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9、御者は馬との会話

 来て欲しくないが絶対に来てしまう夜が来た。ここがどこだか分からないから用心しなければならない。この商人さんが言っていた緑の草原なら、魔物が少ないし弱くて安全らしいんだが。


ガルルルゥゥ


耳を澄ますと、狼か何かの遠吠えが聞こえてきた。考えるのを止めて横になると、頭に焼き付いた遠吠えが余計に気になってきた。楽しいことを考えても、全部が遠吠えにかき消されて寝れたもんじゃない。だんだんと満月が遠くに見える山に隠れてきた。


「いやぁ、早いですな。」


「お...おはようございます。」


「この30年、いつも私が一番早起きだったんですがね。それで、いつ?」


「えっと、すぐさっきですかね...。」まさか狼の遠吠えが聞こえて、夜通し起きていたなんて言えない。ヤブ医者ならぬ、ヤブ御者だとバレてしまう。


「それで朝食は?」


「もうできてますよ。」


「ふむ、さすがだな。」


「ありがとうございます。では、食べましょうか。」


「ああ、期待しているよ。」




 朝食を食べたら出発だ。昨日の夜、馬車の積み荷を見ていたら、箱の全部にしっかりと目的地が書いてあった。目的地は、この辺りを治める領主の屋敷がある都市だった。確か、名前はフォルティアだったはず。


「目的地はフォルティアですよね?」


「ああ、当たり前だよ。そこに向かっているんだろう?」


「あ、はい、もちろんです。」


「あと、どれくらいかね?」


「普段と同じくらいだと思います。」


「それで、ここはどこの辺りかね?」


「えーと、緑の草原の近くだと思います。」こんなに質問されるんだったら、夜のうちにそこら辺を確認しておけば良かった。


「それにしても、この朝食は美味しいね。この30年馬車に乗っていた時だと、一二を争うくらいに美味しいよ。」


「ありがとうございます。」


「では、行こうか。」


「はい。」


商人さんが満足そうに馬車に座るのを見てから、馬に鞭を当てた。馬車を走らせるのには慣れてきたが、馬車を走らせながら後ろを振り向くのは無理なままだった。商人さんには失礼かもしれないが、そんなことより恐怖心の方がだんぜん勝っていた。




 今日の朝、太陽が昇る方向を見て、今いる場所と進むべき道をある程度理解できた。今は太陽に向かって前進中である。いくら日光が眩しくても、後ろは振り返れなかった。


「私は寝るから、昨日と同じように頼めるかな?」


「はい。」


「では、おやすみ。」


昨日と同じになんかできる訳が無い。このまま狼の遠吠えで寝れなかったら、私はまた過労死してしまう。それを防ぐためには、とりあえず全速力で正しい方向に馬車を走らせなくては。


「お馬さん、全速力でお願いします。」


ヒヒーン


「道沿いに頼むよ。」


ヒーン


「この道沿いに進んでもらえると助かるんですけど。」


ヒヒーン


「お馬さん、ありがとうございます。」


お馬さんがヒヒーンと鳴いた時は許可、ヒーンと鳴いた時は拒否を表しているらしい。このお馬さんと一緒に旅をして丸一日経っているので、イエスとノーくらいの区別は付くようになった気がする。何か友達がこのお馬さんというのも悲しい気がするが。


ヒヒーン


「ん、ああ、この道は真っ直ぐで良いよ。」


ヒーン


「え、違うの?じゃあ、ご飯?」


ヒーン


「え、何だろう。」ヤバい、このままでは馬と話している変な人になってしまう。そんな焦りを感じつつも、お馬さんの気持ちを考えることにした。


「左に行った方が良いの?」


ヒヒーン


「分かったよ。でも、時間内に目的地に着けるの?」


ヒヒーン


「じゃあ、左に行こうか。」ここで、お馬さんに()ねられでもしたら、商人さんに怒られそうなので、大人しく左に行くしかない。




 左に進んでいくと、少しずつ木が増え始めた。木の量がこれくらいで安定してくれると嬉しいんだが、そんなことは露知らず、少しずつ着実に薄暗くなってきた。


「あの、お馬さん...。」


ヒヒーン


「大丈夫なんだよね?」


ヒヒーン


自信満々に鳴いているお馬さんとは裏腹に、私はどんどん不安になってきた。よく分からない魔物の鳴き声が聞こえて来るような来ないような。


「え、私どうなるの。」


「ねぇ、お馬さん?」


ヒヒーン


「どうしたの?」ふと下を見ると、何かが落ちていた。よく見てみると、良い感じに色が入った皿と花瓶が落ちていた。


「これを拾って行けば良いの?」


ヒヒーン


「分かったから、これを拾ったら目的地まで真っ直ぐ行ってね。」


近くに木箱があったので、落ちていた皿と花瓶をそこに入れて、馬車の荷台に積んでおいた。処理に困ったら、どこかで売ってしまえば良いんだから、まあ難しく考える必要は無いんだろうが。




 要望に応えると、お馬さんは猛スピードで走り始めた。始めからこのスピードを出せていれば、私が狼の遠吠えで寝れない日が減っただろうに。どんどん景色が後ろに流れていった。


「おはようございます。」


「あ、はい、おはようございます。」


「それで、ここは?」


「そうですね...。」お馬さんが勝手に進んでいるので、私にはここがどこだかさっぱり分からなかった。


「お、あの城壁は!いや、さすがですね。」手をポンと打って、勝手に納得してくれたようで何よりだ。


「?」


「あそこが目的地のフォルティアだな。」


「えっ?」と思わず言いそうになったが、ここで感情を表しては今まで御者っぽくしてきた意味がないので、さも当たり前みたいな顔をすることにした。それにしても、お馬さんには感謝しかない。後で、美味しそうな干し草を買ってあげることにした。

さて、次の仕事は何をするのでしょうか?


まだ初心者で改善点があると思うので、なにかあれば感想で教えていただけると助かります。

もし面白いなと思っていただけたなら、ポイントやリアクションもお願いします。

今後とも八咫烏をよろしくお願いします。

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