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意地

あれ?私は何をしてたんだっけ…?

なんで私は空を見上げているのだろうか…あぁそうか…魔物に殴られちゃったんだっけ…。

思ったより痛くないなぁ。

いやこれは…身体の感覚がないのか、おどろくほど何も感じない。

あ~でもなんか顔の辺りが濡れてる感じがする…血が出てんのかなぁ…馬鹿な事しちゃったな…見ず知らずの子供を庇って死にかけるなんてさ。

あ~あ、他人の子供なんて見捨てればよかった、なんて言ってみたり。


「ガァアアアアアアアア!!」


魔物の咆哮が聞こえる。立たないとやばいなぁ…とどめ刺されちゃう。

そうは思うものの身体は全身に重りをつけられたかのように動かない。


そうこうしている間にも魔物の咆哮は少しづつ遠ざかっていく。え?遠ざかって?


無理やり首に力を入れて魔物がいると思わしき方向を見る。

そこにあの子供がいた。

どうやら魔物は何故かあの子供を狙っているらしい。

私になんて目もくれず子供に向かっていく。


これはチャンスだ。私だけならこの場から逃げられるかもしれない。

ここまで頑張ったんだからもういいでしょ。私は物語の主人公じゃない…それがここまでやれたのだ、上出来だ。

きっとみんな許してくれる。


まぁもっとも…


「そんなの私自身が許せないんだけどもねぇ!!!うあああああああああ!!!!!」


ほとんど感覚のない身体に気合を入れて無理やり立ち上がる。

瞬間、地面にすごい量の血が流れ落ちる。どこからか何かが折れるような音もした。

でもそんなの今関係ない。


ざくっと音がして私の隣に聖剣が刺さった。

…そんな便利な機能があったのね。いやもしかしたら聖剣も戦え!と言ってるのかもね…スパルタなことでまぁ。


聖剣を掴もうとして、右腕が全く動かないことに気づいた。

見ると木の枝でも刺さったのか真っ赤に染まっていた。しかも変な方向に曲がってるようにも見える…見るんじゃなかった。

仕方がないので左腕で聖剣を掴む。

一応だが左腕でも剣は問題なく扱えるように訓練している、不幸中の幸いである…少し違うかな?


まぁいいや、ぐずぐずしてる暇なんてないしね。


「フレアショット!」


適当な魔法を魔物の頭にぶっぱなす。

やはり足したダメージにはなっていないが魔物がこっちを見た。


「ガァアアアアアアアア!!」

「っうるさいのよ!こっちは怪我人なんだから静かにしなさい!」


風の魔法を聖剣に付与してその能力で増幅し撃ちだす。

狙うはもちろん顔面。

魔物はその隠し腕を解放して顔を守る。どんだけ顔を守りたいのよ。


「ゴガァアアアアアアアアアア!」


もはや完全にこちらを敵と認識した魔物はその巨体をもって突進してきた。

落ち着け、あいつは力があるだけだ。強くて硬くて速いだけ。

他に特殊な能力があったり魔法を使ってきたりはしない。

ただそのパワーをまっすぐに叩きつけてくることしかしてこない。

冷静によけるだけでいいのだ。


「…エアステップ」


思いっきり横に跳ぶ。

いや跳んだはずだったんだけど左脚が折れた。

なによさっきから、なんでこんなに折れるのさ…本当に身体はもう限界だったみたいだ。

身体が魔法の負荷に耐えられなかったのか、もしくは折れかけだったのか…両方かな。

結果として踏み込みがかなり甘くなってしまった。

ギリギリ突進をかわすことはできたが…


やはりというかなんというか魔物が腕をぶんと振った。


「あがっ…!!?」


私の身体は面白いように吹っ飛ばされた。

唯一の救いは感覚がほぼないせいで痛みすらもあんまり感じない事か。


「げほっ!げほっ!…あ~…」


しかしこれまた立ち上がるのが大変だ。片腕と片脚が思うように動かないだけでこんなにも立ち上がるのに苦労する。

その時、ぺたりと頬に何かがあたった。

見ると、あの子供が私の頬にその手で触れていた。


「危ないから逃げて」

「・・・」


子供は動こうとしなかった。

でもそうだね、この子は魔物に狙われていた。こんなぼろ雑巾みたいな状態の私なんて無視して魔物は逃げたこの子を狙うかもしれない。

ならこのままのほうがいいか。とにかく立たないと…あれ?


なぜか少しだけ身体が軽くなったような気がした。

それは思い込みかもしれないけれどチャンスとばかりに聖剣を支えに立ち上がる。

またもや足元は私の血でいっぱいだ。


というか私いま立ててる…?その感覚すらない。

本当に死んでしまうかもしれない。


「少しだけ下がっててね」


子供の身体を軽く押して下がらせる。


「ゴガァアアアアアアアアアア!」


この短時間で何度も聞いた咆哮を魔物があげる。


「…ねえあなたなんでこんなことするの?」


少し朦朧とする意識の中、なぜか私は魔物に問いかけてしまった。


「理由があるの…?ご飯がいるのかな、生きるためなのかな」

「ガァアアアアアアアア!」


帰ってくるのは咆哮だけ、当たり前か。

でもなんとなくだけど、その行動に意味なんてないように感じた。


「そっか…じゃああなたに私は殺せないよ。だって私にはあるんだもん、ここにいる理由が…ここまで来た理由が!」


どうしようもなく自分勝手で馬鹿でめちゃくちゃな願いだけど、絶対に諦めたくない想いがあるから。

こんなところで死ねないのだ。

これは意地だ、かっこよくもなんもない…泥臭くて惨めな、私の一番大切なもの。


「ゴガァアアアアアアアアアア!!!」

「こい!!…お前なんかに、お前なんかに踏みにじれると思うな!!」


魔物が一つ覚えのように再びその巨体をもって突っ込んでくる。

もう私にはアレを避ける方法も体力もない、だから狙うは一つ。


そして目前まで迫った魔物が四本の腕を私に突き出す。

ここだ、

身体の力を抜いて身を投げ出す。

すると身体は私の意思を無視して、前に倒れようとする。

それがいい感じに魔物の拳をよける結果をもたらしてくれた。少しくらい殴られるのを覚悟していたが運がよかった。

そしてできた隙に聖剣を魔物の顔に突き刺す。


「グシャアアアアアアアア!!」


魔物は当然、私を引きはがそうと腕で私を掴む。


「…ギガライトニング!!」


聖剣を通して魔物の身体に電撃を流す。

これは流石に効くでしょう?


「ガァアアアアアアアア!?」


どうやらかなりの痛みがあるらしく魔物が暴れ狂う。

その拍子に魔物が掴んでいた私の右腕が千切れた。あ~あ…最悪だ…でもまだ私は生きている。

ここで倒しきるんだ!


私の中で何かが弾けた。

何処からともなく魔力があふれてくる。今この瞬間だけ私は限界を超えた。


「目覚めろ…第一の聖剣リ・スティード!」


聖剣に魔法を付与する。

その魔法は雷属性最上級魔法ジャッジメントライトニング。

本来ならありえない魔法の行使に、身体のいたるところが悲鳴をあげていく。

でも最後までやりきれるでしょう?だって私の身体だもの。

ここまで意地と気合だけでやってきたんだもの…これくらいどうってことない。


「くらいなさい…これが私の限界を超えた一撃!ジャッジメントセイバー!!!!!!」


裁きの剣が魔物を体内から焼き切った。

その余波はあたりの木々ごと薙ぎ払う。


終わった…今度こそ終わったはずだ…。

魔物から解放された私は聖剣を地面に突き刺しそれを支えに座り込む。


「あ~…ほんと…いろいろとうまくいかないなぁ…」


きっともっとうまくやる方法なんていっぱいあっただろう。

そもそも首をつっこむべきじゃなかった。

油断したのもまずかった。

そんな後悔が浮かんでは消えていく。

でもいいんだ。これが私だから。

まだ私は生きてるのだから。


小さな足音が近くから聞こえた。

見るとそこにはあの子供の姿。

なんと私の千切れた右腕を両腕で抱えていた。

すごい光景だ…怖くはないのだろうか?いや持ってきてくれたのはありがたいけれどもさ…というかくっつくのかなこれ…


「…ありがとうね」


左手で子供の頭を撫でた。

顔は見えないけれど、心なしか嬉しそうに見えた。


その時だった、私の耳はある音をとらえていた。

さらには気配まで感じる。


「はぁ…ほんと…うまくいかないなぁ…」


頭を撫でるのをやめて子供に掌を向ける。


「ごめんね。ウインドバーン」


風の魔法を使いその子を吹き飛ばす。

それと同時に私の背後から「三体目」が姿を現した。天丼っていうのかなこういうのって。


瞬間、すさまじい衝撃と共に身体が宙を舞う。

もうさすがに無理だろう…意識が薄れていく。


視界の端で私が吹き飛ばした子が見えた。どうやら衝撃で布が捲れてしまったらしく…その素顔を晒して私を見ていた。

その顔は_


「あぁ…そんな…やっと会えたのに…」


届くはずもない手を伸ばす。

ここまで来たのに…悔しい…やりきれない…だってあの子こそ私が運命を変えたかった少女。

この世界を救うために犠牲になることが定められた存在そのものだったのだから。


「アルマ…」


最後にその名前だけを呟いて私の意識は闇へと落ちていった。


「___!!!」


最後の瞬間、誰かの声が聞こえた気がした。

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