第20話 『アレガルド・サンシャイン⑨』忍びの里の住人
『準決勝。「影の国」所属「忍の里」筆頭。タタリカ・セシウス。八草流仙術使い』
『未開拓領域』そう呼ばれる地域が存在する。まだ人間の手によって開拓、測量、統治が出来ていない地域を指す。彼はそこからやってきた。
現世の冥界『影の国』そこが黒い老人の故郷だった。
形を変え続ける森林。そこに住まう数多の禁忌種。旧諸国の時代には、罪人の流刑地となった実質的な処刑場。
闘技館の舞台に立つ二人の人物。
白い少年と黒い老人が対峙している。
天使の前に立つ老人は、炭を被ったかのように黒々とした容姿だった。
森黒人と呼ばれる種族だ。
細い体躯に長い手足、黒い光沢のある皮膚はまるでトカゲの鱗のようで、老人のひび割れた素肌がより一層威圧感を感じさせていた。
影の国出身者。生まれた時からそこにいたのか、流れ着いたその場で生活しているのかは知られていない。
ただ、未開拓領域からやってきただけでも十分危険指定を受ける。
「ンん、イヤァ、まいったネ」
黒色の老人。白色の少年。二人が舞台の上で顔を見合わせている。試合はまだ始まっていない。
「まさカ、テンシさまとタタかうなんてね」
世間話をするように、これから殺し合う相手に話かける老人。
観客たちは、それを嫌悪するように見つめていた。舞台の上に立つ老人は国際危険指定者である。
人殺しを生業にする人間はいる。それに関して言えばこの老人の腕は良質を極めていた。ここにいる人間がそれを認めている。
『忍の里』の筆頭にして伝説の殺し屋。そして危険思想をもつ極注意人物だった。
「ボクこわいナァ、あっはっはっはは」
そう老人は笑った。
「忍の里」。影の国に存在する暗殺業を営む集団である。この大陸を統治し莫大な富と権力を持つ帝国でさえ、この忍の里の存在を消しきれなかったとされている。
いわば帝国にとっての抹殺対象である。
街の詰所や集会所に行けば、懸賞金付きの殺害命令が張り紙として出されている。そのような御仁だった。この場にいる観客や帝国関係者は、全員がこの黒色の老人を訝しむように見つめている。危険人物だ、誰だってそう見る。
「忍の里」の住人が危険とされているのは、彼らが完全な「天使否定論者」だったからだ。天使を統治のかなめとしている帝国にとっても彼らは存在して欲しくない人物だった。
この舞台が持つ意味は、ただ武名を挙げるだけではない。
「天使」と「天使を否定する者」との戦いだった。
白と黒。少年と老人。天使と悪魔。
対立する両雄が睨み合っていた。
「マァ、ぼくガかっちゃうんダロウけどね」
「・・・」
ヘラヘラと笑う老人。無言無表情を貫く少年。
白色の少年。彼の一回戦、二回戦は裏から試合を仕組むこと自体は可能だった。天使近衛に鋼質有機体。二体とも帝国の庇護下にある。細工することは容易なはずだ。
しかしこの準決勝はそうもいかない。危険指定者を相手に負け試合を組むことなど、出来るとは思えない。
つまりこの試合は少年にとって初めての殺し合いとなる。そう観客は踏んでいた。
細工することなど不可能な極危険指定者との対決。観客にとってもこれは見なければならなかった。天使の所在を知るためにも、危険指定者が葬られるところを見るためにも。
この試合で今後の身の振り方が決まる。覇国の行く末を左右しかねない内容だった。
「試合、はじめッッ!」
審判による開始の合図が言い渡され、天使と悪魔が対決した。




