参戦するも
本證寺・堂内。
熱気と敵意が、薄暗い堂内に満ち満ちていた。
集まった一揆勢の真ん中で、戸田忠次と弟の勝則は冷ややかな視線を一身に浴びていた。
「……腑に落ちませんな。戸田殿。」
薄汚れた床に座したまま、睨みつけるように言い放ったのは本多正信。
その目は酷く冷え切っている。
「何が腑に落ちぬというのだ、正信殿。」
忠次が問い返すと、正信は鼻で笑った。
「戸田家といえば、かつて今川に追われた際、岡崎の松平に救われた身。その恩義は並大抵のものではない。それが何故、こうも容易く家康に弓を引くのか。お味方の中に、松平の諜者が紛れ込んでいるのではないか?……そう疑う者がおるのも無理はない。」
周囲の門徒や国人衆から、地鳴りのようなざわめきが湧き起こる。不信の目が一斉に戸田兄弟に突き刺さった。
「無礼な! 我ら戸田の忠義を疑うか!」
弟の勝則が刀の柄に手をかけ激昂する。
忠次はそれを手で制したが、自身の拳も怒りで微かに震えていた。
「正信殿。私は松平の家臣らには感謝しか持っておらぬ。だが、今回の家康のやり口は到底容認できぬ。守護不入の特権を破り、本證寺の富を強欲に毟り取らんとする……あれは義戦ではない。ただの略奪だ。だからこそ、私は一向一揆側に立つと決めた。」
「……口では何とでも言える。腹のうちは、岡崎城の殿と繋がっているやもしれぬ。そうではないという確証はおありか?」
正信は取り合おうとしない。周りの者たちも「そうだ!」「証を立てろ!」と口々に罵声を浴びせ始めた。
かつてない屈辱が、忠次の胸中を黒く染め上げていく。
「……よかろう。信じぬ者に、これ以上語る言葉はない。」
忠次は正信を鋭く睨みつけ、踵を返した。勝則もまた、怒りに肩を震わせながら兄の後に続く。
堂外へ出る二人を、嘲笑と罵声がどこまでも追いかけてきた。
本證寺・寺門の外。
夜風が、火照った顔を冷やしていく。
勝則は悔しさに歯噛みした。
「兄者! 侮られてなるものか! 我らの大義を、あの正信ごときに……!」
しかし、忠次は静かに闇を見つめていた。
その目は、先ほどまでの「家康の非を鳴らす」ものから、完全に冷めきっていた。
「……もうよい、勝則。本證寺のために命を賭そうとした我らが愚かであった。あの者らは、ただ猜疑に狂った烏合の衆に過ぎぬ。」
忠次は懐から数珠を取り出すと、それを地面に叩きつけた。
バラバラと音を立てて弾け飛ぶ木の群。
「この恥辱、決して許すわけにはいかぬ。我らはこれより……松平の側につくぞ!」




