『悪夢』
『酷いんですよ、本当に。毎日、毎日、あのようなものを見せられて、頭がおかしくなりそうです。どうにかしてください』
「それは大変ですね。悪夢に悩まされているとのことでしたが、毎日同じような内容なのでしょうか?」
『はい。と言っても、完全に同じというわけじゃなくて。始まりと結末だけは違うんです』
「……つまり、全く同じ部分もあるわけですね。症状としてはどうでしょうか? 睡眠不足以外に悩まれていることなどは?」
『……もう収拾がつかないです。夜中に全く寝ることができないので、昼間に寝落ちしてしまうことが増えてしまって。あまりにも酷くなったので、仕事を辞めざるを得ませんでした』
「昼間にはその夢を見ないんでしょうか?」
『見ますよ、もちろん。でも、体が耐えられないんです。それに昼間ならいろんな人が起きている。寝るまでは安心できるんです』
「夜は他の人たちが寝ているから怖いと思うわけですか?」
『ええ。子供みたいなことを言ってるのは分かってます。でも、もう夜に眠れないんです。毎日、日が暮れ始めるとカフェインを大量に摂取するようにしています』
「なるほど。とにかく、夜には寝たくないわけですね。そうなると昼間もかなり短い睡眠しか取れないんじゃないですか?」
『はい、その通りです。かなり頻繁に目が覚めるんです。1時間も続けて寝られたら良い方ですよ。先生、ほんとに何とかしてください』
「●●さんの場合、かなり深刻ですからね。私も手を尽くしたいと思います。ちなみに症状はいつ頃からでしょうか? 聞くのが遅れました」
『2ヶ月? とかだったと思います。最近、頭がぼーっとしてしまって。今日何日でしたっけ』
「16日ですよ」
『うーん。じゃあ多分そうだと思います。そもそも何日に症状が出たのか覚えてないので』
「分かりました。では答えられる範囲で答えてください。思い出すのが躊躇われるようでしたら無理をしなくて大丈夫です」
『……はい』
「その悪夢はどのような内容でしたか?」
『……め、目を……』
「目を?」
『目を……抉るんです。こう……』
「……はい」
『種を取るみたいに、やって。それをボールに入れていくんです。山盛りの上に』
「……なるほど」
『それが終わったら、新しい首が送られてきて。またそれを繰り返すんです。えぐって、掬って、ボールに入れる。こんな風に』
「……分かりました、分かりました。もう結構です」
『続けると器具の切れ味が鈍るんですよ。血とか神経がこびりつきますから。それを近くの蛇口に行って洗うんです。でもなかなか手強いんですよ』
「●●さん? もう結構ですよ」
『ごしごしー、ごしごしー、とやって。山盛りになるまで続けるんですよ。あの感触が気持ち悪くて。まあ、癖になるときもあるんですけど、やっぱり、手に残るっていうかー』
「聞こえてますか? もう結構と言ってるんです。どんな内容なのか分かりましたから」
『……でも何でだろ。やってる時は怖くないんだよな。目が覚めたらすごく怖くて』
「……●●さん?」
『あれ? 私何で怖がってたんだろ』
「……え?」
『もう、大丈夫です、先生。すっと具合が良くなりました。あー、安心したらお腹が空いてきましたよ』
「はあ。それは……良かったですね」
『肉が食べたいな』
「……念のために睡眠剤を出しておきましょうか。一時的なものかもしれませんし」
『大丈夫です、先生。むしろ、早く見たいです。あー、美味しそう』
「……分かりました。何かありましたら、またお越しください。お大事に」
『ありがとうございました』
◆ ◆ ◆
「……ん? どうされました?」
「え? ちょ、ちょっと、何してるんです?」
「は? 外に? この高さから? いやいや、ダメ。ダメですって。おい! 誰か来てくれ! 早く!」
「そう、そこを掴め! 私が押さえてるうちに。おい、君! 警察を呼んでくれ」
「ああっ、しまった。待て。そっちに行くな! そっちは外ですって! 危ない!」
「……な……なんてことだ。おい、下に行くぞ。担架だ! 担架を持ってこい」
「いったいどうなってるんだ」




