"揺れるアフロ"と"しじみ汁"①
私は『誰とでも簡単に寝る女』らしい。
高田大学二年生、文学部所属の小野朝霞は、大学に入学してから絶え間なく流れ続ける己の噂に若干嫌気がさしている。
確かに私は性に関する過剰な潔癖さを持ち合わせてなどはいない。
だからと言って、自分からガシガシ男を漁りに行く肉食系というわけでもない。
ただ、私のこの小柄な身長、一度も染めたことのない黒髪、底の厚いメガネ——そしてメガネを外した時にそこそこ見栄えの良い顔立ちが、男どもの妙な劣情を刺激するらしい。
「俺だけは、この子の本当の良さを分かっている」
そう言いたげな眼差しを向けられるたび、私は心の底で冷ややかな溜息をつく。
お前に私の何がわかるのだ。
明るくてモテるイケメンではなく、どちらかと言えば地味な男。
男子校出身の元ガリ勉や、部活一筋で女子とまともに話したこともなさそうな奴ら。
それが、ここ「高田大学」で私に寄ってくる男子の大半を占める特徴だ。
ゆえに、意図せずとも私はとにかくモテてしまう。
キャンパスのあちこちで見かける、インカレサークルのキラキラした他大生の美女たち。
手入れされた明るい髪、ブランドバッグ、完璧に作り込まれたメイク。
うちの大学の雑魚どもは、彼女たちを遠巻きに眺めながら敬遠する。
本当はそういう華やかな女の子が大好きな癖に、良くも悪くもうちの大学の男どもは「自分とは釣り合いが取れない」と理解しているのだ。
そしてなんとも屈辱的なことに、童貞野郎どもの「俺でもいけるかも」というラインにジャストフィットしているのが、私のような存在なのである。
そんな奴らから変にモテてしまうのも、噂話が盛り上がる原因の一つであることは間違いないだろう。
私も高校までは例に漏れず、図書室で本を読み、家では漫画やアニメを嗜むただのガリ勉オタク女子だった。
高田大学に入れる程度の学力は常にキープしていたので、高校三年生の夏休み前、周囲が本格的に受験勉強を始めようというタイミングでクラスの男子から告白された時も、特に断る理由がなかった。
特別好きな相手ではなかったが、クラスでも目立つ活発で人気のある男だったため、自己評価の低かった私は告白されたこと自体に気を良くしてあっさりと承諾した。
交際から一ヶ月も経たないうちに、親が留守にしている彼の家に連れ込まれ、私の初体験はいとも簡単に済まされた。
「まあ痛いけど、聞いていたよりはマシか」という冷ややかな分析。
そして、クラスの人気者である彼が、このしょうもない身体に必死でしがみついてくる情けなさ。
そこには、若さゆえの拙い欲望を受け止める母性と、歪な優越感だけが残っていた。
夏休み中は勉強会を名目に毎日のように彼の部屋へ通い、思春期男子が持つ若き衝動を受け止め続けた。
けれど、夏が終わる直前、私は唐突に切り捨てられる。
理由は「なんか違う」——ただそれだけだった。
……まあ、それなりに愛着が湧いていたのだろう。
ちゃんとしんどかったし、傷つきもした。
それでも私は「わかった」の一言でその関係を終わらせた。
思い返せば彼は見栄っ張りで負けず嫌いな男だった。
思春期男子特有の「経験人数のマウント合戦」で手頃な女を探した結果が私だったのだろう。
悔しくないと言えば嘘になるが、「本来なら私なんかと口もきかない男とちょっとした思い出ができた」と割り切ることにした。
私は私なりに「良い女」の理想像がある。私の思う良い女は、去った男を惨めに引きずったりしないのだ。
……まあ、一週間は引きずったけれど。
その後、彼には新しい彼女ができた。
それでも私は何度か都合よく呼び出された。「別にセックスが嫌いじゃないし、ちょうどいい相手が彼だっただけ」と自分に都合の良い言い訳をしつつ、いわゆるセフレの関係として高校生活の終わりまでダラダラと関係が続いた。
結局、私の中に彼への情が残っていただけなのだ。
そんな曖昧な関係も、彼が大学受験に失敗して地方の私立へ飛んだことで、物理的にも心理的にも完全に終焉を迎えた。
「小野朝霞は誰とでも簡単に寝る女だ」という噂だけを東京に残して。
※この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。また、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。




