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「ヨミ、大丈夫か?」
「はい!私もラビットは倒せます」
僕達はサンドリアに向かっています。
もちろんヨミさんがサンドリアに行けるようにですね。
何が言いたいのかと言うと、
「うん、敵弱いね」
「そりゃ私達そこそこ進めたからね」
既に町を出るためのヌシも倒したし、サンドリアのbossのワニも倒した。
今は近寄ってくるモンスターを、僕とじゃっくで倒したり追い払ってるところだ。
「ごめんなさいお二人さん、私にあわせてもらって…」
「いやいや、死霊使いがどんなのか見てみたいし」
「そうね、気になるわ」
さっきまではナイフでモンスターの首や心臓を一突きする、暗殺人の戦い方だった。
次は呪術使いと死霊使いを使った戦い方を見る。
今僕達がしているのは、ヨミさんの戦い方を見ているらしい。
僕はアドバイスなんてできないから、レッドが全部見たあとに指摘するらしい。
「じゃあ次は呪術使いと死霊使いか。俺は専門じゃないからなんとも言えないが、ゲームはそれなりにしているから少しはアドバイスできると思う」
「はい、皆さん宜しくお願いします」
「おっけー」
「頑張って」
出てきたのは2匹のゴブリンだ。
鑑定
ゴブリン(ランクC)
小鬼と呼ばれるモンスター。他種族の女でも攫い、数を増やす。すぐに増えてしまうために被害は減ることはない。
「ぎぎっ!!」「ぎっ!」
2体はこちらを警戒して、ボロボロの武器を構える。
対するヨミさんも指揮棒に見える細い杖を構える。
「行きます![速度減少]」
距離を詰めようとしたゴブリンにヨミさんが杖を振ると、ゴブリンのスピードが目に見えて遅くなる。
「召喚:ララビット、ボーンウルフ」
そこに現れたのは毛並みがボサボサのララビットと、骨だけの狼だった。
そして2匹のアンデットモンスター(死霊使いの使うものはアンデットモンスターになるらしい)はゴブリンに近づいていく。
「ガル!」
「きゅー!」
「「ぎゃぎゃ!?」」
あっさりとゴブリンはやられてしまった。
あれ?これのどこが問題なんだろうか?
「なるほど、大体分かった。とりあえず安全なところにいこうか」
「安全なところ?」
「少し戻ってララビットの広場に行くんだよ。そこなら話ながらでもララビット倒せるし」
「そっか、じゃあ行こう」
森に入ったばかりの所で戦っていたので、5分で広場に出る。
もうここで戦闘する人もほぼいなくなってしまったなぁ。
たまに初期装備の遅く始めた人が戦っているのを目にするくらいだ。町への移動は転移門使うし。
「まずは暗殺人の戦い方だな。暗殺人の特長は、初めの一撃が高くなることだな。そしてもう一つは弱点を攻撃時に攻撃力が上がる特徴だな。ここまではいいか?」
「はい!」
レッドはヨミさんに確認しながら、アドバイスをしていく。
「ヨミは最初敵を確認した時に、敵と真正面から戦っていたけど、どちらかと言えばあれは剣使いの戦い方だな。
暗殺人なら一撃必殺が目標だろうな。それでも止めをさせなかったらヒットアンドアウェイだな」
「?一撃で倒すのは無理じゃないですか?私AGLを上げすぎてSTRは高くないでしゅから」
聞いたところ、ヨミさんのAGLは30、STRは18らしい。
僕の場合は弓で引ければ一定の攻撃力があるから、STRは伸ばしてないけど、こうして見ると重要だね。
「いや、ゴブリンやララビットなら一撃で倒せると思う。
先ずは敵に近づく、ここまでは変わらない。
次は相手の不意を突くことだ。
目くらましやフェイントで相手に攻撃を確実にたたき込めるようにするんだ。出来たら相手が攻撃するとなお良い。
そして避けられない相手に初撃で、弱点を突くんだ。
これならお互いの攻撃力上昇で倒せると思う」
「レッド、話纏めたら?」
長過ぎて多分分かってないと思うよ?
「えっと、簡単に言うとフェイント等で相手を怯ませた後に、確実に弱点に初撃を当てれば勝てるってことですか?」
「そうだ!よく分かったな?」
「レッドさんが説明してくれたんですから、しっかり聞いてましたから」
あれ?これで分かるものかな?
試しにじゃっくを見ると、首を横に振る。だよね。
「あと聞きたいんだが、呪術使いのアーツはいくつあるんだ?」
「[速度減少] [攻撃力減少] [防御力減少] [魔力減少] [体力減少]の5つです」
「なるほど」
そんなに種類があるわけではないんだね。
それでも相手のステータスを下げるのは便利そうだね。
「呪術使いは今のままでも問題ない。スピードを落として攻撃すればさっきの暗殺人のコンボも決まりやすいと思う。
で、肝心の死霊使いだが、なんであの2体だったんだ?今まであいつらよりも上のモンスターも倒したことはないのか?」
「いえ、いましたけど………」
言いよどむヨミさん。どうかしたのかな?
「大丈夫、言ってみろよ。どうにか出来ることは手伝ってやるから」
「その、可愛くなかったんです」
「へ?」
「強いのは可愛くなかったから、取りませんでした」
まさかの言葉に皆しんとしてしまった。
そんなの普段使うのだけ可愛ければ良いんじゃないかな?
「そうか、どうしてもそれがいいなら数を揃えた方がいいな」
「良いんですか?もっと強いやつを捕まえろとか言うのかと……」
「人のプレイに文句は言わないさ。ミーだって地雷スキル取っても戦えてるし、工夫があればなんとかなるさ」
「カッコイイです、レッドしゃん……」
確かに僕もそう思うけど、最初レッドめちゃくちゃ説教してたじゃん。
ヨミさんのために言わないけど。
「そして、戦い方は2つに分けるより纏めてしまえばいいと思うぞ」
「纏める?」
「ああ、先ずは敵に[速度減少]を掛けて行動を遅らせる。
その間に複数のアンデットモンスターを呼び出して、敵にぶつけるわけだ。
その間に敵に近づいて背後や死角から弱点を刺す!
これが1番効率が良いと思うぞ」
「あ、ありがとうございます!次からやってみます!」
嬉しそうにヨミさんは早速試してみますと、森に掛けていく。
ちょ!?1人はダメだって!
「待って!ヨミさん!」
「無駄に行動力があるんだから!」
「俺のせいかな?」「レッド早く!」
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森の中をヨミさんを探して回る。
一体どこまで行ったんだろう?
「おい、あそこから物音が聞こえるぞ!」
「先に行くよ!」
足の速さが高い僕が、すぐにレッドの指差した場所に辿り着く。
そこはヌシがいるbossの寝床で、既に構えたヨミさんとヌシがいた。
「ヨミさん!」
「召喚:ララビット、ボーンウルフ、ボーンラビット」
「「「「「「ガルルルル!」」」」」」
「……へ?」
そこには骨の兎と骨の狼、ララビットのアンデットモンスターがいた。
ただ、今までより明らかに多かった。
そしてヨミさんが、満面の笑みで武器を手の中で回す。
正直、無邪気な笑みが怖かった。
「おい、ミーどうした……」
レッドも思わずその場で固まってしまう。
その間に、ヌシが纏めて吹き飛ばすつもりで突進する。
「[速度減少][攻撃力減少]」
遅くなったヌシに、モンスター達が避けてからしっかりと攻撃する。
ヌシも体を振り回してモンスターを攻撃するが、数のせいか一方的な戦いになっている。
「あ、あんたら速すぎ……ヨミは?」
「はっ!?そうだった!あれ!?ヨミどこだ?」
本当だ!ヨミさんが見当たらない。
モンスター達はいるから、死んだわけではないだろうけど……
その時、ヌシの近くの空間が揺らぐのが見えた。
ちょうどヌシの顔の横、そこに揺らぎが生まれたのだ。
「楽にしてあげる……おやすみ…」
本当に寝かしつけるように、穏やかな顔でヨミさんは告げる。
揺らぎから現れたヨミさんの短剣が、驚くヌシの頭蓋に滑らかに、深々と入っていった。
そして、ヌシは息絶えた。
初心者用短剣に貫かれて。
「あ、皆さん!見てましたか!?私頑張りました!」
さっきまでの、どこか恐ろしい雰囲気は霧散して、いつものヨミさんに戻った。
いきなり変わったので、僕達は少し動揺する。
「「「…おめでとう?」」」
「ありがとうございます!」
とても嬉しそうに笑う彼女に、僕達3人はなんとも言えない雰囲気になるのであった。




