に厄介なものとなっていた。


 好奇心旺盛で好戦的。力の使い方次第では国が傾く可能性がある。妄言ではない、実際そうなる未来が見えるのだ。

 僕の目の前に天秤が見えた。片方には覇国、片方には娘が乗っている。どちらを取るか?そう言われているようだった。


「どちらも大切だよ」

 一文なしから作り上げた国。愛しき妻の一人娘。選べるはずのない選択だった。


 娘が自分の傘下から外れることを夢に見る。

 自分の影響下ではない場所まで去ってくれることを願った。

 そうしなければ、いつか娘は死ぬだろう。私の部下に殺されるという形で人生が終了する。


『ウィスパーくん。私って早死にしそうでしょ。だから今のうちに伝えておきたいんだ』

妻アンリの言葉を思い出す。


『私が死んだら、子供のこと任せるよ・・・。ってウィスパーくんには釈迦に説法だったかな?』

 妻は頑強だったが、それでも自分の未来が分かっているようだった。

『子供のこと、任せるよ』

 その言葉がずっと離れない。


 どうするべきか・・・そんなことを考えていた。

 選択の連続。昔から続く僕の仕事。

「大変だったよな・・・昔から」

 乾いた風が窓を叩く。


 遠くを見つめながら、僕は自分の人生を振り返っていた。

 荒れ狂う戦禍、流れ星の如く飛来した鋼質有機体。

 走馬灯のように過去を思い返す。


 自分自身でさえ波瀾万丈な人生だったと感じるほどに、僕の生きてきた軌跡は激しい乱流を見せていた。

 そんな軌跡の最初の部分、覇国建設の序盤の序盤。

 まだ災禍が訪れるよりも前。


 誰からも注目されることのない、ただの人間として暮らしていた子供の頃。

 そんなずっと昔から、僕の旅は始まっていたのだ。

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