悲劇を喜劇に
それからどれだけ時間が経っただろうか。
皆が全力で戦った。何度も何度も魔王竜を倒した。
でもそのたびに魔王竜は復活する。倒し続けることで確かに弱体化はしているし、再生の速度も遅くはなっていく。
しかしそれだけだ。いつまでたっても倒せる気配はない。
何度倒しても再生する存在と疲労していく人間。どちらかが有利なんて聞くまでもなく…。
「…クソがぁ!」
クロガネさんが膝をついた。
ナリアやレーヴェはすでに立ち上がることもできなくなっている。
カルラは何とか立っていたが、足元がおぼつかず、立っているのがやっとだと誰が見ても明らかだった。
女神はまだ動かない。
その視線はおそらく私に向かっている。
…しょうがない、一度だけ痛い目を見るしかないなこれは。
私は倒れていたフリをやめて立ち上がり、カルラが戦いの拍子に落としてしまった第一の聖剣を回収して魔王竜に向き合った。
そのおどろおどろしい咆哮が私を向く。しかしそれは最初に比べると随分弱弱しい。
これだけ弱ってれば私にも倒せるんじゃ?と思わなくもないけれど無理だ。
私は基本的に一発屋なのだ。ライトニングセイバーという破壊力抜群の一撃に全振りしているので、こうして地力が高いやつと一対一だとどうしても勝ち目が薄い…それに倒せない存在を倒そうとするほど無駄なものもないわけで。
忘れて欲しくないのだが、どこまで行っても私は脇役なのだ。
どうしようもない。
「ふぅ…やぁああああああああああああ!!」
覚悟を決めて突進を決行する。魔王竜がそのボロボロの太い腕を振り回す。
どいつもこいつもでかい腕で私を殴るのやめてほしい。
特に抵抗することなく私は殴り飛ばされた…いや防御バフはもりもりにしておきましたけどもね。
私が倒れた先、そこに女神とアルマがいた。
「おかあさん!!」
アルマが私に駆け寄る。そして女神も…どうやら始まってしまうようだ。
私が大っ嫌いなシーンが。
「アルマ。みんなを助けたいですか?」
「…めがみさま…?」
女神がアルマと目を合わせ優しく語りかける。
「あなたの力があればアレを…魔王竜を倒すことができます。」
「わたしの…ちから…?」
魔王竜が咆哮をあげながらこちらに近づいてきた。
しかし女神が指を鳴らすと巨大な光の剣が空より落ちてきてその身体を地面に縫い付ける。
「待ってください…アルマちゃんの力があればってどういうことですか…」
カルラが身体を引きづりながら話に加わる。
「この子は私が作った、魔王竜を倒すための最後のピース。今この瞬間のために作られた存在なのです。」
「…は?何を…言っているんですか…?」
「この子は先の戦いで私が魔王竜より奪った存在核のひとかけらに私の存在核の一部を組み合わせて作った…いわば作られた神です。そしてその存在に人としての身体を与え、さらにあなた達の旅に同行することで人を知り、感情を得てついに…神としての力を持った人間が完成したのです。」
「なんですかそれ…全然意味が分からないんですけど…」
まぁ確かにね。全部ひっくるめてもだから何?だ。
神の力を持った人間がどうしたのよ、みたいなね。でもそこが設定的には重要らしい。
はぁ~あ馬鹿らしい。
「つまりアルマは…器としてこれ以上ないほどに最適な存在だということです」
あぁ本当に…なんでこんな誰も得しない設定を作るんだろうか。
「器…」
「この子に魔王竜を封じ込めます。そうすることでアレの不死性を奪うことができる…と言えばわかってもらえますか?アレの存在核を魔王竜という不死の身体から引きはがし、アルマという人間の身体に移し替える…これがアレを倒す唯一の方法です。」
何度聴いても腹立たしいよね。
今この瞬間も私の心は暗い感情でいっぱいだ。
「待って…待ってよ…それってアルマちゃんはどうなるんですか!?」
何かを引きづるような音が聞こえる。
少し視線をそっちに向けると、他の三人が満身創痍な身体を引きづってこちらに来ようとしていた。
今の話を聞いて居ても立っても居られなくなったということか。
そしてもう誰もがわかっているであろう最低で最悪の事実を女神が告げる。
「もちろん…魔王竜と共に、」
そこで一瞬だけ、ほんとにわずかだけど女神の顔がゆがんだ。
何かをかみつぶすように…でもその一瞬が過ぎると今までの冷酷な女神の顔に戻った。
「死んでもらいます」
「ふざけるな!こんなに小さな子供なんだぞ!なんでそんなこと…!」
「それしか方法がないからです。あなた達も見たでしょう?あの魔王竜は何をやっても倒すことはできません。この方法をのぞいては」
「そんなのおかしいじゃないか!じゃあなんで自分たちが戦う必要があったんですか!自分たちが魔王竜を倒せるからだったんじゃないんですか!?あんたそう言ってたじゃないか!」
「ええそうですよ。あなた達はあれを倒せています。アレは死んで生き返る特性ですからね。私では一度も殺すことができませんから…そしてこの方法をとるにはアレの力を限界まで落とす必要がありました…そして今、あなた達のおかげでここまで弱らせることができたのです」
つまり今までの全てが…そう、これまでの勇者の旅全てが、たった一人の少女を殺すためだけのものだったのだ。
ねえ、こんな物語でいったい誰が得をするの?誰が報われるの?
「一人の、本来なら存在するはずもなかった命一つで世界が救われるのです。これ以上に最適な方法なんてないでしょう?アルマはどう思いますか?あなたが、あなた以外の全てを救えるのです…あなたはどうしたいですか?」
「…みんな…むらのみんなも、まちのみんなも…?」
「ええ」
「…かるらもくろがねも…なりあもれーう˝ぇも、れふぃあも?」
「もちろんです」
そしてアルマは私を見た。
「おかあさんも?」
「はい」
少しだけアルマは目を閉じた。
そして
「じゃあ、やる」
確かにそう言った。
「ダメだ!アルマちゃん自分が何言ってるかわかってるの!?死んじゃうんだよ!もう二度と誰にも会えなくなるんだよ!?自分達にも…レーナさんにだって!」
「うん…でも…そうしないとみんなかなしいから…おかあさんが、いつもかなしいのはいやだっていってたから」
「そんなの…まだ何か方法があるはずです!レーナさんも止めてください!」
そうよね、私に助けを求めるよね…でもねごめんね。ここで私が言うことなんてもう決まってるから。
「私はアルマが決めたならいいと思うよ」
私は倒れた姿勢のままで空を見上げながらそう言った。
こんなに何もかもが嫌な状況なのに、空気を読まない空はどこまでも青い。
「は…?何を、何を言ってるんだレーナさん…」
「聞き間違いだよな嬢ちゃん…」
「当たり前だろ、先生だぞ…」
「そうです…そうですわよね…お姉さま」
今まで静かにしてたのに、急に皆が私に声をかけだす。
そんなに意外だろうか、私のこの言葉は。
「どちらにせよやらないと皆死ぬのよ…世界が滅びて。ならアルマが自分で決めたのなら止める理由なんてないでしょうに」
我ながらよくもまぁこんなにすらすらとセリフが出るものだ。
「レーナさん…あなた「おかあさん」なんですよ…?それにあなたはそんなこと言う人じゃ…!」
「私はその子の母親じゃない。それにそんなこと言う人じゃないって私をなんだと思ってるのよ…私だって人間よ?あなたのそれは勝手な幻想よ。そんなものを私に押し付けないでほしいな」
「そんな…」
「答えは出ましたか?正直レーナさんまで聞き分けがいいとは思いませんでしたが…ではアルマ、やってくれますね?」
「うん…おかあ…いってきます」
アルマは最後に私に声をかけようとした。
でもさっきの私の「母親じゃない」の言葉を受けてか、何もせずに女神と共に魔王竜に向かっていった。
あれは失言だったかもしれない。無用な心労を与えてしまっただけだったかも…でも、必要なことだから。
「・・・」
「では始めましょう」
「くっ…やっぱりまだ何か方法が!」
カルラが二人に向かって走る。
もう身体は限界だろうに、よくやるよホント。
しかし、女神の行いにケチをつける事なんてできない。
カルラは女神が展開した結界のようなものに弾かれて大成を整えることもできずに倒れた。
やがてアルマを中心に魔法陣が展開される。そして少しづつ魔王竜の身体が崩れ始め…丸く黒い球が残った。
あれが存在核だ。
アレをアルマが取り込み…そして死ねばすべてが終わる。
「覚悟はいいですね?」
「うん」
「…では始めます。恨むのなら私を…すべての罪は私にあります」
さて…すべての条件は揃った。
私は立ち上がって聖剣を手に取る。
「…レーナさん?」
カルラの呟きを無視して歩みを進める。
ずっとただただ寝てただけだから、体力は皆と違って有り余っている。
一歩、また一歩と歩みを進めていく。
女神がこちらに気づいた。
「…なんのつもりですか?」
「知ってるでしょう?私の目的なんて」
結界を切り裂く。それは思ったよりあっけなく崩れた。
「邪魔はさせないと…!」
「こっちもですよ、邪魔はさせない」
女神が繰り出してきた光の剣を弾き飛ばす。
「そうか…あれはこの時のために…!」
「やっぱり気づいてましたよね、私が「アルマの存在核を複製していた」ことなんて」
神様は神様を傷つけられない。
ならば女神だってアルマを傷つけられないはずだ。
試練の時は目的を悟られたくなかったから使わなかったけれど、これで女神は私に手出しができない。
そしてアルマを一突き、聖剣で刺した。
「…っ、おかあ…さ、ん…?」
「ごめんね、さっきは言い過ぎた。」
痛くはないはずだ。アルマは聖剣でも傷つけられないはずだから。
私が欲しかったのはこの場所、この状況。
アルマの、魔王竜の存在核を奪うための能力を発動寸前で第一の聖剣で奪い、そしてその能力で増幅させる。
「離れてて」
とん、といつかみたいにアルマを軽く突き飛ばす。そして結界を張る。
ずっとずっと隠し持っていた特別製の結界だ。女神にだって破るには少しの猶予がいるはずだ。
「おかあさん…?なんで…?」
アルマは何が起こっているのかわからないという顔で私を見ている。
「よく聞いてアルマ」
この世界は、君に死ねというだけの物語だ。
世界が、何も知らない皆が君に死ねという…でもそんなの馬鹿馬鹿しいと思うから、だから。
「生きて」
私は君に生きてと言いましょう。
悲しい物語は嫌だから。生きて生き抜いて、皆と笑って泣いて…すべてが終わるその時に幸せだったと言って終わってほしいから。
自分に聖剣を突き刺す。
めちゃくちゃ痛い。そりゃそうだ…私は痛いよね…一か八か痛くないかもって思ったけど普通に痛かった。
まぁいいか。
そのまま聖剣で奪い増幅したアルマの力を解放する。それと同時に女神の魔法陣も発動した。
よしよし、うまく私をアルマだと認識してくれたようだ。
「あなたやっぱり…これを狙ってたんですか…?なんて馬鹿なことを…!」
女神が何か言っているが私にしてみれば馬鹿らしいのは物語のほうだ。
一人を選ぶか、世界を選ぶか?そんなの悩まなくても決まってるでしょう。馬鹿でもわかる…両方だ。
何も悪くない女の子の犠牲で世界が救われて、はいハッピーエンド?馬鹿じゃないの?
さぁはじめましょう。
皆が拍手した結末を、ご都合主義の喜劇に。
誰もが感動する一流の悲劇なんていらない。
伏線も何もない馬鹿みたいな三流のハッピーエンドが見たいから。
感動の物語を私のわがままで茶番に変えよう。




