33.
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「シャルル国王陛下〜!!」
「次期国王陛下に万歳!!」
バルコニーの下から、多くの民の声が耳に届く。
「シャルル、呼ばれているわ」
「君も呼ばれているよ、ほら」
シャルルの言葉に耳を傾ければ、確かに私の名を呼ぶ声が聞こえてきた。
「ふふ、本当だわ」
「準備は良い?」
シャルルの言葉に私は頷くと、差し伸べられた手を取る。
そして、クラヴェル王国が代々受け継いできた揃いの伝統衣装を身に纏った私達は、バルコニーへと足を踏み出したのだった。
あれから、一年という月日が流れた。
この一年で、クラヴェル国の在り方は変わった。
最も大きな変化は、皇帝陛下が退位しシャルルが即位したのと同時に、シャルルは帝国を解体、クラヴェルを元の“王国”とすることを国民に宣言したことだ。
そして、皇帝陛下は緘口令を解き、自らの口と新聞でレリア殿下のことを説明し、情報を求めた。
国民は、レリア殿下の存在や帝国解体の情報に、最初は戸惑いを隠せないでいたようだったけれど、シャルルも陛下に寄り添い民に賛同を求めたことによって、その真摯な言葉が民の心を動かし、今は国民が一丸となってレリア殿下を探しているほどだ。
「シャルルは、本当に立派だと思うわ」
「そんなことはないよ。 君の方が、よっぽど立派じゃないか。
……あの父上を説得出来るなんて、君にしか出来なかった」
私はその言葉に、「そうね」と曖昧に笑い、先程まで多くの民で賑わっていたその場所を見つめ、口を開いた。
「……三度目だからよ。
二度の人生で、私も貴方も多くの傷を負った。
だからこそ、この過ちは繰り返してはいけないと思った。
強くあれたのは、それらの記憶とこの魔法、そしてシャルル、貴方がいたからよ」
「リリィ」
手すりに置いていた彼の手を、その上からそっと握る。
私は、隣にいる彼に向き直ると言った。
「私は今度こそ、貴方の隣で、この国の妃として貴方を支えたい。
……レリア殿下のことも、皇帝陛下のことも一生諦めないわ」
「っ、リリィは本当に、ずっと変わらないね」
「貴方も変わらないわ、シャルル。
私が一度目の人生で愛していた時から、何一つ変わっていない。
……いえ、むしろ変わったのかも」
「え? ……っ」
私はシャルルと距離を詰める。
そして、そっと唇を重ねた。
やがてゆっくりと離れると、その頬に手を添えて笑みを浮かべて言った。
「変わったのは、私が貴方を愛する心。 一度目の時よりずっと、この気持ちは大きくなった」
「リリィ……」
シャルルが目を見開く。
私は笑みを浮かべると、言葉を続けた。
「三度目の貴方は、一度目とは比べ物にならないほど成長していた。
それは貴方が、自ら街の人々の言葉に耳を傾け、政策を施し、国を良い方向へ導こうと努力していたから。
そしてそれは、一度目で貴方と私が話した、“理想の国”を作り上げるためではないかしら?」
「……! 気が付いたんだね」
「えぇ」
一度目。
私とシャルルは、本を片手に色々なことを話し合った。
その中で、私とシャルルが思い描く“理想の国”について話し合ったことがあったのだ。
民が困っている時は手を差し伸べ、民の意見に常に耳を傾ける。
それを国王が政治に反映させることで、成り立つ国にしたい。
シャルルの考えにより私は賛同し、多くの意見を交わしたのだ。
「私は、記憶を取り戻す前に貴方の政策を知ってとても驚いたけれど、一度目の記憶が戻った今は、貴方が有言実行したことを心から誇りに思うし、賞賛するわ。
……一人でよく頑張りました、シャルル」
「っ、やめてよ、リリィ。
君は、すぐそうやって僕の欲しい言葉をくれるから、また泣いてしまいそうになる……」
「でも、二度目の時もそうだったけれど、どうして一度目の記憶があるのだと言ってくれなかったの?
貴方のことだから、どうせ私に辛い記憶を思い出させたくないとかそういうことを考えていたんでしょう?」
「うっ……」
彼は分かりやすくたじろいだ。
それを見て息を吐くと、私は口にする。
「あのね、シャルル。
この際だから言っておくけど、私は前にも言った通りただ守られているだけなのは嫌なの。
……貴方が辛い時も、寂しい時も、もちろん幸せな時だって一緒にいたい。
分かち合いたいの。
だから、貴方が何を思って何を考えているのか、これからは教えてほしい。
もちろん、言いたくないことは言わなくて良い。
だけど、私はいつも貴方の味方でいるのだということを覚えておいて」
シャルルは何も言わなかった。
聞いているの、と尋ねようとした私を、シャルルはその腕の中に閉じ込める。
突然のことに驚き目を瞬かせる私に、彼は震える声で言った。
「うん、肝に銘じておくよ。
これからは君に隠し事はしない。
リリィと共にいたいから、僕は君に何でも話すよ。
今度こそ、君を手放すことはしない、絶対に」
「シャルル……」
シャルルは私から離れると、心からの笑みを浮かべて言った。
「やっぱりリリィは、僕の憧れた格好良いお姫様だ」
「わ、私って貴方にとっての憧れなの!?
それに、格好良いって……、姫としてどうなのよ」
「もちろん、可愛いところもあるよ。
褒められ慣れてなくて、褒められるとすぐに赤くなるところとか、後こちらから口付けをすると林檎みたいに真っ赤になるところとか」
「わーわーわー! ちょっとシャルル!!
何てこと言うの!!」
「ふふ、顔が真っ赤だよ? リリィ可愛い」
「んなっ……!? シャルルのバカ!!」
不意打ちで可愛いはずるい! と怒っていると、部屋の扉をノックする音が聞こえてきた。
私とシャルルは顔を見合わせる。
「誰だろう?」
「今日は来客の予定はなかったはずだけれど……」
シャルルの言葉に私は首を傾げると、彼は「はい」と扉に向かって返事をした。
すると、扉が開きそこにいたのは。
「ご無沙汰しております、国王陛下、並びに王妃殿下」
「「レア先生!/レア夫人」」
それは、一年前まで私の教育係を務めて下さっていた先生の姿だった。
私はレア先生に歩み寄ると、口を開いた。
「お越しいただきありがとうございます、レア先生。
とても嬉しいです」
「こちらこそ、突然の訪問をお許し下さいね。
……少々、確認したいことがあって」
「確認したいこと?」
話を聞いていたシャルルが首を傾げれば、先生は頷きゆっくりと口を開いた。
「新聞に掲載されていた王妃殿下……、レリア殿下の肖像画を、見せていただきたくて」
「っ、まさか……」
シャルルと私が顔を見合わせると、レア先生は「確証はないけれど」と言葉を続けた。
「もしかしたら私、その方のことをお見かけしたことがあるかもしれないの。
だからもう一度、確認させていただければ力になれることがあるかもしれないと思って」
レア先生の言葉に、シャルルは大きく頷いて言った。
「もちろんです。 すぐにご案内します」
シャルルはそう言って、自らレア先生を肖像画のある別室へ案内した。
情報提供を求めるため、訪れた人を案内出来るようにと、肖像画はレリア殿下の部屋から別室に移されたのだ。
情報提供を求めても、この一年でこれと言った有力な手掛かりはなかったため、レア先生の言葉が頼みの綱であることは確かで。
レア先生がじっとその肖像画を見つめている間、私達は固唾を飲んで見守っていると。
やがてレア先生は、ポツリと呟いた。
「……やはり、似ているわ」
「本当ですか!?」
「その方は、今どちらに?」
シャルルの問いかけに対し、レア先生はゆっくりと口を開いたのだった。
王妃と先生の名前がまさかの一文字違いだったことが判明しました…。
完結するまでこのままの予定ですが、完結したら王妃の名前を変更させていただく、かもしれません。
把握のほどよろしくお願いします。
また、後2、3話ほどで完結予定です!
番外編も執筆予定ですので、引き続きお読みいただけたら嬉しいです!




