第一話 最果ての街
初めまして!これが私の初投稿です!小説を書くのは初めてなので優しく見守ってくれたら嬉しいです。
主人公ノアのお話良かったら楽しんでください。
カン、カン――
プシューッ。
黒煙が空へ登る、錆び付いた鉄と汚れきった油の匂いが漂う街、最果ての街【ジェイル】かつての罪人だったものたちの子孫が住む誰からも見捨てられた街だ。
だが今日も街には大声が響き渡る。
「おーい!ノア!タイミング合わせろよ!」
「わかってるよ!親方!」
「せぇーのっ!」
ギィィィ――ッ、プシューッ!
「…よし完璧に止まりやがったな」
「おめぇーらさっさとガラ運び出しちまえ!」
ここは【異界門】に眠るアークギアを発掘、加工するための工房「リベット工房」である。
一人の子供がトロッコを覗き込む。深い茶髪と日に焼けた肌が、長年工房で働いてきたことを物語っていた。
「親方この中ガラクタしか入ってねーぜ」
リベット工房の機械技師ノアだ。
「この辺りもほとんど出なくなっちまったみてーだな」
リベットはやるせなさそうに呟く。
「親方そろそろ場所変えねぇと厳しんじゃないですか?」
「変えたいのは山々だが…最近坑道内でウォーカーがウロついてやがるからな」
「潜りたちも、あいつらにやられてかなり減りましたもんね…」
「あいつら回収したら今日は終いだ!」
そう言って、リベットは分厚い革手袋を放り投げた。
「ノア!おめーは残ってオンボロたちのメンテナンスだ!いいな!」
「わかったよ!」
「チェッ、なんで俺だけ…」
ボソボソと文句を垂れながら、ノアは工具を手に取る。
蒸気の漏れ出る配管を溶接し、錆びつき動きの悪くなった歯車に油を差していく。
「どこもかしこもボロボロだな…こんなんじゃまた帰りが遅くなっちまう。」
ノアが愚痴を零しながら慣れた素早い手つきで修理をしていると。
ギギ……ギィィィ。
「分かった分かった、今直してやる」
ノアは当然のように工具を手に取る。
まるで機械が何を訴えているのか理解しているかのように。
ゴォン……
ゴォン……
二十二時を告げる鐘が鳴る。
「もう十時かすっかり遅くなっちまったな」
ノアは工具をしまうと、素早く帰宅の準備を済ませ足早に帰路についた。
「ぐぅ〜…くそまともに飯も食ってねぇーよ」
ノアは腹を撫でながら呆れたように笑った。
「しょうがねぇな、今日もトムじいさんとこの闇鍋スープにするかぁ」
ノアはブツブツ文句を漏らしながら、小走りで自宅へと向かう。
しばらく歩くと暗い空を照らす暖かい灯が見えてきた。
「よし!着いたぞ!商業街!」
ノアは子供ながらにワクワクした顔で街を見渡しながら店へと向かう。
工具や食料、用途の分からないガラクタまで何でも並んでいる。
ノアは何度来ても、この雑多な賑わいに圧倒される。
露店からは怒鳴り声や笑い声が響いてくる。
いつか酒場でキンキンに冷えたビールを飲んでみたいものだ。
黒煙に覆われたジェイルの中で、ここだけは人の温もりが残っている気がした。
「おっちゃん!闇鍋スープ二つ大盛りでね!」
「あいよ!…なんだノアまた残業か?子供は早く寝ねぇと大きくなれねぇぞ!」
店主は大きく口を開け、ガハハと汚い笑い声を上げた。
「うるせぇよ!俺はこれからデカくなんだよ!」
ノアはムッとした顔で文句を言ったが、店主の豪快な笑い声につられ小さく笑い店を後にした。
しばらく歩き、ギシギシと嫌な音を鳴らす大きく不恰好な鉄橋を渡り、ようやく自宅のある第三層へ辿り着いた。
やがて見えてきたのは今にも倒れそうなほど傾いた小さな一軒家。
所々に修理の痕跡が残っている。
継ぎ接ぎだらけの家は不思議と壊れそうには見えなかった。
人気のないスラム街を抜け、ノアは自宅へ向かった。
スラム街を抜けたノアは緊張の糸がほぐれたせいか安堵の息を漏らした。
「はぁ〜、あの道は何度通っても慣れねぇな。」
ジェイルの治安は決して良くない
自宅に着いたノアはそっと軋む扉を開ける。
「ただいま、ノエル。…遅くなって悪かったな。」
そう言って色鮮やかな金髪をした少女の頭を優しく撫でた。
だが彼女からの返事はない。
静まり返った部屋の中で、彼女の胸に埋め込まれたアークコアだけが淡く青白い光を放っていた。
―――彼女の名前はノエル。
ノアの唯一の家族であり世界にたった一人の妹だ。
「聞いてくれよノエル、今日も親方のヤロー残業させやがったんだぜ!おかげで腹ペコペコだよな!」
「…これノエルの分な。時間なくて今日もトムじいさんとこの闇鍋スープだけど……はは、でも今日のは味悪くないぜ!相変わらず見た目だけは最悪だけどさ」
そういうとノアは残りのスープを飲み干し、眠ったままのノエルのそばで他愛もない話を続ける。
ノアは今日の出来事を一方的に話し続けた。
返事が返ってこないのは分かっている、でも毎日こうして話をするとなんだかノエルが笑ってくれているような気がした。
ノアは一通り話し終えると、眠たい目を擦り寝る支度を済ませ、寝床へ着いた。
「おやすみ、ノエル」
眠りにつこうとした――その時。
空から爆音が轟き、激しい風圧がジェイルの街を揺らした。
「な、なんだ!この揺れ!」
慌てて飛び起きたノアは真っ先にノエルの無事を確認すると、音のなる方へと駆け出した。
飛び出したノアは荒い息を漏らしながら空を見あげた、その瞬間。
激しく鼓動していた心臓が一瞬だけ鼓動を止めた。
そこに現れたのは、今まで見たこともない三十メートルはあろう鋼鉄の飛行船。
夜の星の僅かな光すら反射してしまうほど美しく、見る人を強く惹きつけていた。
「なんじゃこりゃ……そ、空を飛んでる……?」
空を舞う巨大飛行船はゆっくりと速度を落とし、スラム街近くの外壁へ寄り添うように停止した。
「ノア! お前も来てたのか!」
振り向くと、そこには急いで飛び出してきたのだろう、パジャマ姿のリベットが立っていた。
「親方! なんだよあれ……俺、あんなの見たことないぞ!」
「俺も長いこと生きてきたが、外部からの接触なんて今まで一度も……ましてや、あんな化け物みてぇなもん見たことねぇよ!」
飛行船の爆音で目覚めたジェイルの住民は慌てた様子で、飛行船付近へ走ってくる。
―――ザーッ、周辺の者たちに告ぐ。
我々は天空国家アルカディア所属、天空軍である。
只今よりジェイル地区への着陸を開始する。
速やかにその場から退避せよ。
……は?
何言ってんだこいつら。アルカディア?天空軍?
そんな連中がジェイルになんの用があるってんだよ…
ジェイルの住民たちは皆、困惑と恐怖の入り交じった表情でジリジリと後ずさりする。
ガゴンッ。
飛行船下部のハッチが重々しい音を立てて開く。
次の瞬間何本ものワイヤーが地上に向かって撃ち出され武装した軍人たちが次々に降りてきた。
一切無駄のない、研ぎ澄まされた動き。
誰が見ても、凄腕のエリート集団と言うことが一目で分かる。
…ただ一人を除いて。
なにやら飛行船の上で揉める声がする。
「じゃ、隊長さん俺も行くからあとのことはよろしく!」
「お待ち…まて!貴様に今回のミッションの参加は許可されていない!」
「そんな硬いこと言うなよ〜。そんなんだから奥さんに逃げられるんだぞぉ〜」
…どうやら、どこにでも問題児ていうのはいるらしい。
ノアとリベットは呆れたような顔で飛行船を見上げた瞬間二人は衝撃の光景を目にする。
「おい!人が落ちてくるぞ!」
なんと、ついさっき揉めていた少年はワイヤーを使わず地面目掛けて垂直に落下していた。
「おい!あんたら!助けないのか?!あの若けぇの死んじまうぞ!」
近くの老人が青ざめた顔で空を指さす。
しかし、天空軍は落ちる人影を気にする様子はなく眉ひとつ動かすことはない。
ノアは目を見開いたまま、高速で落下していく人影を追うことしかできず、周りの住民は死を覚悟したのか両手で顔を覆い隠す。
だが、一向になにかが起きた気配がない。
静まり返った空気の中、聞き覚えの無い音だけが響いていた。
―――キィィーン。
頭の奥まで響くような甲高い音。
よく見ると少年の背後に装着されたアークギアらしき装置から青白い光が噴き出している。
「ありゃ?みんなどうしたの?」
少年はまるで何事も無かったかのような顔で周りを見渡す。
困ったような顔で老人は「ハァ…無事なら良かったんじゃよ」と安堵の息を漏らす。
「おい!勝手なことをして隊の規律を乱すんじゃない!貴様も参加するのなら列の中に入れ!」
強面の男が今にも掴みかかりそうな勢いで少年に詰め寄る。どうやら隊をまとめる指揮官らしい。
「あらら、怒られちゃった。そんじゃ!俺並んでくるから!」
それでも少年は気にした様子もなく老人軽く手を振り隊列へと戻って行った。
……それにしてもあの茶髪のやつ。
俺の事ずっと見てやがったな…俺を心配する素振りもなかったし、――まさか俺が落ちないこと分かってたのか?
少年が列に入ると指揮官が隊全体へ命令を下す。
「これよりこの区画は我々天空軍の休息地確保のため全建物を取り壊す!この区画に住んでいるものは直ちに別区画へと移動しろ!これは命令である!」
街に破壊音が響き渡る。
住民たちの悲鳴を無視し、兵士たちは機械のように建物を壊し続けた。
「なんてことすんだよ!!ここはおれたちのいえだぞ!」
スラムに住む住民たちは悲痛の叫びを上げたが兵士たちは一切作業を止めない。
「この土地は元より我々アルカディアの土地、自分たちの土地をどうしようが貴様らには関係の無いことだ。」
兵士の一人がゴミを見るかのような目でスラムの人間たちを見る。
…たしかにここはアルカディアの土地なのかもしれない、だけど何百年も干渉してこなかったのに今更自分たちの土地だなんて勝手すぎる。
ノアは心の中で叫ぶが屈強な兵士の前では何も出来ずにいた。
その時、一人の兵士がノアの家へ向かって歩き出した。
「次はここか。よっこらせ」
兵士は軽くハンマーを持ち上げ家めがけて振り下ろそうとしたその時。
「やめろ!ここにはまだ妹がいるんだ!」
ノアは必死の形相で駆け出し、兵士の前へ立ちはだかる。
両手をめいいっぱい広げ、殺意のこもった目で睨みつけた。
「ならばさっさと妹を外へ連れ出せ。それまでは待ってやる。」
兵士は面倒くさそうに腰へ手を当て、小さなため息を吐いた。
「それは…出来ない…」
「あぁ?さっさとしろと言っているだろ!」
兵士は苛立ったように怒鳴り声を上げ、眉を顰めた。
「妹は…病気で動けないんだ…」
ノアは絞り出したような震えた小さな声で呟く。
それでもノアは兵士から目を逸らさず、家を庇うように立ち塞がる。
兵士は呆れた表情で再びハンマーを握る。
「それなら諦めろ。残念だったな。どうせ長くはいきれないんだろ?だったら今すぐ楽にしてやるよ。」
と言うとノアを見下し、フッと鼻で笑う。
「テメェ!ふざけやがって!ぶっ殺してやる!」
ノアの表情は怒りに染まり屈強な兵士へ飛びかかる。
「まて!やめておけ!」
すると、近くで見ていたであろう少年がノアにしがみつき暴れるノアを必死に抑える。
「止めるな!こいつは妹を殺そうとしてんだ!その前に俺がこいつを殺してやる!」
それでもノアは暴れ続ける。
少年はノアを止めながら耳元で囁く。
「俺に任せろ、絶対妹は殺させない」
少年の言葉を聞いてノアの怒りは少しずつ収まっていき冷静さを取り戻した。
ノアは疑うような目つきで少年をみる。
「…ほんとに出来んのかよ」
「任せろ。」
少年は一言だけ呟く。
たった一言だけだが頼りなく見えていた少年に妙な安心感を覚えた。
「協力感謝する、俺は作業に戻るお前はさっさと別の場所へ移動しろ」
ハンマーを持った兵士が少年に指示を出す。
しかし少年は動かない。
「その家への破壊行動を禁ずる。」
静かだが怒りのこもった声だった。
「直ちに手に持ってるものを下ろせ。」
少年は真っ直ぐな目で兵士を睨みつける。
「てめぇ…誰に口聞いてんだ。俺はお前より年上で先輩なんだよ、舐めた口を聞いてんじゃねぇぞ!」
兵士の額に青筋が浮かび、充血した目で少年を睨みつけ胸ぐらを掴んだ。
それでも少年の表情は変わらない。
「貴様はこれが人として正しい行動だと言えるのか?」
兵士の手を掴み冷たく問う。
「抵抗できない者を痛めつけるのは楽しいか?」
兵士は図星をつかれ何も答えられず冷や汗を流している。
「天空軍ってのは、随分ご立派なんだな。何百年も放置しといて今でも自分の物気取りだ。」
少年は腹の底からの怒りを込めて兵士に問いただす。
「『上の命令には従え』……だったか?
なら、なんでお前は俺に従わない?」
兵士は眉をひそめ、困惑したように少年を睨み返した。
「おまえ何を言ってるんだ...?お前ごときが俺の上なわけないだろ?」
少年はフッと鼻で笑うと、周囲に聞こえるよう、わざと声を張り上げた。
「俺の名は...ルフト・アルカディア!」
「天空国家アルカディア、第一王子だ!」
兵士の顔はみるみる青ざめていき、少年の胸ぐらを掴んでいた手を慌てて離す。
そして次の瞬間、地面へ額を擦りつけるように跪いた。
少年は兵士の謝罪を無視して隊全体へ響き渡る声で命令する。
「これ以上の破壊行為は許可しない!全軍は直ちに住民たちを安全な区画へ移動させ住居の確保を最優先とする!」
命令し終わると少年は辺りを見渡しているどうやら何かを探しているようだ。
すると少年と目が合った、少年は真っ直ぐな目でノアの元へ歩いてくる。
「...悪かった。」
「見ていたはずなのに……俺は、止めるのが遅くなった」
この少年は王子のはずなのに深々と頭を下げる。
唇を噛み締め、握った拳は小刻みに震えていた。
ノアには、彼らの中で唯一まともな人間に見えた。
「謝るな...お前は守ってくれただろ?」
ルフトは目を見開いた。
「...怒らないのか?」
「止めてくれたのはお前だけだ。」
ノアは無惨にも破壊されたスラム街を見て悲しそうな目をした。
「ここは俺にとって怖いとこだった、けど大事なジェイルの一部だ...それを壊したあいつらは許せない。」
「でもお前のことなら信じられる気がする。」
「そうか。」
ルフトは震えた声で小さく返す。
ルフトは初めて王子としてではなく一人の人間として見てもらえた気がした。
ルフトはノアの目を真っ直ぐ見つめた。
「お前、名前は?」
「ノア。」
ノアはぶっきらぼうに答える。
「ノアか...」
ルフトは何かを決めたように頷くと、満面の笑みを浮かべた。
「俺はルフト!今日からお前の家で暮らす!よろしくなノア!」
―――は?
第一話 終
ここまで読んでくださりありがとうございます!
第一話はジェイルの日常と、ノアとルフトの出会いを書きました。
次回からは二人の奇妙な共同生活が始まります。
少しでも面白いと思っていただけたら嬉しいです!




