第35話 袋から中身を出してみた
さて。
俺は先ほど回収した袋を手に取る。
念のためマントを雑に畳んでテーブルの上に乗せクッション代わりにし、袋の口を開き、逆さにした。
――出てきたモノを見て、あまりの衝撃に俺は硬直した。
ボトボトボト、と転げ落ちたのは、どう見ても子猫だった。
「ね、ねねね猫……だよな?」
『うむ。猫じゃな』
ゼロエロが冷静に言葉を返した。
三匹の猫は顔を上げると、ミャーと鳴く。
「生きてる!?」
『生きておるな』
ゼロエロが反復した。
「ぜ、ゼロエロッ! ここの猫は俺の世界の猫と一緒か!?」
『知るワケなかろうが!』
二人で怒鳴り合った。
俺は泡を食ったように猫をマントに包み抱えると、一目散にハリーの中へ駆け込んだ。
「ハリーッ! コイツらの食料を作れるか!?」
ハリーは「ピー」と返事をすると、数分経たずにオーブンみたいな引き戸から料理を水とともに出した。
俺はすぐさまそれを受け取り猫の目の前に置くと、猫は近寄り食べだした。
完食するとウロウロする。
「……もしかして、トイレか?」
俺がつぶやくと、ピーと音がして、奥に衝立付きの空間ができた。
どうやら猫のトイレらしいので、三匹を慌てて連れて行く。
トイレを済ませた猫たちはマントの上に戻ると寝てしまった。
『おい、マントの上で寝ておるぞ』
「気にするな。そもそも俺、そんなにマント着ないし」
ハリーに乗って移動するなら、マントはむしろ邪魔だし。
即答した俺に、ゼロエロがしばし考えてから叫んだ。
『なんと言ったか…………アレじゃ!「魔王が小動物に優しくすると善き者に見える説」じゃ!』
「俺の国だとそこの〝魔王〟の部分が〝不良〟に変わるな」
俺が切り返した。
少し気を落ち着けた俺は、ゼロエロに尋ねた。
「すんげービビったんだけど。なんで生き物が出てきた?」
『生き物を入れたからじゃろうな』
ゼロエロが当たり前のことを返す。
「……昔って、そんなに簡単に生き物を時間停止の袋に入れるの? 下手すりゃ行方不明者続出じゃん。怖ッ!」
『うむ。人攫いはよく使っていたな。だが、時間停止の袋は居場所を知らせるので、そこそこ足がつくの。そして、人が入るほどの大きさとなるとそうとう高価なので、使い捨てにするにはもったいないシロモノじゃ。よほど儲けが見込まれることがなければ使わん』
――この国の昔って、けっこうなアウトロー地域じゃなかったんじゃないか? それこそ魔王がいそう。
と、ゼロエロの回答を聞いて思った。
「それにしても、なんで猫を入れたんだ……」
『そこはわからんな。入れた持ち主が知っておろうが、もう生きておらんじゃろ。本人も入りたかったのかもしれんが、あの袋のサイズじゃ無理じゃの』
いつ誰が入れたのかわからない。入れた理由もわからない。入れた時期さえわからない。
恐らくは古代で生きていた猫。
ただし猫には変わりがない。
「ま、いっか! 飼おう」
俺は悩むのをやめて明るく言った。
実は、猫好きだったのだ。
だが、俺以外の家族は動物嫌いだった。
俺も家を出て放浪する予定だったので一生飼うことはないだろうと思っていたが、思いがけず飼うことになり、気持ちが浮きたった。
猫の名前は適当につけた。ミー、チャー、タマだ。
ミーはほぼ白。右耳と尻尾が黒く、背中にハートのマークがある。
チャーは雉猫。小豆色をしている。
タマは三毛猫。ミーよりも白の部分が少ない。
ミーだけ雄だ。
「病気とかしてて、入れられたとかないか?」
俺が寝ている猫を見ながら心配したら、ゼロエロが事もなげに言った。
『〝釘バット〟で癒せばよかろ? そもそもそういう用途なのじゃ。断じて魔法を打ち返したり脅したりする道具ではないのじゃ!』
俺は後半を聞かなかったことにし、釘バットを掴んだ。
「よし、釘バット! 癒やしモードだ! 猫をコロコロする!」
釘バットが釘を引っ込め、イボイボを出す。
釘バットで寝ている猫にそっとコロコロ転がすと、ゴロゴロと猫が鳴き出した。
「お、効いてるか? 効いてるみたいだ」
『毎日やってたらそれなりに効くじゃろ』
ゼロエロが、ありがたいアドバイスをしてくれたよ。初めて心から感謝した!




