護衛騎士
レティアの護衛騎士となったラスタは、毎日レティアの傍にいた。
ラスタが詰める部屋も、レティアの部屋の隣になった。
「なにかあれば、すぐ呼べよな!」
ラスタは腰に下げた剣を指差して言う。
その剣は、以前の剣とは違っていた。
明らかに煌びやかで、品が良い。
尋ねてみると、護衛騎士となったから与えられたのだと嬉しそうに教えてくれた。
「ラスタ様は、もう少しお静かに」
テラがぴしゃりと言った。
ラスタが、面目ないと項垂れる。
たしかにラスタの声は大きくて、部屋の外までひびき渡りそうな時もあった。
そのたびにテラとホミンがラスタの口に手を当てる、ということを繰り返している。
「静かにしてるつもりなんだけどな」
「では、普段から『ささやくように喋る』おつもりでお願いします」
「萎びちゃうって」
「是非萎びていただきたいのです。私たちは」
「ひっでーな。どう思う? レティア?」
ラスタの目が、レティアに向く。
レティアははっとして、硬直した。
なんと答えればいいのか、なにひとつ分からない。
「……あ、の、……元気で、良いと、思いま、す」
「だろー!?」
「レティア様はラスタ様に甘過ぎです」
「……で、でも、私も、甘えて、いて」
「だよなー。俺たち、甘々だもんなー」
「……は、はい」
レティアは赤面し、頭を下げる。
ラスタが嬉しそうにレティアの背を叩いた。
そうしたラスタの、無礼とも見て取れる行動は、表では一切現れなかった。
部屋の外で、レティアに話しかけることなどない。
護衛騎士として徹底して働き、常に周囲に目を向けていた。
その甲斐あって、レティアの氷を気味悪く思っている貴族たちは鳴りを潜めた。
十日もしないうち。
レティアの周囲の空気は、大きく変わった。
レティアを悪く思う貴族が減ったことで、侍女であるアルトたちの表情が和らいだからだ。
レティアは、安堵した。
自分に向く悪意が減ったからではない。
自分のせいで、心優しい侍女たちが苦しむようなことにはなってほしくなかった。
その心が、アルトに伝わったのか。
アルトが、レティアとラスタに向けて小さく微笑む。
「ラスタ様のおかげですね」
アルトが、護衛騎士のラスタに頭を下げた。
ラスタが慌てて首を横に振る。
「俺は、俺がやりたいことをやっただけだって。むしろ、アルトさんやテラさん、ホミンちゃんのほうがすごいって」
「私たちも、ささやかではありますが、私たちがやりたいことをしました」
「ささやかかなぁ? ま、でも、ささやかかどうかより、気持ちだよな!」
「そうですね。それもこれも、レティア様のおかげです」
アルトがレティアの傍へ寄る。
零れ出る冷気が、アルトの手に触れた。
その日の冷気は、少し強かった。
にもかかわらず、アルトがレティアの手を取る。
「レティア様のおかげで、少なくとも私は変わったと思います。もちろん、この祝福以外で、ですよ」
アルトの言葉に、ラスタとテラが頷く。
ホミンに至っては、何度も頭を縦に振り、可愛らしく笑った。
けれど、レティアには分からなかった。
彼女たちの優しさは、分かる。
水氷の呪いが、わずかでもこの国の役に立つという可能性も分かる。
けれど、これほど過分の優しさを、ずっと受けていてもいいのだろうか。
そうした想いが、少しずつレティアの中に蓄積していく。




