人はそれを悲劇と呼ぶから
言ってみれば簡単なことだ。
私のやりたことなんてただ、アルマの代わりを私がする。それだけだ。
「やめなさい!レーナさんあなた何を考えてるの!」
「私が代わりにやってやろうって、ただそれだけですよ」
全身が痛い、今にもばらばらになってしまいそうだ。
「その術はあなたが使えるようにはできてない!身体が耐えられなくて大変なことに…!」
「そもそも成功したら死ぬんだから…関係ないでしょうに!」
「その成功率だって、そんなまがい物だらけの情報でどうにかできる確率なんて決して高くない!今すぐやめて!」
そんな程度でやめれるなら、そもそもこんなところまで来てないって話なのよね。
確率は高くないというが要は生き残ればいいのだ。プロセスは完成しているのだから。
まぁでも確かにすごい…本当に痛い。痛すぎる!
意識も持っていかれそうになるし…ここまで辛いとは思ってなかった。
でも私がやらないとね。
「これでアルマは生き残れる。世界はカルラたちによって救われて、誰も犠牲にならず…泣く人もいない。
これが私の望んだハッピーエンド。」
ここまでみんな頑張ってきたんだから、最後くらいは笑って終われないとおかしいじゃん。
だから私が正す。みんなみんな全部の悲しみを私が断ち切る。
それはきっと誰もが笑える結末のはずだから…さぁ文句なしのハッピーエンドを!!
「ふざけるなぁあああああああああ!!!」
「…え?」
誰かが叫んだ。そして結界に手を突っ込み、今にも破壊しようとしていた。それはカルラだった。
「カルラ…何を、」
「そんなので笑って終われるわけないじゃないか!それくらいわかるだろう!?」
「だって…これでアルマが犠牲になるなんて馬鹿な終わり方じゃなくなるんだよ…?」
「それじゃあ、お姉さまはどうなるんですか!!」
必死に這ってきたようで、地面に痕をつけながらナリアも合流し、結界に手を伸ばしていた。
「私はいいのよ…だって私は誰でもないんだから。ここにいるはずのない脇役ですらない本来ならいない存在なんだから」
「わけがわからねえよ!あんたは先生だろうが!」
レーヴェまでもが結界を壊そうとし始めた。
「だから…私はいいんだってば…私がいてもいなくても結末は変わらない。これが最高で最善のハッピーエンドなんだって!」
「嬢ちゃんが何を言ってるのかさっぱりわからんが…間違ってるのは分かるぞ」
最後にやってきたクロガネさんまでもがそんなことを言う。
「間違ってる…?なにが?私は間違ってなんかない!これが一番いいんだって!だって私は!」
「アレを見なよレーナさん…本当にあなたがやろうとしてることは正しいって言えるの…?」
カルラが…いや皆がある一点を見つめていた。
そこにいたのは私が助けたかった少女。助けたはずだった少女…アルマ。
そして死の運命から外れたはずの彼女は…。
「おかあさん!おかあさん!…おか、あさん!!うぁあああああん…!」
泣いていた。
なんで?なんで泣くの…?もう泣かなくていいんだよ…あなたの悲しいことはもう終わったの。
これからはいっぱいいっぱい笑っていいの…なのになんで泣くの?
あなたは誰を必死に呼んでいるの?
私だ。
思い出すのは試練で会ったもう一人の私。
私が目をそらして知らないふりして考えないように蓋をしていたもの。
私の計画はすでに破綻していたのだ。この計画をやり通そうとするのなら…私は皆と関わってはいけなかった。
何を置いたとしても一人で行動し続けないといけなかったのだ。
私はとっくに…消えたとしても問題ない誰とも知れない一人ではなくて。
この物語の登場人物の一人になってしまっていたのだ。
そうなってしまった以上…もうダメだ。このままじゃ「私」という悲しい犠牲が出てしまう。
どうする…?どうすればいいの!?
何とかしないと…私の大嫌いな結末を迎えてしまう!犠牲のもと世界が救われて…でもみんな泣いていて…そんなのダメ…!
「私はあなたたちの事なんて嫌い!大嫌い!ずっとずっと嫌いだった!顔も見たくない!どっか行って!私はあなた達の仲間なんかじゃないしおかあさんでもない!うざい!嫌い!だからこれでいいの!これでいいって言え!言って!」
違う違う違う!こんなんじゃダメ!みんなやめてくれない!どうすればいいの!?どうすれば…!
「って…もう、どうしようもないじゃんね…。最初から全部間違ってたんだから…じゃあもうせめて最後までやり切るしかないじゃんね」
私は風の魔法を発動させて皆を少しだけ吹き飛ばした。
「レーナさん…!!」
「もうね…もう…やり切るしかないの…あのね…全然わからないかもしれないけれど、私は本当はここにいないはずの人間なの…皆と知り合いですらないはずだったの…だからお願い…どうか、あまり悲しまないでください…お願いします……ごめん」
本当に馬鹿だ私。
いろんな人に散々迷惑かけて…我がまま貫いて。
このために生きてきたとかかっこいい事言ってたくせにこんな結末にしかならなくて…私の人生全部無駄じゃん。
無かったはずの第二の人生だから…大好きだったみんなのために使おうって思ったのになぁ…なんで…なんでこうなっちゃたんだろう…。
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そんな状況を、女神は一人見つめていた。
みんな泣いていた。今この場にいる自分の世界の愛しい子供たち、その全員が泣いていた。
「私が求めた世界は…こんな悲しいものだったのでしょうか…私は…何をしたかったの…?」
女神の脳裏に浮かんだのは自分が夢見た世界。
今ここにある現実とは大きくかけ離れた夢。
夢は見なければ始まらない、追いかけなければ掴めない。
現実は変えようとしなければ変わらない。
いつの間にか女神は手を伸ばしていた。自分がいつの間にか諦めてしまっていたものに、押し殺していた自分の本当の想いに。
ここから、何かが変わろうとしていた。




