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最果ての機械技師ノア  作者: 楓まんじゅう
第二章 異界門編

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第十一話 妻の日記

今回は、あの小屋に残されていたものを調べるところから始まります。


そこでノアたちが見つけたのは、一冊の古びた本。


果たして、そこには何が書かれているのか。


それでは、第○話をお楽しみください。

ルフトが扉を開けると、三人は再び小屋の中へ入った。

「さて、何から調べる?」

ノアは小屋の中を見回す。

「まずは奥さんが使ってた物を探そう。」

「あぁ。」

アガメは頷くと、小屋の奥へ歩いていく。

「それにしても、お前こんなとこで生活してたとはな」

「いや、私は暮らしていない。ここにいたのは妻だけだ。」

「は? 夫婦なんだろ? 一緒には住まなかったのか?」

「……住めなかったんだ。」

アガメは小屋の中を見回す。

「ここは、妻の隠れ家だった。」

「隠れ家?」

ノアは驚いたような顔をする。

「どうして、こんなところに?」

ノアが尋ねる。

アガメは二人をじっと見つめる。

「……お前たちは、どこまで知っている?」

「何のことだ?」

ルフトがすぐに返す。

アガメは目を細めた。

「とぼけるな。巫女様のためにここまで来たんだろう?」

「……。」

「なら、何も知らないということはないはずだ。」

ノアとルフトは顔を見合わせる。

「……生贄のことなら、少しだけ聞いてる。」

ノアが答える。

「巫女様から聞いたのか。」

「それは言えない。」

アガメの表情が険しくなる。

「そうか。」

短い沈黙が落ちる。

「もう一つ。」

「何?」

「お前たちは、なぜ巫女様を助けようとしている?」

ノアは少し考えた。

「……あいつが助けてほしいって言ったからだ。」

「それだけか?」

「それだけだ。」

ノアはアガメを真っ直ぐ見つめる。

アガメは黙ってノアを見る。

やがて、小さく息を吐いた。

「……そうか。」

「それで?」

ノアが問い返す。

「妻の話だ。」

アガメは小屋の奥へ視線を向ける。

「妻は、生贄に選ばれた。」

「……。」

「俺は、それを受け入れられなかった。」

アガメはゆっくりと歩き出す。

「だから、妻をここへ隠した。」

「この小屋に?」

「あぁ。」

「じゃあ、あんたは?」

「俺は村に残った。」

「どうして?」

「俺まで消えれば、妻を逃がしたことが知られる。」

アガメは振り返る。

「だから、妻を生贄として捧げたことにした。」

「……。」

「村の誰にも、ここで妻が暮らしていることを知られないようにな。」

ノアは小屋の中を見回す。

さっきまでただの古びた小屋だった場所が、暗い洞窟の隅でひっそりと佇む孤独の城に見えた。

「……ここで、ずっと一人だったのか?」

「あぁ。」

アガメは静かに答えた。

「俺が時々食料を持ってきていたが、そう簡単に来れる場所ではないからな。」

「皮肉なものだ、誰にも見つからないためにこんな場所で暮らしていたのに誰かに見つけて欲しいだなんてな…。」

「そうでも無いと思うぞ?」

「お前に何がわかると言うのだ。」

「だって少なくとも俺は見つけたからな。」

「それにお前がいるだろ?」

ノアはアガメを見る。

「なら一人ぼっちじゃないじゃん。」

アガメは何も言わなかった。

しかし先程まであったどこか悲しげな表情が少し晴れたような気がした。


「……探すぞ。」

「おう。」

「……さて、探すか。」

ノアは気を取り直すと、小屋の中を見回した。

「奥さんが使っていた物って、具体的にはどんな物があるんだ?」

「衣服や本、装飾品……あとは日用品くらいだ。」

「じゃあ、手分けして探そうぜ。」

三人は再び小屋の中を探し始めた。

ノアは壁際に置かれた古い机へ向かう。

「……ここは?」

引き出しを開けようとする。

「……固いな。」

「無理に開けるな。壊れるぞ。」

「分かってるって。」

ノアは引き出しを少し揺らし、慎重に引っ張った。

ガタッ。

「おっ。」

引き出しが開く。

中には古びた布や小さな装飾品が入っていた。

「……ん?」

その奥に、一冊の古い本が挟まっている。

ノアが取り出し、表紙についた埃を払う。

【我が愛しの日々】

「これ……日記か?」

アガメが振り返る。

「……それは。」

「日記みたいだぞ?何か知ってるのか?」

「いや…何も。」

「そっか。見てみるか?」

「……私はいい。お前たちが見ろ。」

「わかったよ。」

そう言うとノアはゆっくりと日記を開いた。



【月神歴 九百六十三年 四月一日】


私は今日から、この小屋で暮らすことになった。


アガメが私のために用意してくれた小屋。


村から離れていて、周りには何もない。

聞こえるのは風の音と、水の流れる音くらい。


正直、不安で仕方がない。


こんな場所で一人で暮らしていけるのだろうか。


でも、きっと大丈夫。

アガメが「大丈夫だ」と言ってくれたから。


その言葉だけで、少しだけ安心できた。


【四月八日】


今日、アガメが食料を持ってきてくれた。


村であったことを色々と話してくれたけれど、半分くらいはくだらない話だった。

どうやら私は生贄になったことになってるらしい。


みんなに会えないのは寂しいけど、アガメが居てくれるだけで私は嬉しい。

誰かと話すだけで、こんなに安心するものなのだと思った。


帰る時に、また来ると言ってくれた。

次に会える日が楽しみだ。


【十月一日】


この生活にも、だいぶ慣れてきた。


最初は何をするにも不安だったけれど、今では一人で食事を作れるようになった。


掃除も少しずつ楽しくなってきた。


少し外に出て、川辺を歩くことも増えた。


ここに来る前は、こんな場所で暮らすことになるなんて思いもしなかった。


不思議なものだ。


【十月一日夜】


夜中に大きな音がして目が覚めた。


洞窟の奥から金属を引きずるような音が聞こえ、真っ赤な瞳が当たりをうろついていた。


怖くて、朝まで眠れなかった。


アガメは「近づかなければ大丈夫だ」

と言っていたけど、本当に大丈夫なのだろうか。


……少し心配。


【十二月二十四日】


今日はアガメが来るなり、村で起きたくだらない話をしていた。


誰かが転んだとか、誰かが喧嘩したとか。


そんな話を聞いて、二人で笑った。

こんな何気ない時間が、私は好きだ。


ここに来た時は、こんな日が来るなんて思っていなかった。

こんな日が永遠に続けばいいのに…。


【月神歴九百六十四 五月二十日】


最近妙に身体が重い。

こんなことは初めて。なんでだろう?


アガメに相談した方がいいのかな?


明日はアガメが来る日だから相談してみよう。


【五月二十一日】


アガメに話すと慌ててうさぎを捕まえてきて、私の尿をうさぎに打ち込んだ。

一体何をしてるの?ごめんねうさぎさん。


まさかのびっくり!


私たちの間に、新しい命ができた!

アガメから聞いて、思わず驚いて固まってしまった。


アガメは私を抱き抱えて何度も笑っていた。

あんな顔をするアガメを見るのは初めてだった。


この子が生まれたら、どんな子になるのだろう。

元気に生まれてきてくれれば、それだけでいい。


【月神歴九百六十五年 一月十一日】


今日私たちの子供が生まれた。


小さな声で泣いている。


こんなに小さな身体なのに、ちゃんと生きている。


アガメは泣いていた。

私も泣いた。


白い髪に長い耳。そして、あの人に似た優しい瞳。

きっと優しく逞しい子に育ってくれる。


三人で一緒にいられることが、こんなにも幸せなことだとは思わなかった。


名前は何にしよう。

二人でゆっくりと決めたいな。


【一月三十日】


二人で「あれはどうだ」「これはどうだ」と、あれこれ名前を考えた。


あれこれ考えてる内に、気ずけばあの子が生まれて二週間以上がたっていた。


でもようやく二人納得のいく名前が決まった。


名前はネイア。

優しく、美しい異国の女性の名前を貰った。

アガメのように素晴らしい子に育って欲しい。


【月神歴 九百六十七年 七月七日】


こうして日記を書くのはいつぶりだろう。


最近は慣れないネイアのお世話に手いっぱいで全く書けていなかった。


ようやくお世話にも慣れて少しづつ余裕が出てきた。

私も少しは立派な母親になれたのかな?


あの子は巫女の唄が好きみたいだ。

いつの日かネイアと月の下で一緒に歌を歌いたいな。



【月神歴 九百六十九年 十二月六日】


少し身体が重い。

フラついて川辺で転んでしまった。


前より疲れやすくなった気がする。

今までこんなこと無かったのに。


けれど、最近は何をするにも身体がついてこない。


アガメは心配している。


大丈夫だと言っているけれど、きっと私より不安なのだろう。


私は大丈夫。


いつの日かあの子と綺麗な満月を見るまでは死んでやらないんだから。


【十二月二十九日】


今日はほとんど起き上がれなかった。


口から血を吐く私を見てネイアが心配そうに顔を覗き込んでいる。


大丈夫だよ、と言ったけれど……。


本当は、少し怖い。


この子がもっと大きくなるところを見たい。


歩けるようになるところも。


話せるようになるところも。


笑うところも。


できることなら、ずっと見ていたい。


【十二月三十一日】


もう、文字を書くのも辛くなってきた。


アガメがずっとそばにいてくれる。


何もできなくなった私の手を握ってくれている。


ありがとう。


ここへ連れてきてくれてありがとう。


私を守ってくれてありがとう。


そして、私を愛してくれてありがとう。


私は幸せだった。


この場所で過ごした時間も。


あなたと過ごした時間も。


ネイアと過ごした時間も。


全部、大切な思い出です。


アガメ。


どうか、ネイアをよろしくお願いします。


あの子が笑って生きていけるように。


それだけが、私の願いです。


……ありがとう。


さようなら。


私の愛する二人。


クリュム


第十一話 終

今回は、小屋の中を探索するお話でした。


古びた小屋に残されたものを調べていると、少しずつこの場所のことが見えてきましたね。


こういう「昔の誰かが残したもの」を調べていく展開、個人的に結構好きです。


頑張って書いていきますのでぜひ次の話も読んでいただけると嬉しいです!

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