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第14話 『アレガルド・サンシャイン②』一刀両断

 「・・・嘘だろ」

 「いや・・・まさか」


 さらなるざわめきが観客席を覆う。

 銀髪の少年の手に握られていたのは、妖刀だった。

 鞘は付いていない。緑色の刀身が波紋に沿って煌めいている。


 妖刀『斬鉄』、国宝に認定される武具の一つだ。子供に持たしていい代物ではない。


 剣の扱いに長けていた者は、その刀剣の美しさにため息を漏らした。

 自身に腕のある武芸者達はひどい剣幕で子供を睨んだ。


「自分の手に持っている物の価値がわかっているのか?」


 そう問いたくなる。

 『斬鉄』は多種多様な効力を見せる妖刀の中でも、最も単純な効果を持つ妖刀。

 その力は「刃先にあたった物質を断ち切る」と言ったものだ。


 簡単に言えば、切れ味が鋭すぎる刀だ。

 岩や鉄を、フレッシュチーズのように容易く断ち切ってしまう業物である。

 鞘すら断ち切ってしまうため、その刀は抜き身のまま持たれていた。


 その妖刀を悠々と手に持ち少年は舞台に上がった。もう一方の手には、薄い紙が一枚握られている。


 「試し斬り」


 そう司会者は言った。ならば、これから行われることは明白だった。

 斬鉄を用いた紙の空中斬りだろう。


 誰もがそう思った。

 少しだけ、だが確実な憤りを人々が見せていた。


「有り得ないだろう」

「公私混同ではないか?」

「これではただの権力の濫用だ」


 そう思う人間も中にはいた。

 そういう人間ははなから天使などという存在を信じていなかった。

 天使などと自称し、民を扇動する詐欺師だと考える人間も中にはいた。


『これはただの権力の主張だ』


 自分の子供に国宝を持たせ、自分の権力を主張するというやり方は気に食わなかった。

 権力を子供に引き継がせようとする親の気持ちは分かるが、これは異常だ。


 やっていい範疇を大きく外れている。

 憤りの目線が客席の最上階に集まった。

 観客席の最上階。天蓋が下ろされている部分に座る天使。


 そしてすぐに目線を逸らした。

 天使。この国の統治を行う最高責任者にして、この国の最高権力者。


 「天の使い」という存在、その主柱だ。

 固有名称を「ウィスパー・サンシャイン」と呼ぶ。

 その周りには黒い妖気めいたものが漂っているようにも感じた。


 人外であることを自称するような唯ならぬ気配である。

 だから憤りを見せる者も、すぐに目線をそらす。

 もし睨まれ返されたりなどしたら、この国で生き残ることは不可能だった。


 山賊あがりの出自ながら、大陸を征服した御仁だ。

 たとえ詐欺師だろうと思っていたとしても、たとえ憤りを見せたとしても。彼に刃向かうことはできない。


 彼の意にそぐわない人間は、ことごとく姿を消す。

 どのような揶揄を受けようと政界の頂点に君臨する実力、それだけは変えようがない真実だった。


 少年が舞台の中で動き出す。


「令息の児戯に付き合わされるのか」


 皆が冷たい目線を送り、そう思っていた矢先だった。

 少年が妖刀の柄の端を地面に置き、縦に立てた。

 柄が下、刃先が真上を向いた状態で妖刀が直立している。刀の反りが無い斬鉄ではそれが出来た。


 そしてその直立する妖刀の横で、紙を折り始めた。

 角をあわせて、辺をそろえて、出際良く、早く、丁寧に、その一枚の紙に細工を入れていく。


「何をしているんだ?」


 観客の全員が前のめりになり、少年の動向を観察した。

 折り紙。

 どこかの地方にある子供遊びだが、それを素早く丁寧に行っている。


 少年はその作業が終わったのか、その折り紙を手に持ち天高く腕を上げた。

 少年の手に握られているのは折り紙で出来た小刀だった。


 児戯として使われるような矮小で脆弱な紙の剣が少年の手に握られている。

 全員が次の行動を予測できなかった。

 斬鉄による試し斬りはどこに行ったのか?


 その時。


 「刮目せよ」


 子供が喋った。


 よく通る声で一言、それだけを告げる。

 視線が舞台に集まる。しばしの沈黙が続いたあと。

 少年は天高くあげた紙の小刀を、妖刀に向かって振り下ろした。


 一閃。


 少年の腕が消えたと錯覚する者もいた。

 あまりの速度に目線が追いついていかなかった。

 時が止まった様な感覚の後。


 轟音が炸裂した。


 まるで会場内に雷が落ちてきたような、空気を切り裂く爆音だった。

 轟音に耳を塞ぐ要人達を横目に、観客席にいた武芸者は自分の目を疑うことになる。


 会場にいた観客322名。

 轟音の際に目を見開き少年の動向を注視出来ていた者94名。

 少年の腕の振りを目で追えた者13名。

 その現象を説明できる者は1名だった。


 空気を裂く轟音。


 それは少年が腕を振ったことによる衝撃波だと分かる人間は、この会場にはほとんどいない。

 数瞬の間の後、観客席から絶叫めいた声が飛んだ。


「なんだ・・・あれ?」


 奇妙な、気持ちの悪い光景だった。

 少年の前で『斬鉄』が二つに割かれている。

 少年の目の前。刀身が刃に沿って真っ二つに分かれている。

 刃先から柄まで、妖刀が両断され、無惨な姿を晒していた。


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