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歴史転換ヤマト  作者: だるっぱ
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白山登山⑨これまでの旅を振り返って

 三日目の朝、いつものように日の出前に目が覚めました。真っ暗な中、インスタントラーメンを茹でながら、並行して荷物のパッキングを行います。熱いラーメンを啜り食欲を満たしました。テントをパッキングして出発の準備が整います。太陽が昇り始めました。辺りを視認できるようになり、キャンプ場のそこかしこで、宿泊客がテントから出てくるのが見えます。このまま直ぐに出発しても良いのですが、トイレに行くことにしました。そのトイレで昨晩知り合ったニュージーランドの人に出会います。挨拶をしました。


「おはようございます」


「おはようございます」


「今日、帰られますか?」


「はい。もっとゆっくりしたいですが、帰らないといけません」


「一日150km走っても、吹田まで二日は掛かりますね」


「はい。そうなんです。今日は、琵琶湖の高島の友人に会いに行きます」


「テントは張れるんですか?」


「大丈夫だと思います。あなたも帰られますか?」


「ええ、東尋坊まで足を伸ばした後、福井の博物館を見学してから、大阪に帰ります」


「気を付けてください」


「ありがとうございます」


 彼と別れた後、リアキャリアに荷物を積んだスーパーカブに跨り、鮎川園地キャンプ場を後にしました。国道305号線を北上して東尋坊に向かいます。途中、コンビニエンスストアを見つけたので、お茶を購入することにしました。店舗の自動ドアの前にスーパーカブを停めます。店内に入り、冷ケースの中から麦茶のペットボトルを手に取り、レジに向かいました。清算を済ませます。立ち去ろうとすると、声を掛けられました。


「あの~、すみません」


 年のころは、30代もしかすると40代くらいの細身の男性です。清算の際に金額でも間違ったのかな、と思いました。


「えっと……何か間違いました?」


「いや、違うんです。その~、昨日、白山に登られていませんでしたか?」


 僕は、目を丸くします。白山を登頂してからの帰り道、すれ違った登山客は沢山いました。しかし、彼のことは覚えていません。


「ええ、登りました。どこかで、お会いしたのかな?」


 彼は、大きく手を振り、僕の問いかけを訂正します。


「違うんです。違うんです。表にある黄色いカブをよく覚えていて……」


「ああ、なるほど」


「僕、あなたのカブの隣に、ハンターカブを停めていて……あの黄色いカブは一度見たら忘れないから……」


 僕のスーパーカブは、元々は黄色と白のツートンカラーだったのですが、現在は黄色と黒のツートンカラーになっています。阪神ファンというわけではないのですが、確かに他では走っていないカラーリングでした。


「ハンターカブ。確かに停まっていました。あのカブはあなたのだったんだ」


「そうなんです。僕も白山に登っていました」


「そうなんだ~。カブに乗って登山をしている仲間がいるなって、僕も親近感を感じていたんです。白山にはよく登られるんですか?」


「はい。もう50回は登りました」


 また、目を丸くしました。


「50回!! そんなにも……」


「いや、近くに住んでいるから……」


 話が盛り上げかけたところで、店内にお客様の一群が入ってきました。商売の邪魔をしてはいけないので、僕は頭を下げます。


「込み合ってきたので、お邪魔します」


「お気をつけて」


「ありがとうございます」


 スーパーカブに跨り、コンビニエンスストアを後にしました。僕の旅のスタイルは野宿ばっかりしているせいか、どこか人目を忍ぶ旅になりがちです。今回の旅は、キャンプ場を利用したことが影響したのか、楽しい出会いが幾つかありました。ちょっと嬉しい。スーパーカブを走らせながら、ニンマリしてしまいます。三日目の最終日は、東尋坊やお隣の雄島に立ち寄り、福井県立歴史博物館を見学し、継体天皇像に挨拶して、その後は真っすぐに帰りました。


 継体天皇は、5世紀中ごろに滋賀県高島で誕生した後、母の里である越前国――現在の福井県で育てられ、男大迹王おほどおうとして国を治めていました。この福井の地で、そうした足跡が残されていればと期待していたのですが、福井県立歴史博物館にはそうした情報はありません。考えてみれば、継体天皇が越前国を治めていたという情報は、古事記や日本書紀に記されているだけで、それ以上の情報を現地で求めるのは無理があったようです。それでも、これまでにご紹介してきたように石川県立白山ろく民俗資料館や白山比咩神社に足を運べたのはとても良かった。書籍上の情報ではなく、実際に本物に触れることで感じた体験は何物にも代えがたい。今後、物語を創造する上で大きな力になると考えています。


 2023年2月6日に「歴史転換ヤマト」と銘打って、歴史エッセイの投稿を始めました。あれから2年と半年が経過します。このエッセイの目的は、今後執筆に取り掛かるであろう「聖徳太子の物語」の為の、僕のためのデータベースでした。初めの頃は、読んだ書籍の中からエッセンスを紹介する形で投稿してきました。


 ところが、調べれば調べるほどに現地に足を運びたい欲求に駆られ始めます。僕の足は50ccのスーパーカブのみ。初めの頃は、大阪の摂津市から奈良の明日香村に行くだけでも、大冒険でした。機内は、聖徳太子や継体天皇に関係する史跡が数多く残されています。奈良、大阪、京都、和歌山と活動の範囲を広げていきました。


 一年半前の正月の夜、嫁さんとの些細な喧嘩が切っ掛けで、急遽、伊勢神宮に行くことを決めました。予定なんか全く立てていません。手持ちのキャンプ道具をかき集めて、次の日の日の出前には家を飛び出しました。大人げない僕です。折角遠出をしたので、紀伊半島を一周することにしました。ところが、伊勢神宮を参った後、山の中でガス欠になってしまいます。その後、相棒を30kmも押して歩きました。雨にも降られます。散々な旅だったわけですが、問題解決の為に僕の頭はフル回転。とても思い出深い旅になりました。


 その後、二泊三日の旅が常態化します。本当は四泊でも五泊でもしたいのですが、仕事柄、連休はそんなにとれません。連休をやり繰りする中で、丹後半島探索、出雲大社お参り、大台ヶ原登山、大峯山系冬登山、長野白馬岳登山、そして今回の白山登山と相棒のスーパーカブに跨って歴史探索の旅を続けてきました。歴史探索と偉そうなことを言いながら、野宿の旅がしたいだけ……かもしれませんが、実際に足を運ぶことで、得た感動は僕だけのものです。とても貴重でした。また、データベースという意味だけでなく、旅の内容を文章化することで、文章を綴るという技術の向上も狙っていました。


 歴史探索を目的とした僕の旅は、今回で一旦は一区切りしようと考えています。これからも旅は続けますが、これからの旅は歴史探索という目的がなくなり、僕の趣味として傾倒しそうです。特に、冬山の登山に憧れています。


 白山登山に関する紀行文は、これにて終了します。2年半前の僕と、今の僕とでは古代に関する認識が大きく変わりました。次回からは、これまで2年半に渡って勉強してきた日本の古代史について、僕なりの見解をまとめてみようと思います。ここまでお読みいただき有難うございました。

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