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色々なことがあった次の日、店には奇妙なものを要求してくる様々な人が訪れてきた。
「失礼、君は店のものかい?モラクスの脚とロノウェの皮膜の粉末をそれぞれ4包欲しいのだが……」
「トコマは現在対応できないのでまたの機会にお越しください」
「ハルファスの剣を1本ください」
「現在諸事情により休業中でして……」
「フォカロル1匹を予約してたものです」
「一時的にここを借りてるだけで、自分は店員ではないのでどうしようもできないです」
「何故だ!一刻も早くあれを使いたいのに!」
「またのお越しをお待ちしております」
怒りながら帰っていく客人を見送りながらため息をついた。
多すぎるわ!!
1日何人来るんだよ!
しかもどれもこれもよく分からない素材ばっか要求してくるんだが!?
本当になんの店なんだここ!?
この調子だから初めはこの街に馴染むのでさえ苦労したが、ラキアとカルハの家が近くにあり、分からないことを聞きに行くことができたのは不幸中の幸いだ。
「小娘に店を任すたぁ一体あいつはどんな思考回路してやがるんだ?」
「困ったことがあったらなんでも言ってくださいね。私のできる範囲であればできる限りお手伝いします!」
そう言ってくれた2人がなんだかとても頼もしい。
2人はあれについて何か知らないかな?
店に戻って毛玉の入った瓶を持ってくると、ラキアは途端に警戒する表情になった。
それとは反対にカルハはとても興味津々だ。
「えー!可愛い!なんですかその子?」
「お前……、どこでそいつを捕まえた?」
「え?うちの棚の隙間に隠れてましたけど……、もしかしてめちゃくちゃ汚いとかですか?うわ、触っちゃったよ……」
そう言いながら軽く瓶を振る。中の毛玉が揺れに合わせて上下にバウンドし、体から落ちた紫の粉が瓶の中で舞った。
「やめろ!あとそいつを刺激するな!爆発するぞ!」
「一体何者なんですかねぇこれ?」
「悪蟲、フォカロル。こいつを殺すと半径50mが消し炭になる」
瓶を揺らす手を止める。
さっきまで可愛い可愛いと言っていたカルハは、信じられないといった表情で自分の父親の顔を覗き込む。
中で恨めしそうにこちらを睨む紫の毛玉、またの名をフォカロル。心なしか瓶の表面が温かくなって言ってるような気がする。
「こいつが悪蟲?いやいや何かの間違いでしょう。民家の嫌われ者みたいな動きして普通にうちにいましたよ」
「本来こいつは森の奥深くにいるんだ。普段は大人しく落ち葉なんかを食べて生きているんだが、厄介なのは、死を悟った時に捕食者の口に自ら飛び込んで自爆することだ。何故かこいつらは同族の爆発に耐性があるみたいで、仲間を守るためにそんなことをするらしい」
つまり私はもしかしたら大惨事になりそうなこいつを追いかけ回したり瓶に入れて振ってたって訳か。
自分のやっていたことに今更恐ろしくなって顔から血の気が引いた。
「これどうすればいいですか……?」
「本来なら森の奥深くに返してやらなきゃ行けないんだが今の時期はハルファスの産卵期だから森に入るのはダメだ。しばらく俺が預かっといてやる。こいつを使ってトコマがまた爆破テロをやらかすかもしれんしな」
そう言って私からフォカロルの入った瓶を慎重に受け取る。
「見た目は弱そうなのが逆に厄介なんだよな。稀に森の浅い所にやってきたやつを子供が捕まえて、それが爆発したっていう話を年に数回聞く」
聞けば聞くほど恐ろしいな。
弱そうな見た目でも悪蟲は悪蟲か……。
ん?そういえば予約でフォカロルを要求してきた人がいたな……。
あの時無下に断ったのはまずかったかな。
まあ相手にしなくていいって言ったのはトコマさんだし私は責任とりません。