忠告
クロリスさんと再会したのち、外で名前を呼ばれるといろいろとまずいのでとりあえず部屋に来てもらった。
「…よく私だってわかりましたね」
久々にレフィア以外に素顔を見せた…なんだか少しだけ気恥ずかしい気がする今日この頃。
「ええなんとなく雰囲気がレーナさんだなって思っちゃって…急に呼んだりしてごめんなさいね~?」
「いえいえ、ただ驚いただけなので大丈夫ですよ。」
「ご主人様、この方は?」
レフィアがお茶を入れてくれながら聞いてきたけど、そうだった…紹介するのを忘れてた。
「ああごめんね。このひとはクロリスさんといって…え~と以前お世話になった?人かな」
「よろしくお願いしますね。」
ゆっくりと頭を下げるクロリスさん。
それにつられてその豊満なお胸様が揺れる揺れる…あいかわらずすげぇ…。
まぁそんなことは置いておいて。
「クロリスさんはどうしてここに?というか無事だったんですね。心配してたんですよ!」
「くすっ、こう見えても一人で旅してるのでそこそこ腕に覚えがあるんですよ~。ここにはたまたま立ち寄った感じですね。」
「一人旅!え!?クロリスさんがですか?」
「ええそうですよ~」
まじか…こんな美人でのほほんとしてお胸様がすごいお姉さんが一人旅とかいろいろ大丈夫なのだろうか…?
「危ない目にあったりしませんか…?」
「大丈夫ですよ~心配してくれてありがとうございます。」
そこでコンコンと扉がノックされた。
あ、やばい。いそいでお面付けないと!
「私、行ってきますねご主人様。」
レフィアが慌てる私を止めて扉を開け外に出て行った。
できる子やでほんとに…。
「レーナさん」
「はい?…わぷっ」
クロリスさんに声をかけられたかと思うと、なにかとんでもなく柔らかいものが私の顔を覆った。
覚えがあるぞ…このどこまでも沈んでいくような柔らかさ…間違いない…あれだ。
どうやらなぜか、本当になぜか私はクロリスさんに抱きしめられているらしい。
なんでこうなったかは全くわからないのに無条件でなぜかとっても安らいだ気分になってしまうお胸様マジック。
いや、なんかすごくいい香りもするし触れてるところ全部柔らかいし暖かいし、背中をぽんぽんされてるのもあってなんかすごい…なんだ?もうとにかくこのまま無限に甘えてしまいたい。
「あ、あの…クロリスさん…?」
「なんだかとっても疲れてるみたいに見えたから。いい子いい子~」
なでなで、頭をなでなでされている…!!
これはヤバい…何かに目覚めてしまいそうだ…!
「あ、あの!もういいですから!」
「まだだめ~。あ、ソファーがあるじゃないですか~あそこで少し眠りましょう?」
クロリスさんにされるがままに引っ張られ、ソファーに座ったクロリスさんに膝枕されてしまった。
うひぃ~太もも気持ちええ…いや、変態か私は。
「ほ~らいい子いい子~。」
「あふぅ…」
またもやなでなで。寝てしまいそうだ…。
でもなぜこんなに落ち着いてしまうのか不思議で仕方がない。これはクロリスさんになんかこう…お姉ちゃん的な感情を抱いてしまっているのだろうか?
いやこれは…お姉ちゃんというよりも…
「…ママ……はっ!」
「あら?」
しまった!声に出してしまったぁあああああああああ!!!レーナ一生の不覚!!!
さすがに引かれてしまったかもしれない…恐る恐るクロリスさんを見た。
にっこにこの笑顔だった。
「じゃあレーナちゃんって呼びましょうか。」
「ひぃいいい!!」
「くすくす、ほらママですよ~いい子いい子~」
「許してくだしぃ…」
恥ずかしすぎて顔が爆発してしまいそうだ。
「そうだレーナちゃん。以前言ってたやらなくちゃいけないことは順調なのかしら?」
「…え?」
突然そんな話を振られたが…私クロリスさんとそんな話したっけ…?いやしたのか?
「あんまり深く考えちゃダメ。」
「あ、はい…ちょっといろいろ想定外のところもありましたけど、なんとか軌道修正もできたかなってところですかね…」
「そっか…偉いね~なでなで」
「うぅ…」
突然甘やかしてくるのやめていただきたい…。
「ねえレーナちゃん。」
「はい?」
「この村のこと好き?」
「え?」
なんで突然そんなこと聞くのだろうか?さっきからクロリスさんの事でわかることが何一つない。
でも答えないといけない。
なぜかそう思ってしまう。
「どうなの?」
「そりゃあ好きですよ…みんないい人たちばっかりですし…ご飯もおいしい…」
「そっか」
すっと私の目元をクロリスさんが掌で覆う。
「よく聞いて。この村はもう少しで滅ぶの」
「え…?」
「これは決まってることでどうにもならない。」
「そんな…」
なにかとんでもないことを聞かされてるのに私の意識はふわふわとしてて今にも眠ってしまいそう。
「でも今なら間に合うわ。あなただけでもここからすぐに立ち去りなさい。」
「・・・」
「やりたいことがあるのなら、叶えたい願いがあるのなら…何かを切り捨てることも時には必要でしょう?」
「…はい」
「うん、じゃあ少しだけお休み。いい夢を」
おでこに柔らかいものが少しだけ触れ「ちゅっ」というみじかい音が聞こえた。
そこで私の意識は途切れた。
夢を見た。
誰かが泣いてる夢…どうして泣いてるの?聞いても答えてはくれない。
よく見ると周りではたくさんの人が泣いていた。
そしてその中心でひときわ目立つ誰かが立ち尽くしていた。
あれは…女神様…?なぜか直感でそう思った。
そしてその顔は泣いてはいなかったけど…ここで泣いている誰よりも悲しそうで…___
ゆさゆさと身体を揺さぶられている気がする。
「ご主人様、ご主人様。」
「ううん…?あれ…?」
揺さぶっていたのはレフィアだった。
どうやらいつの間にか眠ってしまったようだ。
「ふぁ~なんか寝ちゃってた…」
「ええ、ぐっすりでしたね。」
「あら?クロリスさんは?」
「私が戻ってきたときにはすでにいませんでしたよ?」
ありゃ…いつの間にか眠っちゃったし悪い事しちゃったかな?
というかいつ寝たんだ私?記憶が曖昧だ…なんか以前にもこんなことあったような…?
いやその前に。
「何かあったのレフィア?」
「あ、はい。じつは少し厄介ごとで…ぜひギルドに来てほしいということなんですが」
「そっか…じゃあ行かないとね。」
「いいんですか?もう少しで旅立つんじゃ?」
「うん、まぁ…でも2~3日はまだいる予定だし話だけでもね」
「かしこまりました。」
そしてレフィアと二人、ギルドに向かったのだった。
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そんな二人の様子を上空から見つめる者がいた。
「…行くのですね。忠告はしましたよ…そのうえであなたはどんな選択をしますか?願いのために何かを切り捨てられますか?それとも全てを失いますか?でも、もしできる事ならば…」
それはその言葉を飲み込んだ。
ありもしない可能性に希望を抱くのは間違っている。
最善を目指すのなら私情は捨てるべきだ。
ただそれでも、一つだけ。
たった一つだけ。
もし叶うのならば
「あなたの物語が悲しみで終わりませんように。」
それだけ呟いて、その存在は景色に溶け込むように消えたのだった。
 




