第32話 散歩してみた
食い終わり、後始末を軽くやった。というか、ハリーがほとんどをやった。俺はハリーの荷台に放り込んだだけだな。あとはハリーがやってくれるんだとさ。
ハリーはきっと、いい嫁になると思う……車だけど。
軽く基礎練してからハリーの居住空間のほうに入った。
ドアを開けて入ると、脇に人が通れるすき間が現れる。そこから後ろの居住空間へ行けるのだ。謎空間魔術がすごい。
初めて泊まるな。
「魔法を使うところはないって話だよな?」
ゼロエロに尋ねたら、
『ない。もしあったとしてもハリーがやるから任せておけ』
「マジかよ」
ハリーも魔法が使えるのか……。
この世界じゃマジで俺だけ使えないのか。
あ、使えない奴もちょっとはいるらしいな。親近感が湧くから会ってみたい。
俺がシャワーを浴びている間、服を洗浄し、代わりの服を用意して畳んで置いてくれるハリー。
「俺、ハリーと結婚しようかな」
『お主、アタマは大丈夫か?』
俺のつぶやきにすぐさまツッコむゼロエロだ。
「いや、ハリーが尽くしすぎるっつーか、こうかいがいしく世話をやかれると手放せなくなるっつーか」
俺が弁解すると、ゼロエロが呆れた声で言った。
『お主、チョロいのう』
うるっせぇわ!
ゼロエロが続けて言った。
『というかな、これくらいせねば他に目移りされる危険性があるじゃろ? 特に今の状況、お主しか遣い手がおらん。遣い手がおらんわりにほしがる輩が多いので、お主に手放してほしくないのじゃ』
なるほど……。
俺は肩をすくめる。
「でも、俺にはどうしようもないぜ? 俺はこの国の者じゃないから、ビーネさんに『返せ』って言われたら返すしかないだろ。俺に有用性を示したってレンタルなんだから意味がないんじゃないか?」
俺がそう言うと、ゼロエロが返した。
『だから、奪われそうになったらさらってでも奪い返せ。そうなるように尽くしておるのじゃ』
…………物語のヒロインとヒーローかよ。
ただ、言いたいことはわかった。
「わかったわかった。つまりは使ってほしいんだな? 少なくとも倉庫に放り込んだまま研究だけされるようなことは避けるようにするから安心しろって」
俺はなだめるように言った。
ま、車は走らせてナンボだよな。飾っておくものじゃない。
*
翌日。
俺はコーヒーを淹れて飲み、ハリー作『トーストとスクランブルエッグ~大豆のサラダを添えて』を食べ終えると、外に出た。
「霧が出ているな」
薄暗く、そして世界が白い。幻想的だ。
それにしても、昨日のうちにここまで進めてよかった。じゃなけりゃ霧が晴れるまで足止めをくらったな。
散歩がてら社の方に歩いていくと、何かの気配がする。
「……何かいる?」
眉根を寄せてつぶやくと、ゼロエロが答えた。
『なかなかの大物が居座っておるぞ』
え。
マジで?
「ソレって魔獣とか言うヤツ?」
『そうじゃ』
なんと。古代遺跡物のある場所に、魔獣が居座っているらしい。
「うーん、討伐を頼まれているわけじゃねぇし、住み処に俺たちが不法侵入することになるってのはなぁ……」
俺がぼやくとゼロエロがツッコんだ。
『そもそも奴が不法侵入じゃろうが。倒せ倒せ。魔王の力を知らしめればよかろ』
「だから、魔王じゃないって。でも、英雄って蛮族だから、魔王とそんなに変わらないのかね」
とりあえず行ってみよう。




