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第29話 その歌声に、鼻血プー

今回、陽代乃の服が元に戻り、現在の服状況はこんな感じに。

挿絵(By みてみん)



 スマホ画面をタップし、安定の『子供時代の俺へ』を選曲。歌い出す。

 歌い慣れた、歌詞も見ないで歌える曲。

 歌いながら、チラリと陽代乃の表情を窺う。


「…………っ」


 (まぶた)を閉じ、賛美歌に祈りを捧げる信者かのように聴き入る陽代乃。

 どうやらフニャッてはいないようで、鷹也はホッとして歌い続ける。


「♪つらく~ても~ 泣きそでも~ 今を生き~てるんだ~~~♪」


 サビを気持ちよく歌いつつ、またチラリ陽代乃を窺う。

 変わらぬ微笑みで聴き入る陽代乃だったが、その鼻孔から鮮やかな赤色がツウッとひと筋。


(え…………?)


 鷹也の疑問符とほぼ同時のタイミング、陽代乃はプパッと鼻血を噴き、そのままゆっくりと前のめりに倒れ込んでいく。


「ちょっ……!!」


 テーブルに頭をぶつけそうな陽代乃を受け止めようと、咄嗟に手を伸ばす。


(これ……[以前'まえ]にも同じような光景を!)


 スローモーションのように感じる時間の中、[以前'まえ]と同じ受け止め方にならないよう考える。

 が、体は思うように動かず、結局そのボリューミーな胸をまた手のひらで受けた。


(◆※○☆▲★◎◎◎◎◎!!!!)


 鷹也の脳髄は情報を処理しきれず、ショートしたように機能不全。

 ノーブラの胸の感触はあまりにも刺激的で、鷹也はそれを抱えたまま固まってしまった。


([以前'まえ]と……全然違う! 柔らかさが想定外で、すぐに手がズレていっちゃうよ! それに……手のひらのこの感触……ッ!)


「ハッ……いかんいかんいかん!」


 陽代乃が言っていた『本来の初めてシチュにおける感動』のため、鷹也は記憶を消し飛ばす勢いで(かぶり)を振る。

 そして、脱力した陽代乃の体をなんとか抱え上げ、ソファへ寝かせた。


(あんなに……俺との今後を大切に想ってくれてるんだ。裏切るわけにはいかない……よな)


 深い溜息をつき、ポケットからティッシュを取り出す。

 一瞬ためらうが、一度頭を下げ、丸めたティッシュを陽代乃の鼻孔に突っ込んだ。


(うまいこと床に向かって噴射したみたいだな。服にはそんなに付いてない。顔も拭いた方がいいか? でもメイクがあるし……)



     *          *



「曲は鳴り続けているが、声が聞こえなくなったな。おそらく小埜鷹也の歌で、陽代乃が気絶したのだと思うが……」


 いともたやすく陽代乃の現状を言い当てる雅桜。

 千鶴はそれを聞いて『マジか』という顔。


「そこまでヤバいの? ほんと陽代乃ちゃんて変わってるよね。ま、おにーの歌がいいのは認めるけど……」


 呆れたようなその呟きに、雅桜は無表情のまま千鶴の顔を見つめる。


「な、何すか。こっち見ないで」

「いや、兄の歌を認めているのだな、と思っただけだ」

「そんな意外そうに言われても困るっすわ。『好きとかじゃなく、兄に依存してる』って言ったけど、『嫌い』とはひと言も言ってないし」

「確かにそうか。勝手なイメージで判断してすまない。思ったより、可愛い妹なんだな」

「なっ……か、可愛い妹ではねーわ! キモいことゆーな!」


 突然、無愛想ガイから『可愛い』という言葉が飛んできて、千鶴は力いっぱい動揺する。


(今、こんな服着てるのもあって、アタシ自身に言われたみたいでザワッとしたわ。この人も、なんでこんなにヘンなんだろ。こういう比較対象があると、おにーはマシな男なんだって思うな……)



     *          *



「ん…………ハッ?」


 陽代乃が飛び起き、現状を確認すると、鷹也はティッシュで床を拭いていた。

 気絶していたのは、ほんの2・3分。もちろん、曲の演奏は止まっていた。


「ごごごごごごめんなさいっ!! 私、歌の途中で……あああ最悪……」

「気にしなくていいですよ。歌なんて、いつでも歌えますから」

「ううう、ほんとごめん……あっ、私が拭くよ!」

「もう終わりました。床は大丈夫だけど……パーカーに少し付いちゃったので、すぐクリーニング出した方がいいですね」


 陽代乃が自分の胸を確認すると、点々と小さな点が付いていた。


「わわ、やらかしちゃった……買ったばっかなのにぃ~!」

「探せばクリーニング屋さん近くにあるでしょう。トイレで元の服に着替えてきてください」

「で、でもでも、せっかくのカラオケが……」

「またいつでも来れますって。早く処置した方がいいし、行きましょう!」



     *          *



 ふたりがカラオケ屋を出た時、街は夕焼け色に染まり始めていた。


「ほんとごめんね……耐える予定だったんだけど。うう、鷹也くんの歌、もっと聴きたかったな」


 元のワンピースに着替え、マスクの下では鼻に詰め物。鼻声で言う陽代乃。


「いえ、俺の方こそカラオケ誘って、すみませんでした。その……もう少し慣れた頃、また行きましょう」

「慣れるかなぁ? 毎日、好きの気持ちが大きくなるばっかで……あっ、いや、ウソ! 違う、ウソじゃないけど! 忘れてっ!!」


 自爆して赤面する陽代乃に、鷹也も顔を合わせられず誤魔化すようにスマホを触る。


「一番近いクリーニング屋さん、ここから10分くらいみたいです。とりあえず行ってみましょう!」


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