進展
「武島弘和君が、お亡くなりになりました。」
「嘘だろ...」
周りの体温が下がった気がした。
「誰だよっ!こんなイタズラメールしたやつ。いい加減にしろよ!」
目がだんだん潤ってくるのが分かる。
メールの送り主を確かめた。
浜我咲中学校と書いてあった。
しばらく呼吸が止まり、
音も色に至っては奪われていった。
それからいくら期待した事か。
「嘘でした。」
や
「誤送でした。すみません。」
という、メールが来るのを。
だけどいくら待っても来なかった。
その事を悟り、現実を受け止めたと同時に、
モノクロの世界に色彩が戻って来た。
カチッカチッカチッカチッ
時計の針の進む音だけが部屋中に鳴り響いた。
「ふざけんな」
俺の頭はその言葉でいっぱいだった。
気が付けば毎日走る時のジャージに、着替えていた。
もしもの為にスマホを持ち、
テーブルに置き手紙をおいた。
「走ってくる。」
その一言だった。
もちろんそんな理由ではない。
でも、これ以上何も書けなかったのだ。
流石に、外は暗かった。
音もなく、風もなかった。
学校の規則は、学校指定の服装以外で入らない。不要な物を持ち込まない。用がない場合は校内、校庭に学校指定の時間以外入らない。
だが、そんなことなんか頭になかった。
いつも登校するのに十分くらいかかる道のりが、いつもより短く感じられた。
疲れはなかった。
武島と、もうテニスが出来ない。
悔しさ、何よりも自分の無力さに腹がたった。
事故死?他殺?自殺?
色んな事が頭をよぎった。
そうこうしている内に、
学校に着いた。
真っ暗な人気の無い学校
テニスコートにある照明がちかちか光っていた。
じっとはしていられなかった。
バンバンバンバン
バンバンバンバン
返事がない
バンバンバンバン
バンバンバ...
「...何でだよ...何で...」
上智はその場に泣き崩れた。
「武...武島、何故死んだ...」
俺は、無気力状態のまま、家に帰って自分の部屋に引きこもった。
「武島...」
俺は、脳の回路が少しいかれてしまった。
もう、戻ること無い親友の名前を
呼び続けた。
ゲームをする気にも勉強をする気にもなれなかった。
時間の感覚を忘れた頃、朝食を食べる時間となった。
食べたくなかったけど、食べろと父に言われ、
味気のない朝食を無理矢理喉に押し込んだ。
母がメールを見たらしく、
同情の言葉をかけようとしたが、
俺がすぐに
「同情の言葉なんていらないから」
と、冷たい生きた心地のしない
言葉を投げ掛けたので、
母は口をつぐんだ。
五時半に学校に着くように、
家を出た。
だが、足も心もついてこようとはしなかった。
ついて来たのは絶望だけだった。
学校にそれでも辿りついたが、
サーブを打つ気力は無かった。
「もう、嫌だ...」
世界はまるで、意地悪をしたかの様に、武島を殺した。
風前の灯は消え去った。
何者かに狙い撃ちされたかの様に
ろうそくの炎が消えるように。
「何で...」
「上智打つぞ」
「?」
知らない間にそこには立花がいた。
「いつ来た?」
「十分前からお前を呼んでるけど。
返事がないからさ」
えっ!と思い時計に目をやった。
5時半に来ていたのに、
もう、6時15分になっていた。
本当に時間の感覚がなくなったらしい。
考え事をするだけで、
45分も無駄に過ごしてしまった。
「武島。残念だよな」
ここまではこいつも皆と一緒に同情の言葉かと思った。
だが、次に出てきた言葉は信じ難い言葉だった。
「事故死だってよ。武島のやつ。
何も言えない」
「えっ!」
その一言が、事件の収束の第一歩となった。




