第9話 書斎
どうも、Rowun☽です。
第9話を読みに来てくださりありがとうございます。
今回は書斎でのやり取りを中心に、少し落ち着いた雰囲気の回になっています。
二人の距離や空気感の変化も、ゆっくり感じていただけたら嬉しいです。
それでは、第9話をどうぞ。
エルダ教官に呼ばれたのは、昼食後のことだった。
俺は教官の書斎の前に立ち、軽くノックする。
コンコン。
「誰だ」
「ロム・ルーカスです」
「入れ」
「失礼します」
扉を開けて中に入る。
書斎は相変わらず静かで、整っていた。
本棚。
机。
書類。
無駄がない。
「そこに座れ」
エルダ教官が言う。
「はい」
俺はソファーに腰を下ろした。
「……今回の順位決め」
エルダ教官が口を開く。
「見事だった」
「ありがとうございます」
俺は軽く頭を下げる。
「加減もできていた」
「一応」
あれでもかなり抑えたつもりだ。
「……あの程度の挑発で動じなかったのもいい」
エルダ教官はそう言って、じっとこちらを見る。
……なんだろう。
少し視線が長い気がする。
「どうかしましたか?」
思わず聞く。
「いや」
エルダ教官は短く答えた。
「……なんでもない」
だが、視線はまだこちらに向いている。
……さっきからずっと見られている気がする。
「……あの」
俺は少しだけ居心地が悪くなり、視線を逸らす。
「何かついてます?」
「いや」
また同じ返事。
だが今度は、ほんの少しだけ視線が逸らされた。
……変な人だな。
---
「これを見ろ」
エルダ教官が机の上の紙を差し出す。
「……地図ですか?」
「敵拠点の簡易図だ」
俺はそれを受け取る。
ざっと目を通す。
入口。
警備配置。
建物の構造。
……大体把握した。
「覚えられそうか?」
「はい」
即答する。
エルダ教官が少しだけ眉を上げた。
「早いな」
「こういうのは得意なので」
本当はもう覚えた。
だが言わない。
怪しまれる必要はない。
「……そうか」
エルダ教官は少しだけ考えるように黙った。
そして。
「明日、遠征に出る」
「はい」
「お前も同行だ」
やっぱり来たか。
「了解です」
「初任務だ。無理はするな」
「大丈夫です」
俺は答える。
「無理をしないといけない場面は、ちゃんと分かってます」
エルダ教官は一瞬だけ目を細めた。
「……そうか」
---
少し沈黙が流れる。
静かな空間。
紙の音すらしない。
その時だった。
「……ロム」
エルダ教官が名前を呼ぶ。
「はい」
顔を上げる。
エルダ教官の視線が、真っ直ぐこちらに向いていた。
「……昨日のことだが」
――来た。
俺の心臓が一瞬跳ねる。
「気にするな」
「……は?」
予想と違った。
「事故だ」
短く言う。
……またそれか。
「……ですよね」
とりあえず合わせる。
「気にしていません」
嘘だ。
めちゃくちゃ気にしてる。
でも言わない。
エルダ教官は少しだけ黙った。
「……そうか」
そして。
ほんの少しだけ、残念そうな顔をした気がした。
……気のせいか?
---
「他に何か質問はあるか」
エルダ教官が言う。
「いえ、特には」
「そうか」
短く頷く。
「……なら下がっていい」
「失礼します」
俺は立ち上がる。
扉へ向かう。
その時。
「……ロム」
また呼ばれる。
振り返る。
「はい?」
エルダ教官は少しだけ言葉を選ぶように間を置いた。
そして。
「……気をつけろ」
それだけ言った。
「はい」
俺は軽く頷く。
そして書斎を出た。
---
扉を閉める。
廊下に出た瞬間。
「……はぁ」
息を吐いた。
なんか疲れた。
戦闘より疲れるってどういうことだ。
……あの人、やっぱり変だ。
そう思いながら歩き出す。
---
書斎の中。
エルダは一人、椅子に座っていた。
「……事故、か」
自分で言った言葉を、もう一度繰り返す。
そして。
「……何をしているんだ、俺は」
小さく呟いた。
【あとがき】
第9話を読んでくださりありがとうございました。
静かな回ではありますが、少しずつ関係や心境に変化が出てきた回だったかなと思います。
ここから先、さらに物語が動いていきますので楽しんでいただけたら嬉しいです。
これからも応援していただけると励みになります。
それではまた次のお話で。
またね。




