勇者side 独白
気づけば自分はその人を目で追ってしまっている。
この気持ちに名前を付けるとしたらそれはきっと…。
全てが美しくてきれいなものでできているかのような絶世の美女。
どこかの国のお姫様だと言われたら信じてしまうほどの美貌を持ち、いつも優し気な微笑みを浮かべていて、それでいて実際に話すと陽気で楽しいお姉さん。
その人の名前はレーナさん。
今自分の心の中の大半を占めている女性だ。
最初はただの憧れだった。
前向きでまっすぐで、強くてかっこいい…そんなあの人に惹かれていただけ。
「しかしありゃあよっぽど無茶なことをしてると見た」
まだ二本目の聖剣も手に入れていない頃、クロガネがそう零したことがあった。
「なんの話だ?」
「いや、あの嬢ちゃんだよ。」
「お姉さまがどうかしたんですか?」
「いや、お前らも見ただろ?あの身体捌きに剣の扱い。あれくらいの娘があそこまでの力をつけるのにまともな方法でやってきたとは思えん。」
「…それこそ才能ってやつなんじゃないですか?」
あの時の自分の中では仲間のみんなとレーナさんは…なんというか選ばれた人間だと思っていた。
才能があって、何でもできて選ばれるべくして女神様に選ばれた人たち。
「いや、俺の勝手な予想だがあの嬢ちゃん…才能という点で言えばたぶん並以下だな。」
「…え?あんなに強いのに?」
「ああ。動きの無駄を捨てきれてないし剣もそこまでキレイな太刀筋とは言えない…戦いに才能のある人間の戦い方じゃないなあれは」
「そ、そうなんですか…?自分にはそうは見えないですけど…」
「だな~でもそれであれだけ強いとなると…ちょっとやそっとの努力じゃないってことだ。それこそ幼少期から死ぬほど訓練してるんじゃないか?あれは」
その時はまさかそんなはずないだろうと半分流していた。
そしてそんな思い込みが間違いだと気づいたのはある時、レーナさんと一緒に水浴びをしようという話になった時だった。
彼女の服の下、綺麗で美しいのだろうと勝手に思っていたその肌に、背中に大きな傷跡が刻まれていた。
「・・・」
衝撃的だったその光景に今思い返すととっても失礼だけど自分は言葉を失ってしまった。
「ん?どうかした?…あぁこれ?ごめん~怖がらせちゃったかな」
「あ!いや違います!ごめんなさい…ちょっとびっくりしちゃって…」
あわてて謝ったのを覚えてる。
でもレーナさんは意地が悪そうに笑うと、そのお腹も自分に見せてきた。
そこには小さくだがやけどのようなものがあった。
「あははは!驚いた?」
「そりゃ驚きますよ…」
「そっかそっか」
「…なんの傷なのか聞いても…?」
「うーん大したことはないよ…ただの小さいころにヤンチャしちゃった時の傷ってだけ」
何でもないように笑っていたのをよく覚えている。
そこで自分はクロガネの言葉を思い出した。
「クロガネが言ってました…レーナさんは多分無茶なことして力をつけたんじゃないかって」
「まぁ…無茶といえば無茶だったかなぁ」
レーナさんはどこか他人事のように遠くを見つめて自分に語ってくれた。
小さなころからどこかの軍隊の訓練に混じっていたこと。
家族に内緒で魔物と戦っていたこと…それは一歩間違えば、いや間違えていなくても死んでしまうかもしれない過酷なものだった。
「なんでレーナさんは…そこまでして強くなりたかったんですか?」
自分がまず思ったのはそれだった。
どうしてそこまでして彼女は力を求めたのか…それが知りたかった。
「そんなの決まってるよ、やりたいことがあるから。ただそれだけ」
レーナさんはそれ以上は何も言わなかった。
やりたいこと。
それは出会ってからずっと彼女が口にしていた言葉。
でもそれ以上は決して明かそうとはしない。
誰にでも優しくて、明るくいお姉さん。
だけどその心の内には誰も踏み込ませない。
でもそれでいいと思った。自分はレーナさんの事を悪い人だとは思えなかったから。
そして後悔した。
誰よりも強いのだと思っていた人、背中を押してくれたあの日から…いやもしかしたらそれ以前から、自分の中で存在が大きくなっていた人が死にかけた。
あの時の怒りを、喪失感をまだ覚えている。
レーナさんは一命をとりとめ、無事回復した。
でもそれでも…自分は知った。思うだけじゃ何も意味がない。
手を伸ばさないと大切なものは離れていくだけ。
だから。
きっと彼女は何も教えてはくれないのだろう。
だから自分は何もわからない。
なら何が起きても失わないように強くなればいいのだ。
「私」としても「俺」でも自分は彼女が欲しいと思ったから。
そして手合わせと称して戦いを挑んだ。
結果は引き分け…いや多分横やりが入らなかったら負けていただろう。
でも、ならば、そうここから。
また強くなればいい。
勇者になって力を得て、どうやら自分は欲張りになってしまったらしい。
平和な世界、皆の笑顔。
大切な人。
その全てが欲しい。だから守る力を_
そう覚悟を決めたはいいけれど、自分には厄介なライバルができてしまった。
レーナさんと話してると後ろから殺気のようなものを感じる。
振り向くとそこには小さな少女…いや幼女、アルマの姿。
無表情なのに何故か感情が伝わってくるじとっとした目で見られている。
そしてレーナさんが少し目を離した隙にべしべしと叩かれ蹴られ…別に身体は痛くはないが心はなんとなく痛い。
やがてそれに気づいたレーナさんがアルマを抱きかかえやんわりと叱る。
本人はそれとなく否定しているがその姿は本当に親子に見える。
気持ちがよさそうにレーナさんに撫でられているアルマが一瞬だけこっちを見て…どや顔をした。
16年間必死に生きてきて、いろんなことがあったけれど勇者に選ばれて今現在…幼女にマウントをとられています。
本音を言うと…結構マジで悔しいです。
強さとは一体何なんでしょうか…?誰か教えてください…。




