番外編 熱暴走
「氷室ちゃんって、いつもカッチリスーツ着込んでるけど、暑くないの?」
田島がハンディ扇風機を自分の首に当てながら、氷室を見た。
季節は夏、編集部はクーラーが効いているとはいえ、編集者は外回りもある。
周囲は汗をかきながら暑さに喘いでいた。
だというのに、氷室だけ汗ひとつかいていない。
「別に」
「あ、もしかして暑さを感じないお年頃?」
「高齢者扱いするな」
ひとりだけ、クールビズの概念がないのに涼しい顔をしているのは、一種異様な光景である。
「先輩、良かったらスポーツドリンクどうぞ」
小日向が差し出すペットボトルを、氷室は「ありがとう」と受け取った。
田島もスポーツドリンクをもらって、心底助かった顔をしている。
「先輩が熱暴走起こしたら、編集部が大変ですから!」
「俺はパソコンか何かだと思われているのか……?」
小日向に悪気はない。
とはいえ、人間扱いされていないのにショックを受けない氷室ではなかった。
「編集部の備品だもんね」
「備品じゃない」
田島が悪乗りし、氷室は眉間にシワを寄せて抗議する。
「でも先輩、高性能ですよね」
「褒めているようで微妙に人権がない」
小日向は本当に悪気はない。
田島は爆笑しながら、スポーツドリンクを一気に呷るのだった。




