傍に
「レティア様」
グイラムが、膝を突いていたレティアの手を取った。
レティアは一瞬、肩を震わせる。
恐れが、レティアの腹の底に、より一層重く沈んだ。
しかし次に発したグイラムの声は、先ほどまでとは違う優しい声であった。
「ご心配には及びません、レティア様」
「……え」
「本日よりラスタは、レティア様の護衛騎士といたしましょう」
「……え、え?」
「彼は必ず、レティア様のお役に立つでしょう」
グイラムがそう言って、ラスタに視線を向けた。
驚いたラスタは、ぶるりと震えた。
丸くなったラスタの目。グイラムとレティアを交互に見る。
やがて、はっと我に返り、グイラムに向かって深々と頭を下げた。
「だ、団長、俺なんかが……良いんですか」
「レティア様にこれ以上の無礼を働けば、即時、任を解くがな」
「もちろん、無礼などいたしません!」
「ラスタ。なにがあっても、『表向き』は誇り高き騎士であれ。よいな」
「……『表向き』は?」
「そうだ」
グイラムが頷き、ラスタの肩をとんと叩く。
しばらくグイラムの言葉を考えていたラスタが、はっと表情を変えた。
ラスタが騎士らしく一礼し、自らの剣の鞘を拳で小突く。
鞘の内から、甲高い金属音が鳴った。
「承りました」
「宜しい」
グイラムも自らの剣の鞘を拳で小突く。
ラスタの剣と同様に、金属音がひびいた。
まるで剣で語り合っているようだと、レティアは思った。
しばらくして、グイラムがレティアの部屋を出て行った。
ラスタは護衛騎士として、レティアの部屋に留まった。
グイラムを見送ったあと、ラスタはにかりと笑ってレティアの手を取った。
「はは! やったぜ、レティア!」
ラスタが笑いながら何度も飛び跳ねる。
床の上の氷を踏みつけて転倒するまで、ラスタは喜びつづけた。
「ラスタ様、お静かに」
テラが、転倒したラスタを見下ろして言った。
アルトとホミンも、同意して頷く。
レティアの部屋の外にラスタの声が漏れ出ては、無礼に繋がってしまうからだ。
「す、すみません」
「気を付けてくださいね」
「もう大丈夫です。誇り高き騎士ですから」
「……心配ですねえ」
「へへ、ご迷惑おかけします」
ラスタが申し訳なさそうに笑う。
テラが苦笑いして、念押しとばかりに再度注意した。
その様子を見ていたレティアは、未だにぼうっとしていた。
再び訪れた大きな変化に、思考が付いていかないからである。
ラスタはなぜ、自分に対して親し気にしてくれるのか。
グイラムはなぜ、ラスタを護衛騎士にしてくれたのか。
レティアには、なにも分からなかった。
分からないが、なぜか、心のどこかで安堵している。
ふたりの行動に対して、安心感を得ている。
戸惑いのほうが強いのに、この安心感はどこから来るのだろうか。
「レティア」
ぼうっとしていたレティアに、ラスタの顔が寄ってきた。
レティアは我に返り、半歩退く。
「レティア。俺、お前の傍にいれて嬉しいんだぜ」
「……そ、そう、なのですか」
「そうさ。あ、でも、氷が好きだからってわけじゃないぜ。お前が好きなだけさ」
そう言ったラスタが、屈託のない笑顔を見せた。
表裏を感じない、真っ直ぐの言葉。
陽の光のようだと、レティアは思った。
「……あ、ありがとう、ございます、ラスタさん」
レティアは戸惑いつつも、小さく頭を下げた。
こぼれた声が、床にそっと落ちた。
ところがすぐに、ラスタの手がレティアを拾い上げた。
「へへ。いいってことよ!」
レティアの冷気をものともしない、ラスタの手。
その熱に、レティアの手にも温かさが宿った気がした。
第二章「傍に」は、これで終わりとなります。
次章は現在執筆中です。
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