2話 隠された王家の魔法
数ある作品の中から本作をお選びいただき、ありがとうございます。
拙い部分もあるかと思いますが、最後までお楽しみいただければ嬉しいです。
2話 隠された王家の魔法
禁書庫の空気は、外とはまるで違っていた。
重い扉が閉まると、世界の音が遠ざかる。厚い石壁と魔法結界に囲まれたこの場所には、王宮の喧騒すら届かない。
並ぶ本はすべて古い。
中には数百年前のものもあるだろう。羊皮紙は黄ばみ、魔導書の装丁には複雑な魔法陣が刻まれている。
私は小さく息を吐いた。
「……すごい」
純粋な感想だった。
前世の私は、病院のベッドの上で本を読むことしか出来なかった。けれど、ここにあるのは物語ではない。
本物の魔法の知識だ。
「エリオット」
隣でカイト兄様が苦笑した。
「そんなに目を輝かせるとは思わなかった」
「だって、兄様。ここには普通の図書館にない本がたくさんあります」
「まあ、そうだな」
カイトは本棚を見上げながら言った。
「ここは王家の歴史と魔法を保管する場所だからな」
私はその言葉に引っかかった。
「王家の……魔法?」
カイトはうなずいた。
「この国の王族には、代々受け継がれる特殊な魔法がある」
私は静かに胸の奥を押さえた。
ズキン。
また小さな痛み。
まるで何かが反応しているようだった。
「例えば?」
カイトは少し考えてから答えた。
「簡単に言えば……血の魔法だ」
血。
王家の血統。
「王族の血には特別な魔力が宿っている。それを利用する魔法がいくつかある」
私は息を飲んだ。
つまり。
王族にしか使えない魔法。
「でも」
カイトは続けた。
「扱うのは難しい。普通は成人してから宮廷魔術師に教わる」
「じゃあ私はまだ使えませんね」
私はわざと残念そうに言った。
カイトは優しく笑った。
「そのうち覚えればいい」
――そのうち?
そんな悠長な時間はない。
私は十五歳で死ぬ予定なのだから。
「少し本を見てもいいですか?」
「もちろんだ。ただし――」
カイトは指を一本立てた。
「危険な魔導書には触るな」
私は素直にうなずいた。
「はい」
でも、心の中では思っていた。
一番危険な本を探すつもりだ。
カイトは近くの机に座り、別の本を読み始めた。どうやら私を見守るつもりらしい。
私は本棚の間をゆっくり歩いた。
魔導書の背表紙を順番に見ていく。
「元素魔法理論……召喚術……契約魔法……」
どれも興味深い。
でも、私が探しているのはこれじゃない。
胸の奥の痛みを頼りに、さらに奥へ進む。
すると。
一冊の本の前で、足が止まった。
黒い革表紙。
装飾はほとんどない。
ただ中央に小さく紋章が刻まれている。
王家の紋章。
私はそっと手を伸ばした。
触れた瞬間。
――ドクン。
胸が大きく脈打った。
「やっぱり」
私はその本を引き抜いた。
タイトルは古い文字で書かれている。
『王血魔法秘録』
心臓が早くなる。
ページを開く。
そこには、王族しか扱えない魔法の一覧が書かれていた。
結界魔法。
血統召喚。
王命魔術。
どれも強力なものばかりだ。
そして――
ページをめくった瞬間。
私の呼吸が止まった。
「……これ」
そこには一つの魔法が書かれていた。
『魔力封印術』
説明文を読む。
王族の魔力回路を強制的に閉じる禁術。
対象は魔法を使えなくなり、体力も著しく低下する。
長期間続けば、命に関わる。
私はゆっくり本を閉じた。
「……なるほど」
これだ。
間違いない。
私の体にかけられているのはこの魔法。
つまり――
誰かが意図的に私を弱らせている。
その時。
「エリオット?」
カイトの声がした。
私は慌てて振り返った。
「どうした?」
「いえ、本を見てただけです」
カイトは歩いてきて、私の持っている本を見た。
一瞬だけ表情が固まる。
「それは……」
私は首をかしげた。
「兄様?」
カイトはすぐにいつもの優しい顔に戻った。
「難しい本だ。エリオットにはまだ早い」
「そうですか?」
「うん。別の本を読もう」
カイトはそっと本を棚に戻した。
でも私は見逃さなかった。
ほんの一瞬。
カイトの目に浮かんだ緊張。
「兄様」
「ん?」
「この魔法、本当にあるんですか?」
カイトは少し沈黙した。
それから静かに答えた。
「……昔はあったらしい」
昔?
つまり今は使われていない?
「でも安心しろ」
カイトは私の肩に手を置いた。
「そんな危険な魔法を使う人間は、この国にはいない」
私は微笑んだ。
「そうですよね」
でも心の中では、まったく違うことを考えていた。
嘘だ。
この城にいる。
間違いなく。
そして。
もしかすると――
「兄様」
「どうした?」
私は無邪気な声で聞いた。
「この本、誰が書いたんですか?」
カイトは答えた。
「初代王の宮廷魔術師だ」
私は小さくうなずいた。
そして本棚を見つめた。
もし封印魔法が存在するなら。
解除する魔法もあるはずだ。
十年後まで待つ必要はない。
今すぐ運命を変える。
私は胸の奥で小さく呟いた。
「必ず見つける」
私の体を縛る鎖。
そして――
この物語の運命を壊す力を。
禁書庫の奥で、古い魔導書が静かに眠っていた。
まるで。
私がそれを見つけるのを、ずっと待っていたかのように。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
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