王宮で探る 26
「ライラちゃん、私のために、本当にありがとう。その気持ち、とても嬉しいわ」
コリーヌ様は優しい声でそう言ったあと、顔をくもらせた。
「私はね、今回のお茶会に限っては、アルが心配するような、毒を使ったりとか、ライラちゃんに身体的な危険が及ぶようなことを仕掛けてくるとは考えていないの……」
そこまで言ったところで、アルがすごい勢いで立ち上がると、コリーヌ様のほうに身をのりだした。
「何故だ、母上!? 相手はあいつらだぞ! 実際、俺も母上も王宮の茶会で毒を盛られたことだってあるじゃないか! 毒を入れた実行犯しか罪には問えなかったが、後ろで糸を引いていたのはグリシア侯爵家にきまってる!」
「おそらく、そうでしょうね」
「だったら、母上! そんな悠長なことは言っていられないだろう!? ライラの身が危ない!」
「アル。少し落ち着きなさい。ライラちゃんが関わると冷静ではいられない気持ちはわかるけれど、そんな状態では、それこそ、あの方たちから、ライラちゃんを守れないわ」
切れ長の目をきれっきれにさせて、燃えたぎるアルに、たしなめるように厳しい口調で言ったコリーヌ様。
アルは、はっとしたような顔をして、椅子に座りなおした。
コリーヌ様は私をまっすぐに見た。
「ライラちゃん。アメルダ様にとったら、あくまで、ライラちゃんはアルの婚約者という存在で、直接、利害関係はない。だから、私やアルを邪魔に思うのとは決定的に違うわ。なにより、あのグリシア侯爵様を後ろ盾にするアメルダ様であっても、ライラちゃんのお父様、この国の要であるシャンドリア辺境伯様を無駄に敵にまわしたくはないはずよ。だから、アメルダ様主催のお茶会でライラちゃんの身に攻撃をするようなことは決してないと断言できるわ。アメルダ様の責任になってしまうものね。危険をおかしてまで、そんなことをする利点がないの。もちろん、毒味はこちらでも万全の対処をするから、ライラちゃんの身を絶対に傷つけさせたりはしない。……それよりも私が心配なのは、ライラちゃんの心なの」
「私の心……?」
「ええ。私もアルも、悲しいことに、何を言われても、聞き流せるくらいには、あの方たちの言動には慣れてしまっているのだけれど、今回のお茶会の目的は、ライラちゃんよ。イザベルさんがライラちゃんに会ったことで、突然、お茶会の招待がきたのだから、そこは間違いないでしょう。きっと……いえ、絶対にライラちゃんが嫌な思いをするようなことを、あの方たちは言うと思うわ。同じ王族として、本当に恥ずかしいことなのだけれど、人を傷つける言葉を平気で……いえ、むしろ好んで、発する方々なのよ。私は、ライラちゃんの心が傷付けられることがなにより心配なの。私のために、参加しようとしてくれている気持ちはありがたいのだけれど、今回のお茶会は無理しないで。ライラちゃん」
コリーヌ様がそう言って、私をじっと見つめてきた。
私を心配してくれている気持ちが痛いほど伝わってくる。
ありがたいな。
でも、こんな優しいコリーヌ様だからこそ、アルが離れた王宮で、コリーヌ様には心穏やかにお元気で暮らしていただきたい。そのためには、絶対にあの邪気のことを探り当てなきゃ! と、改めて強く思った。
◇ ◇ ◇
「……で、アルとコリーヌ様には反対されたけれど、私が断固としてお茶会出席を押し通し、ふたりが折れてくれたんだよね」
と、迎えの馬車の中で、執事のライアンにことの経緯を話した途端、大きなため息をつかれた。
「いやいや、そこはお嬢のほうが折れてくれ……。なんで、そんな危ないところに自分から突っ込んでいくんだ?」
「そりゃあ、これからコリーヌ様が安全に王宮ですごしてもらうために、あの強い邪気について調べて、原因をとりのぞきたいと思って王宮に行ってるんだから、グリシア侯爵家の関係者が集まっているのなら、絶対行くべきだよ! だって、邪気の巣窟だよ!」
「そんな元気に邪気の巣窟に行こうとしないでくれ……。まあ、でも、こうなったら聞かないからな、お嬢は……」
と、どっかで聞いたようなセリフをつぶやいたライアン。
一瞬、何か考えるような顔をしたあと、
「それなら俺もその茶会に参加する」
ライアンが力強く宣言した。




