表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
導くもの+α  作者: アカリ
導くもの 番外編
10/10

勇者召還!(下)

 ……この部屋に俺が生活を始めてからは2日が経った……と思う。

 曖昧なのはまずはじめに居たところで意識を失って気がついたらここにいたわけだが、その意識を失った時間がどれくらいだったかがわからないからだ。

 この2日は一日三食の食事が運ばれてくるだけで他は何もすることがない。

 誰かに質問をしたいのだが、外に通じる扉は一つ、扉に鍵がかかっている。窓は小さな窓が高いところにあるだけ。

 普通の高校生である俺にはこの部屋から出る手段がないのだ。


 そんな状況であるにも関わらず、俺は結構冷静。

 自分でもちょっと驚いてるんだけどパニックにはならない。

 ……けど、この状態があと2,3日も続くようじゃこんな精神状態じゃいられないよなー。


 

 部屋のノックが聞こえたので返事をする。

 お、やっと誰か俺にこの状況を話してくれることになったのかな? 


 「はい?」

 「失礼します。」


 そこに入ってきたのは俺よりも年下な女の子。

 着ている服からいかにも「魔法使い」ってかんじ。

 俺がここに来たときも「勇者」とか言う言葉が聞こえたから魔法があるのか?

 この子、髪の毛は日本人みたいに黒いけど、目の色が普通じゃありえないかんじだし。


 「この国で魔導師(マイブル)の任についております、

  アルベルティーナ・ギラルディーニと申します。

  彼方は今回召喚されたという方で間違いないでしょうか?」

 「召喚だったんスか? ……とりあえずいきなり落ちてきたってことには間違いないと

  思うんですけど……。」


 彼女は俺が居る部屋をぐるりと見回し、ちょっと考えた後(なんかぶつぶつ言っているのが聞こえた。まいぶる? とか言っていったからなんかの呪文だったのか? それとも独り言?)、俺の方に向き直った。


 「信用できないとは思うのですが、今回彼方がここに来たのは召喚の儀式が

  あったからなのですが、……彼方がこの世界に来てしまったのは

  偶発的な事故でして……。」

 「事故?」

 「申し訳ございません。」


 今回俺が来たことについて簡単に説明してくれた。


 俺は「世界を救う」とか「魔王を倒す」とか(同じようなことか?)しなくていいんだな、よかったよかった。

 安心して彼女にすぐに元の場所に返してもらえるのかと聞いたら俺が召喚されてからあまり日が経っていないので可能だという返事が返ってきた。

 じゃあ日が経ってたら俺永久に異世界生活だったのかよ……やばかったな。


 「自分が住んでいたところの名前を教えてもらってもいいですか?」

 「あ、はい。」


 これって普通に○○県の××って言えばいいのかな?

 あ、地球の日本っていうのも必要か?

 必要そうだよな、だってここ、魔法が存在しちゃう異世界だもんな。

 そうやって話したら「じゃあ始めます」と言って俺にその場から動かないことを指示した。

 なんかすごいあっさりとしてるな。

 こういうときって小説とかだと「戻す方法がわからない」とか「○○を倒せば元の世界に帰れる」とかじゃね?

 ま、事実と小説は違うってことか。


 ボーッと突っ立っていたらアルベルティーナちゃん? は何やら俺にはわからない言語を話し始めた。

 さっきまで言葉が通じてたわけだから何かしらの呪文でも唱えてるのかな。


 「ご迷惑をおかけしました。もうこちらの世界に呼ばれるようなことは

  ないと思います。

  こちらの世界に来た時間・場所に戻ることになります。」

 「あ、ハイ。」


 俺がわかる言葉で彼女が話し始めるとほぼ同時に、自分の足下にだんだんと黒い穴のようなものが広がっていく。

 ……まさか、こっちに来たときと同じ? また転落すんのかよ?

 体を移動したかったが、それでもし元のところに戻れなかったら大変だしと思って来るであろう転落に備える。


 彼女が左手でくるっと円を描く動作をすると、今までただ黒い地面だったところがいきなり穴になる。


 「うわっ!」

 「すみません、帰るときは来るときと同じ手段で戻るようにしてあったので……。」


 来たときと同じように穴に落ちた俺に最後に彼女が謝っているのが聞こえた。

 君のせいじゃないことはわかってるけどびびるものはびびるからなー!



 ・

 

 ・

 ・


 どさっ 「痛っ」


 目を開けるとそこはいつもの通学路。

 体の下にはコンクリートの道路、周りは塀に囲まれた住宅。


 「戻ってきたのか……。」


 なんかあっさり終わったな、俺の異世界旅行。いいんだけどさ。

 近くに鞄が落ちているのを見つけて鞄を拾う。

 鞄の中に入っている携帯を何気なく開いて時刻を見る。8時30分。


 「……8時30分?」


 遅 刻 寸 前 ! !

 俺は携帯と鞄を片手に持って雪が残っている道を走り出した。

 



   ◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆




 「――はい、無事に終了しました。」

 [そうか、それはよかった。]


 『勇者召喚』で来た彼は外見からして普通の高校生だった。

 「地球」の「日本」って言ってたし、私の「前の」世界だろうな。


 彼に言ったとおり、もう誰かが喚ばれるようなことはないだろう。

 私も召喚の詠唱も魔方陣も見たけど、今の魔法理論じゃ他の世界の人を喚ぶどころか1M前にある物を召喚陣まで移動させるのも不可能だし。

 本当に何で今回人が喚ばれちゃったかわからないし。


 [召喚陣については?]

 「今回何で人が喚ばれてしまったのかわからないくらいの

  失敗作だと思うのですが……。」

 [ああ、俺に説明しなくていいぞ。それについては書類で提出だ。]

 「……は?」

 [物質、ヒトの移動について専門で研究している召喚師が是非とも報告を、だとさ。]

 「え? 私がですか?」

 [他に誰も帝国から行ってないだろう?]

 「そうですけど……。」


 自分でこの村まで来て召喚陣調べればいいじゃないですか。

 私、召喚は専門じゃないですから。

 餅は餅屋って言うじゃないですか!


 そういう私が文句を言いたいのを察した遠話越しの殿下がため息をついていった。


 [城に居る召喚師はじいさんばっかりだ。……もうそんな遠出できるような年の

  方々じゃないんだよ。召喚に対する情熱は人一倍だから手は抜くなよ。]

 「…………」

 [父上がティーナは一週間滞在可能な時間が空いている……いや、

  空けたとおっしゃっていた。]

 「一週間!?」


 それくらいの時間調査するのはいいですけど、ここの村の人達と一緒にいるのってきついものがあるんですよ?

 彼のいる部屋を教えてもらうのにも時間がかかりましたし、召還したら今度は「何で勇者様を帰したんだよ」みたいな目で見られるし!

 そんな私の心境を知らない殿下は「父上がそこにある召喚陣はティーナが記録して消してくるようにという命令だ。がんばれよ。」と言って遠話を終わらせた。


 ……召喚陣が刻まれている石版まで行きますか。





                       ~ 勇者召還! 終 ~


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ