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世界が滅びたので、看板を片手に旅に出ます~世界を救う相棒は、口の悪い一枚の看板でした~   作者: 雪野湯
第一章 野菜の世界

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第1話 世界は滅びました


『触れらぬ小さなきらめきが、(またた)きより速い衝動となって駆け抜け、乾いた器を荒れ狂う熱で満たしていく』



(詩? 誰の?)

 朦朧とした意識の中に、声が響く。


――……なんて凄いやつなんだ――

――認識……感情?――


 謎の声に耳を澄ます


「わからないことは考えない」

 これは……俺の声か? いや、女の声?


「心は水面(みなも)に……」

「想像する……全てを創造する……」


 意味不明な言葉が頭の中で暴れ回り、激しい痛みを伴って刻み込まれる。

 やがて声が唐突に消え、代わりにすぐそばから聞こえた。


「こんなもんか」


 その声に嫌悪感を覚え、叫びという衝動が生まれる。

「うわああああ!!」


 息を荒げて周りを見回す。

 見渡す限りの草原――そのど真ん中に、ベッドがぽつん。


「……へ?」


 ベッドの右横に、木製の看板が立っている。



――世界は滅びました――



 木目には、ゴシック体でそう書かれてあった。



「は? どっきり? 何が起きてんだ?」

 自問のつもりで呟いた言葉。その声に、看板が反応を示した。

 文字がさらりと解けると、新たな文字が浮かんでくる。


「間違って世界が滅びちゃったの。マジ、ごめん」


 内容の割には、俺のおこづかいより軽い返事。

 俺はベッドから足を投げ出して、立ち上がり、看板に顔を近づけて観察してみることにした。



「モニター画面……じゃない? ダメだ、寝起きで朝ごはんも食べてない状況だと、考えがまとまらない」

 

 ぼやける思考の中で浮かぶのは、この看板が何かを知っているのではないかという直感。

 馬鹿馬鹿しいと思いながらも、看板に話しかけてみる。


「何が起こった? 世界が滅びたってなんだ? しかも間違いって……」


 看板は再度、声に反応を示して文字を変える。

「ちょっとした手違いで世界が滅んじゃった。でも、なんとか君だけを救った。やったぜ!」


「やってない、やってない。俺だけ救ってどうすんの? で、その手違いってのは?」

「ひ・み・つ♡」

「なんで秘密なんだよ!? そのハートマークも余計だし! だけど……」



 辺りを見回す。

 人影も、建物も、車の音もない。虫の声も鳥の声も。

 ただ、風が草原を()でているだけ。


「マジで何もない。滅びた? でも、草原はあるよな。世界が滅びたんじゃなくて、人だけ滅びた? 文明が滅びた?」

「……」


 俺の疑問の声に、看板は沈黙を表す『……』を表示している。

 それが何を意味する沈黙なのか? それはわからない。



 俺は看板に世界について尋ねてみた。

「あのさ、元に戻せないの? こんな草原にほっぽり出されても、どうしたらいいかわからないし」

「戻せるよ」

「マジか! なら話が早い。じゃあ、今すぐにでも――」


「管理者に会って、復元をお願いしてね」


「管理者? 神様のこと?」

「君から見れば、そう見えないこともないかもしれないかもしれない」

「なんか歯切れ悪いなぁ……。じゃあ、さっそくその管理者とやらに会いに行こう。どこに行けば会える?」

「会えないよ。残念賞」


 淡々とこちらを小馬鹿にしてくる文字に、じわじわとイラつきが募る。

 だが、それをぐっと腹に収め、わざとらしいほど明るい声を絞り出した。

「じゃあ、どうすればいいんですかねっ?」


「あのねぇ、炭素の塊にカビの生えた程度の分際で、崇高なお方に簡単に会えると思う?」

「崇高か何だか知らんが、いいからさっさと会わせろよ」

「会いたいなら、善行ポイントを貯めてからどうぞ」

「善行ポイント?」



 看板は木目の表面に矢印を描き、遠い草原の向こうを指し示す。

「あっちに、『穴ぽこ』と言われる次元の扉がある。その穴ぽこの先には、いろんな世界があって、それぞれ問題を抱えているんだ」


「ふむふむ、それで」

「その問題を解決すると、善行ポイントが積まれるというわけ」


「ふ~ん……ポイントに次元の扉ねぇ。つまりその扉ってのは、異世界に通じる穴ってことか? ちょっとおもしろそう」

「君はのんきだね。世界が滅んだのに」


「滅ぼした張本人が言うなよ!」


 俺は至極真っ当なツッコミを入れる。

 すると、看板はため息だけを描く。

「はぁ……」

(戸惑いが薄いなぁ。まだ、目覚めたばかりだから、感情の揺らぎがいまいちなのかな?)


 

「おい、どうした?」

「ううん、なんでもない。滅んだ責任は君の言うとおり、こちら側にある。だからこそ、復元をお膳立てしてあげてるんだよ。ありがたいやろ、どやぁ」

「原因の分際でなんで上から目線。しかも、言葉遣いが安定してないし」


「別に気にすんな。ともかく、僕は君の力になるための存在。守ってやるから、よろしくな」

「次はため口かよ。急に距離を詰めてくるAIみたいなやつだな、お前は」

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