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「あたたた……」

「おねぇちゃん、だいじょーぶ?」

「大丈夫!」



 腕を肩の高さに上げ、くっと曲げて元気のポーズ。


「だいじょーぶ!」


 紺色のマフラーを巻いたメルちゃんも私の真似をしてくっとガッツポーズ。

 ほんと可愛いこの子。ほっぺがだらんと下がるのが意識しなくてもわかる。これではだるだるに弛んでしまう。気をつけよ。


 腰というか背中、いや全身が痛い。

 肩を回すとポキポキ音が鳴る。五歳児を背中に乗せて走りまくったせいかしらね。一気に年をとった気分だ。



「足もと、気をつけてね」

「だい! じょ! ぶ!」


 風の民の女の子、メルちゃんはぴょんぴょんと元気よく飛び跳ねている。  腕を鳥の翼のようにパタパタと動かしてジャンプ。 可愛い。そして若干滞空時間が長い。風の民すごい。


 紺色のリボンマフラーも、腕から生えた薄桃色の羽根がひらひらと揺れるのも可愛い。

 パタパタする特徴的なジャンプするのは風の民だからかな。

 超可愛い。マジで可愛い。


 だからこそ細い手首に薄っすらと残る縄の跡がミスマッチで痛々しいのだ。

 妖精の水があれば一瞬で消えるのだけど今は手元にないからどうしようもできない。


 このゲス男め。


 足元で転がっているボロ雑巾を睨みつけた。


 気絶しているし、布で猿轡しているし、手と足はぐるぐる巻きに縛ってある。だから起きたとしても魔法は使えない。杖も無し、無詠唱かつ無動作で発動できるなら話は別だけど。

 きっとしばらく起きることはない。もしもの時には電気を流せばオッケーだ。


 魔力で作り出したロープで手首を結んでずりずり引きずりながら歩いている。高そうな服はボロボロに成ってしまった。衣服に罪はないのでちょっと胸が痛むけど、おんぶするのは無理なんでしょうがない。



 あっちではまだ戦闘が続いている。

 立っているのはトラジロウとレオン、そしてボードロ団長と此処からでも数えられる程の団員だけ。

 きっとあの二人なら大丈夫だ。確信は持てないけど、負ける筈ない。そう思いたい。

 がんばれ二人共!



 無事に杖もナイフも取り返すことができたし、早く援護につきたい。

 なんとあの爆発の中でスマホも杖もナイフも無傷だったのだ。

 なんという奇跡! これが奇跡!

 日頃の行いが良かったからか。思い浮かべてみようとしたけど見つからなくて断念した。



 あと傷付いていなかった物がもう一つ。



「おねえちゃん、あの箱、とってもきれいだったね」

「そうだね」


 鞄から小さな小箱を取り出した。

 美しい彫刻の施された木製の箱だ。


 これはゲマインの所持品検査をしている途中見つけた物だ。傷を付けたく無かったので私の鞄に入れておいた。ちなみに彼の持ち物はハンカチ等の必需品、私から取った物、長い杖、そしてこの箱だけだった。



 この小さな木箱は、ドラマで男性が緊張しながら取り出して「僕と、結婚してください」「はい……!」ギュッ、ムチュー、エンダァアのシーンで物凄く大切な役目を担うアレの箱くらいの大きさだ。


 細かな彫刻が施された赤茶の木目には深く味のある色艶がでている。

 高級アンティークショップとかで売ってそう。行ったことないけど。

 ちなみに中身が指輪かどうかは分からない。確認しようとしたけど固くて開かないので諦めた。力尽くでトライするのもありだけど、この装飾を傷付けてはならないと心が叫んだ。


 こんな箱をどうしてゲマインが持っているのかな。

 うーん。彼女にプロポーズする予定だった、とか?


 ……ほう。

 だから肌身離さずこの箱を持っていたのかな。

 だから自分だけ戦わずに逃げていたのかな。

 愛する彼女の元に無事帰るために。

 ……やばい。自分の想像の中でどんどん妄想が膨らんで、繋がっていく。



「…………」


 そっとゲマインのハンカチで木箱を包んで、胸ポケットの奥に戻した。

 ロープと手首の間に布を挟んで、杖を振って地面と彼の間に風のクッションを作り出す。これでひきずっても少しは負担が軽くなると思うよ。



「よし、行こうか!」

「うん!」


 石と砂の大地の上、ずりずりゲマインを引き摺って歩き出した。




「オラァァァア!」

「トラァァァア!」


 強風に乗って雄叫びが聞こえてきた。

 立っているのはトラジロウとレオンとボードロの、ついに三人だけとなった。



 トゲトゲがたくさん付いた太く巨大な棍棒を盗賊の親玉が素早く振り回すと、ボードロに接近していたレオンはパッと後ろに跳んで距離をとる。


 ニヤリと笑ったボードロが棍棒を振りかぶり、追うように飛び出した。



「レオン!」


 レオンが突然バランスを崩してしまったのだ。

 よく見ると倒れていた団員に脚を掴まれている。



「よくやったルッチィィ! 放すんじゃねェぞォ!」

「ヘイ! 団長やってくだせぇ!」


 ここでトラジロウが遅れて雷撃を放つ。


「放しやがれ! ッ、クソ!」


 迫り来るボードロに急いで逃れようとするも、鬼気迫る表情で絶対放さないと団員が粘る。



「う……」

 あんなのがお腹に直撃したら。想像するだけで恐ろしい。しかし目を閉じることを忘れその様子に見入ってしまう。


 雷撃がボードロに命中するのと同時に、ボードロがレオンを狙って棍棒を振り抜いた。



「ぐっ、あぁぁ!」


 ボードロの一撃を辛うじて剣で受け、レオンは団員諸共吹っ飛んだ。



「邪魔なんだよチクショーッ!」


 吹き飛ばされた先はアジトの岩壁。

 体勢を立て直して壁に着地をしようとする。

 が、団員が必死に足にしがみ付かれて、思い通りにいかないようだ



「くぅっ、はぁ!」


 咄嗟に杖を振った。

 両腕で空気を掴んで大きく動かし、無理やり流れを生み出すイメージだ。


 飛んでいく先はアジトだ。受け身を取らず岩壁にぶつかるのは絶対ヤバい。

 衝撃を和らげるため、彼の周囲の風の向きを変え速度を落とし、着地点に風のクッションを作った。

 私にはこれしかできない。


 その直後、レオンが壁に激突する瞬間、思いっきり目を瞑った。



「ぐぁあ! ……っと、痛ってェな!」


 恐る恐る目を開けるとレオンがめり込んだ岩壁から抜け出したところだった。

 服についた岩の欠片をはたき落とし、今度こそ本当に気絶した団員を剥がし、またボードロのところへ走っていった。


 血を流してるけどピンピンしてる。

 無事じゃないけど、無事でよかったぁ……。



 トラジロウは青い電気を纏いながらボードロの棍棒を避け、雷を撃ち込んでいた。


 青い残像を残しながら動き回る雷の精霊の方が断然素早い。

 殴られることはないと思うのでそこは安心して見ていられる。


 しかしボードロが攻撃の手を緩めないので、体勢を整えられていない。

 つまり大きなダメージを与えられないようだ。

 しかも棍棒が黒く焦げているあたり、雷は殆ど棍棒で防がれているらしい。

 さすが盗賊の親玉。

 それに子分が身を尽くし全力で親分をサポートするあたり、とても慕われているようだ。



「ぐっ、はぁっ」


 ダメージは小さいが何度も積み重なって、ボードロの動きが少しずつ鈍くなっている。

 トラジロウの効果は確実に現れているようだ。



「ネコ!」


 そこに赤髪の彼が走って戻ってきた。

 息を乱さず翠の目でボードロを鋭く捉え、再び突っ込んでいく。

 振り下ろされる棍棒をスレスレでかわしながら冷静に剣を打ち込む。



「テメー、俺がやるから手ェ出すなっつってんだろォがよ!」

「う、うるさい! お前だけだと頼りないからな!」

「そーかよ! ま、さっきのはサンキューな! 助かったわ」

「……おれも反応が遅れてすまなかった」

「んじゃ」

「あぁ」


 言い争いはすぐに収まり、二人ともボードロから距離をとった。

 ボードロと睨み合いになる。



 レオンが剣を構え正面からボードロに突っ込んでいった。


 ボードロが棍棒を振りあげるが、今度は避けようとしていない。

 棍棒をバットのように構え、ボードロは黄色い歯を見せて又と無いチャンスだと笑う。


 まんまと正面から迫るレオンの胴を狙って棍棒を振り抜いた。


 棍棒が直撃する寸前、その軌道上からレオンが消えた。



「ぐぉぉぉお!」


 次の瞬間には盗賊団長が前のめりに大きく吹っ飛んでいた。

 レオンはボードロの背後だった場所に立っているんだけど、何が起こったのか私にはサッパリでした。



「トラァァァア!」


 吹っ飛んだボードロに、トラジロウが雷角を突き刺した。

 高圧の電気をくらわせながら、小さな身体をバネのようにしならせ、なんと巨体を宙にぶん投げる。


 すぐさま後を追うようにレオンが飛び上がり、空中でボードロのでっぷりとしたお腹に踵落としを叩き込んだ。



「ぐぁぁあ!」


 ボードロは地面に勢いよく叩きつけられた。

 周囲は大きく陥没し、盗賊団長は地面にめり込んでいる。

 もう動き出す気配はない。


 地面にスッと降り立った二人はニッと笑ってタッチを交わした。

 パンっと小気味良い音が響く。



「すっごい! すごいすごい!」

「きゃー、かっこいー!」


 脂肪と筋肉の塊であるボードロが宙に浮くなんて。あの二人はどんな力で戦ってたんだろう。やっぱ筋肉か。筋肉のお陰なのか!


 というかトラジロウ素敵!

 いつもは優しさに満ちている金色の瞳を鋭く細めた、あの真剣な表情がたまらなくクールだ! 

 あの小さな身体を抱き締めたい。最高にキュートでクールだ!


 レオンもカッコよかった!

 あのおちゃらけた筋肉男のイメージが頼れる筋肉マンに!

 筋肉! 筋肉! わっしょいわっしょい!



「トラジロウステキーかっこ、わぶ!」

「かっこいいー!」


 メルちゃんに巻いてあるリボンマフラーが風に煽られ顔面を直撃した。最初に隠れていた岩まで戻ってきた私たちはそこから観戦していた。

 私の服の裾を握るメルちゃんが興奮して岩陰から出て飛び跳ねる。

 私も真似して飛び跳ねた。


 それにしてもどんどん風が強くなってきた。風に煽られたマフラーが再び私の顔面を直撃する。



「…………むぅ」


 メルちゃんが突然空を見上げた。

 私もメルちゃんと同じようにその方向を見る。

 太陽が高い位置にあるから今はまだお昼頃か。そういえばお昼ご飯食べてない。それにしても何も見えない。視線を大空を見つめる風の民の女の子に戻した。



「どうしたの?」

「……あにさま、あにさまだ!」

「ま、待って! 前見て走って!」


 メルちゃんは空を見上げながら勢いよく走り出した。

 案の定突き出た石に躓いたので、すぐさま杖を振る。



「っきゃぁ!」


 メルちゃんの首に巻かれていた幅のあるリボンマフラーがしゅるりと解けた。

 幅のあるそれがぶわっと広がり、幼女を包み込むようにふわりとキャッチ。

 前に倒れこむ衝撃を吸収するようにくるりと回転した。


 五歳児を乗せた布は地面に衝突することなく、空飛ぶ絨毯のように宙に浮いている。


 しかしそれも長くは持たない。

 走り込むようにしてギリギリで抱きとめた瞬間、魔法は解除された。

 背中から着地をすると、腕にぐっと重さが加わった。



「はっ、セーフ!」

「……ありがと」

「次からは、ちゃんと前を見て走るんだよ」

「おねぇちゃーん!」



 さらさらな桃色の髪を撫でるとメルちゃんは首筋に顔を埋めてきた。くふふ、くすぐったい。

 またマフラーをリボン結びにすれば、ぴょんと身体を起こして嬉しそうにはしゃいだ。可愛い。



「おねぇちゃん、あにさまが来たの!」

「どこどこ?」

「あそこ!」

「んー? 見えな──」



 ──ピュォォォオン……



 突然、空を切り裂くような鳥の鳴声が響き渡った。

 風が一層強く吹き荒び、視界が砂で覆い尽くされる。



「うお、うにゃぁあ!」

「よっと。へへっ」

「……すまない」


 強風に吹き飛ばされた小さなトラジロウはレオンがキャッチしたらしい。


 風に背中を向け強風に耐える。後頭部に砂がペチペチ当たっている。うう、お風呂入りたいシャンプーしたい。



 しばらく耐えていると突然風がピタリと止まった。


 何があったのかな。

 後ろを振り向こうかと思ったけどあることに気付いた。

 メルちゃんの様子が、ちょっとおかしいのだ。


 チラチラ私の背中の向こう側をみては、私に隠れるようにしがみついてくる。

 まるで、嬉しいのに何かを怖がっているみたいな……。



「メルル」

「きゃぅ…………」


 レオンのでも、ボードロのでもない、男の声が聞こえた。


 メルちゃんは声の主から隠れるように私の服に顔を埋める。


 何事か。

 そろっと振り向くと。


 巨大なワシとインディアンのような出で立ちの青年が立っていた。






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