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水氷の行方 ~氷の呪いを受けし奴隷少女、売られた先で大切にされ、砂漠の国を救う~  作者: 遠野月
歩み寄る

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13/18

温か


氷の向こう側で、瞳が動いている。

魅入るように、魅入られたように。



レティアから溢れ出る冷気は、その日によって強さが違っていた。

たった一日で、氷が室内を埋め尽くす日もあれば、床が凍るだけの日もある。

レティアの気分によって左右されるのか。

そう思われてしまった時もあったが、レティアは違うと答えた。



「……呪いを、操ることは、出来ま、せん」



それが出来ていれば、見世物小屋の主人がレティアを手放すことはなかったろう。

鞭で叩かれても、氷が多く出てくることはなかった。

試しに贅沢な生活を送らされることもあったが、冷気に変化はなかった。

だからこそ、奴隷のような生活がつづいていた。



「しかし、あの見世物小屋の使用人は……一気に凍りついた」



レティアの部屋の外で、グイラムが首を傾げて言った。

たしかにと、ラスタが頷く。


レティアを取り戻そうと、盗賊と共に襲いかかってきた見世物小屋の使用人。

彼は瞬く間に凍りつき、砕け散った。

グイラムたちは、あの時よりも長い時間、レティアの傍にいることがある。

しかし冷気を感じて震えることはあっても、凍りつくことはなかった。



「まったく制御できないわけではないのだろう」


「……制御させるんですか? レティアに?」


「いいや。可能だとしても、今は絶対にさせない。お前もそんなことはさせるな。もしもそんな輩がレティア様へ近付いたら必ず追い返せ」


「分かってますって」


「……あと、部屋の外ではレティア『様』と言うように。次はないぞ」


「き、気を付けますって」


「……まったく」



グイラムがラスタの頭をとんと叩く。

ラスタが申し訳なさそうに頭を下げた。


ラスタが部屋の中に戻ってくると、レティアは素早く顔を上げた。

急いでラスタの傍へ駆け寄り、目を細めて彼の顔を覗く。

部屋の外でグイラムに叱られたのではないかと、心配していたからだ。

ラスタが「なにも怒られてはいないって」と言うと、レティアはほっとして頬を緩ませた。



「ところでレティアは、なにをやってんだ?」



ラスタが首を傾げて言った。

レティアが座っていた椅子の前には、カップが置かれていた。

カップには茶が注がれていて、湯気が立っている。

カップの中を覗いてみると、カップの底には温石が沈んでいた。



「……あ、の、温かい、飲み物を、飲む……練習です」


「レティアは猫舌なのか?」


「……猫舌?」


「熱いものが飲めない奴のことをそう言うんだよ」



ラスタが笑って、「俺の父もそうだったぜ」と告げた。

レティアは「そうかもしれません」と答えたが、内心では違うだろうと思った。

熱いものが飲食できないのは、身体が奥底まで冷え切っているからだ。

冷めた身体に熱いものを流し込めば、違和感を覚えないはずがない。


とすれば、事前に身体を温めておけば大丈夫なのだろうか。

レティアは数瞬考えたが、やめた。

呪われたこの身体を温めることなど、出来るはずもないのだから。



「レティア。こういうことは、ゆっくりやっていけばいいんだぜ」



熱い茶を睨むレティアの傍に、ラスタが寄ってきた。

そうして、レティアから茶の入ったカップを取り上げる。



「ちなみに俺は、熱い茶の良さが分からない。苦手なんだ」


「……苦手、ですか」


「だってこの国は暑いんだぜ。暑いのに熱い茶を飲むなんてどうかしてる。冷たい茶を飲むほうが良いに決まってるだろ?」


「……そう、なのですか」


「そうなの。まあ、だからさ。苦手なものは誰にでもあるってこと。急がなくたっていいんだぜ」



ラスタがそう言って、熱い茶が入ったカップをテーブルに置いた。

レティアはどうするべきか迷った。

本当に今、練習しなくてもいいのかと。

するとアルトが頷いて、「もちろん少しずつで構いません」と言ってくれた。

レティアはほっとして、アルトとラスタに頭を下げた。



「……あ、ありがとうございます」



レティアは小さく言う。

ラスタがレティアに笑顔を見せ、とんと頭を撫でてくれた。

その手は、分厚く、温かかった。

レティアには家族がいなかったが、家族とはこういうものなのかと思った。


見世物小屋を訪れていた客たちの中には、当然家族連れもいた。

小さな子供の隣には、父や母、兄や姉がいた。

子供は彼らに甘え、彼らは子供を甘やかしているように見えた。

それらはとても温かで、手が届かない陽のようであった。


ラスタやアルトは、まさにそうした存在ではないかとレティアは思った。

温かで、優しくしてくれる。最近ではレティアも彼らに甘えてしまう。

その緩みが伝わったのか。

アルトとテラも、レティアの頭を撫でてくれた。

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