第16話 千年エルフと錆犬双王
◇◇◇
あれから数日が経った。
また森に入り、大陸連合を撒いた三人は、川のほとりでアルシャの義足を創っていた。
オルトラがアルシャへと出来上がった義足を装着させる。
アルシャの誘拐事件を経て、オルトラはもうアルシャに触れることを躊躇うことはなくなっていた。
「ありがとお! オルトラ、クルアハ!」
それを密かに胸の内で喜びつつも、義足を装着させてもらったアルシャはぴょんと飛び跳ねて、くるくると走り回る。拙い遠吠えを響かせながら。
「みて、みて、みて! わたくし、錆犬みたい?」
ぴょんぴょん走り回るアルシャを揃って眺めていたオルトラとクルアハが、アルシャへと満足そうに頷いて見せる。
「ああ。良い走りっぷりだ。見ていてこちらも気持ちがいいよ」
「はっ。相変わらず甘ぇんだよ、クルアハ。あんなのまだまだだろうが。吠え方も走り方もなってねぇ。子犬がいいところだ」
オルトラの言葉に、アルシャはくすくすと小さく笑い声を零す。
前は子猫だったのに、今は子犬!
きっとこれは、オルトラから見てもアルシャが成長した証拠に違いない!
「さて。それでは、そろそろ出発しようか」
クルアハの声掛けに「はあい」とアルシャは返事をして、出発の準備を整える。
次いでアルシャは、既に準備を終えていたオルトラへと駆け寄った。
「オルトラ、オルトラ――はい!」
「……はあ……どうして俺が……」
頬を上気させて、満面の笑みを以て腕を広げて見せるアルシャに、オルトラは大きくため息を吐きながらも、アルシャを抱き上げた。アルシャはきゃっきゃと笑っている。
そんな二人を流し目で見やるクルアハが、「くすり」と無表情のまま小さく笑った。
「最近はオルトラの腕がお気に入りだね? アルシャ」
「うん! あっ。クルアハもきて。はい、ぎゅー!」
アルシャはクルアハを傍に呼び寄せると、その黒髪の頭を抱きしめる。一方、オルトラが嫌そうに眉を顰めた。
「おい、何だこれは。暑苦しい」
嫌そうな顔を隠さないオルトラにも構わず、アルシャは空いている片手でオルトラのことも強く、強く、小さな細腕で抱きしめた。
「もっとぎゅっとして。オルトラ。わたくし、オルトラがだいすきよ。クルアハがだいすきよ」
アルシャは双子の錆犬の頭に、己の丸い頬を擦り寄せて、祈るように囁いた。
「ずっと、ずうっと。わたくしといっしょに居てね。このてがとどく、すぐそばに居てね。約束よ」
アルシャの「お願い」または「約束」に、クルアハはいつもの無表情を少しだけ綻ばせて頷き、オルトラは面倒そうに目を伏せながらも「嫌だ」とは言わなかった。
「ふふ。勿論だよ。アルシャ。君が望んでいる限り、ずっとね」
「はあ……もういいだろ。行くぞ」
オルトラとクルアハが並んで森の中を歩き出す。
ふとオルトラが、己の腕に抱えているアルシャを見て、首を傾げた。
「そういえばアルシャ。お前……背丈が伸びたか?」
「! ……そうね」
アルシャは一瞬、どこか大人びたような眼差しで遠くを見た。
しかし、すぐにいつもの如く丸い頬をぷくりと膨らませ、悩ましげに唸る。
「わたくし、はやく大きくなりたいわ。だけれど大きくなって、オルトラとクルアハに抱っこしてもらえなくなってしまうの……それはとても嫌なの。さみしい」
アルシャのますます増長した甘えん坊っぷりに、オルトラは呆れたようにため息を吐き、クルアハは無表情のまま「ふふ」と笑いの吐息を零した。
「心配しなくとも、大きくなっても抱っこして欲しい時があったらいつでもおいで。喜んでしてあげるよ」
「ほんとう? うれしい! これも約束ね。もちろん、オルトラも!」
「はあ? 勘弁しろ。でかくなったお前なんぞ抱いてられるか。重い」
「おもくても、約束! なの!」
「めんどくさい……」
「ほら二人とも、ちゃんと前を向いて歩いて。転んでしまうよ」
逃避行にも似た、奇妙な三人による、奇妙な冒険と旅は続く。
これは、時も空間も、過去も未来も、王も怪物も、死と生をも――万象をつなぐ。
金枝の下にて育まれる、真実の愛の物語。
【第一部完】




