第2話:猛吹雪の王宮と、明らかになる原因
シャンデリアの瞬きが、真っ白な猛吹雪に飲み込まれていく。
先ほどまで華やかだった王宮のメインホールは、あっという間に極寒の地獄へと変貌していた。
「ひぃぃっ! さ、寒い! 凍える!」
「ドレスが、ドレスが凍って……っ!」
あちこちから悲鳴が上がる。
きらびやかな衣装を身に纏った貴族たちは、突然の異常な寒波に震え上がり、大理石の床に広がる氷に足を取られて次々と転倒していく。
「アメリア! 貴様、一体何の黒魔術を使った!」
エドワード殿下が、ガチガチと歯を鳴らしながら私を指差した。
彼の隣にいるミアも、青ざめた顔で殿下の腕にすがりついている。
「ち、違います……私じゃありません……」
首を横に振るけれど、寒さのあまり声がうまく出ない。
ただ、私の目から溢れ落ちる涙が、床に触れる前にキラキラと光る氷の粒に変わり、それが弾けるたびに猛烈な吹雪が巻き起こっていることだけはわかった。
(どうして……私が泣くと、雪が……?)
「殿下、お下がりください! これはただの魔法ではありません!」
混乱の最中、ホールを震わせるような大声が響いた。
王宮の筆頭魔術師である、白髭の老人だ。彼は手にした杖から防寒の結界を張りながら、信じられないものを見るような目で私を見つめていた。
「魔力反応がない……まさか、伝説に聞く『精霊の愛し子』か! あの令嬢の感情そのものが、天候と直接リンクしているのだ!」
「な、なんだと!? そんな馬鹿な話があるか!」
「事実です! 彼女の深い絶望が、この異常な吹雪を引き起こしている。このまま彼女が悲しみ続ければ、王都どころか、国中が氷河期に沈みますぞ!」
魔術師の叫びに、ホールが水を打ったように静まり返った。
直後、さらに激しいパニックが巻き起こる。
『国が滅ぶだと!?』
『おい、早くあの娘をどうにかしろ!』
『誰か、彼女を慰めるんだ!』
先ほどまで私を嘲笑し、冷ややかな目を向けていた人々が、今度は血相を変えて私を取り囲もうとする。
けれど、彼らが近づこうとするたびに、私を守るかのように吹雪は激しさを増し、分厚い氷の壁となって彼らを阻んだ。
「……っ、私に構わないで!」
怖い。悲しい。苦しい。
今までずっと我慢してきた感情が、決壊したダムのように溢れて止まらない。
父に愛されなかった悲しみ。殿下に裏切られた絶望。誰からも必要とされていないという孤独。
私の心は、この吹雪のように冷たく凍りついている。
いっそ、このまま私も氷の像になってしまえば、もう傷つくこともないのに。
「アメリア……っ! 早く泣き止むんだ、命令だぞ!」
エドワード殿下が焦ったように叫ぶけれど、そんな言葉で心が晴れるはずもない。
むしろ、彼の自分勝手な声を聞くたびに絶望は深まり、気温はさらに急降下していく。
(ああ……もう、疲れたな……)
急激な温度低下のせいか、それとも感情を爆発させすぎたせいか。
私の意識は、急速に遠のき始めていた。
手足の感覚がなくなり、膝から崩れ落ちそうになる。
誰か。
誰か、私を……この冷たい世界から……。
真っ白に染まりゆく視界の端。
人々が逃げ惑い、猛吹雪が吹き荒れる中を、ものともせずに真っ直ぐにこちらへ向かってくる、背の高い黒い影が見えた気がした。




