運命との戦い
ギルドに向かうとすでにたくさんの人が集まっており、なにやら全員が深刻そうな顔をしていた。
「すみません遅くなりました。」
「白面か…いやこちらこそ急に呼び出してすまんな。」
私に声をかけてくれたのはここのギルドの長…コハルちゃんのお父さんだった。
「いえいえ。お世話になってますから…それで何かあったんですか?」
「それが…」
聞けばこの村から数十キロほど先に謎の強大な魔物が出現がしたらしい。
らしいというのは、まだ確認がとれていないから。なんでもこの村には以前から封印石と呼ばれる魔物を封印した大きな石の存在が語られていたらしいのだが遠出していた村人がその石が破壊されているのと、周りに大きな何かが暴れまわった痕跡があったそうだ。
そして今はその対策をどうするか相談していたと…でもこんな話ゲームにあったかな?
いかんせん前世の話なので曖昧なところもあるが、はて…?
「でもよぉギルド長。その石が壊れてるのを見たってやつも魔物の姿を見たわけじゃないんだろ?数十キロって割と近いぜ?鉢合わせすらしなかったならこっちには来ないんじゃ?」
それはごもっともな意見だ。でも少し楽観的でもあるように感じる。
「…何かがあってからじゃ遅いからな、念には念を入れるべきだろう」
「具体的には?」
「村人の避難だな。近くの町に勇者様が滞在されているという話だしそこに行って助力を頼もう。」
「そこまでするほどかね?封印されてる魔物ってそんなに強いのか?」
ギルド長が机におもいっきり拳を叩きつけた。
「…数十年ほど前に俺は見たんだ。あの時は盗賊の類が石を動かしたのが原因で封印が解けた。そして出てきた魔物は周囲の全てを破壊して死人も数えきれないほど出た!当時の討伐隊はほぼ全滅して俺の父親も!祖父も死んだ!その時は封印石が無事だったから石を再度戻すことでなんとか封印することができたんだ!だがその石も割れてしまった…何かがあってからじゃ遅いんだ!」
ギルド長の鬼気迫る叫びは、その場の全員を飲み込んだ。
恐怖を経験した人の言葉はここまで力があるのかと思ってしまった。
その時、
「お父さん!みんな!」
コハルちゃんのすごく慌てたような声がギルド内に響いた。
「どうしたコハル!」
「上に来て!はやく!」
上とは今コハルちゃんが顔を出している二階の事だろうか。
いや、もっと上かな?
ギルドは物見やぐらが併設されているのでそっちからかもしれない。
慌ててギルド長がコハルちゃんと共に上えと上がっていく。
なんとなく胸騒ぎを覚えて私もついていった。
コハルちゃんがその小さな身体ですたすたと身軽に階段を上がっていく。
やっぱり物見やぐらのほうだったらしい。
このやぐらかなり高く、それこそ頂上からなら数十キロなんて余裕で見渡せるだろう…つまり何が言いたいかというと、この胸騒ぎは多分そういう事じゃないかという確信めいた予感があるのだ。
そして頂上にたどり着いたコハルちゃんが遠くを指さした。
「あれ!」
コハルちゃんが指さした先、かなり遠いので一時的に視力をあげる魔法を使う。
ギルド長も双眼鏡のようなものを取り出してその場所を見る。
悪い予感はあたってしまったようだった。
森の木をなぎ倒すようにして村に向かってくる巨大な何かがそこにはいた。
さすがに距離がありすぎてよくは見えないが簡単に言うならば…金色の体毛とタテガミを持った巨大なゴリラ…だろうか?
とにかくそれが村に一直線に向かってきていた。
「あいつだ…間違いない…前に見たまんまだ!あいつが来たんだ!!」
ギルド長が悲鳴にも似た叫びをあげる。
「ギルド長、落ち着いてください。今はとにかく対策を練らないと」
「白面…そうだな…すまん。取り乱した…コハルも良く見つけてくれたな。お前はお母さんのところに戻って荷物をまとめなさい。」
「う、うん…」
そしてみんなで下に戻ると、なにやら騒がしくなっていた。
「何事だお前たち!今は騒いでる場合じゃ…」
「大変なんだギルド長!大量の魔物がすぐ近くまで来てる!」
「なんだと!?どういうことだ!」
「わからねえけど東のほうから魔物の大群がこの村に向かってきてんだよ!」
東…これはまずいかもしれない。
この村は大きな湖に囲まれていて北と南はもれなく湖だ。
そしてさっき確認した封印されていた魔物は西から来ていて大量の魔物が東から…まずいなんてもんじゃない。
とにかく村のほぼ全員が集められ、情報整理ののち話し合いが行われることになった。
「…ここまでの話を聞いてなにか案があるものはいるか?」
ギルド長のそのつぶやきに手を上げる人は誰もいなかった。
それも当然かもしれない。撃退するにしても絶望的、避難も無理…意見を出せというのが酷なのかもしれない。
少人数ならもしかすれば魔物の目をかいくぐって逃げることができるかもしれないが…。
「そうだ…勇者様だ!」
誰かがそう声をあげた。
「勇者様ならこの状況を何とかしてくれるかも…誰かが助けを求めに行けば…!」
「確かに名案かもしれんが…間に合うかは絶望的だ…それに魔物をかいくぐってとなると誰が助力を願いに行く?という問題もある」
誰もが下を向いていた。
手詰まりでなにもできない…こうなったらとるべき手段は一つだろう。
私は声をあげようとして…その時、頭に声が響いたような気がした。
誰かから逃げろと忠告を受けた気がした。
確かに私とレフィアだけなら逃げることができる…でも、それはきっとハッピーエンドにつながる道じゃないから。
ここで村を見捨てて逃げて、その後の全てがうまく行っても私はきっとその選択をしたことを後悔するから。
だから私は声をあげた。
「どうしようもないなら戦うしかないでしょう。」
その場の全員が私を見た。そしてギルド長が口を開く。
「戦うか…簡単に言うがそれがどれほど困難な事かわかっているのか?」
「でも他に生き残る方法がありますか?」
「できるわけないだろう!それとも白面にはなにかいい案があるのかよ!?」
「…魔物の群れは討伐隊がそれこそ死力を尽くせば対処できるはずです。」
「魔物の群れはな!でも反対の封印されてたやつはどうする!?誰が戦うんだよ!」
それはもちろん
「私が戦う。」
それが一番可能性があると私は思った。
「白面…お前は確かに強い。だがあれを相手に一人で戦おうというのは無茶だ!」
「それでもやるしかないでしょう?私が西の魔物を相手にする。その間に討伐隊のみんなは東の魔物の群れを何とかして、そして残りの村人は道が開けたら避難する…これが私たちがみんなで助かることのできる唯一の道だと思います」
ざわざわとみんなが騒ぎ出す。
「無理だ…」「できるわけがない…」「ここでみんな死ぬんだ…」と誰もが諦めていた。
どうして?なんでそんな簡単にあきらめることができるんだ。
まだ可能性は残っているのに…!
「ご主人様。」
「レフィア…?」
レフィアが私の腕を掴んだ。
「私はご主人様のやりたいことを尊重します。だから使える手は全て使うべきです」
まっすぐとレフィアが私を見つめてくる。
彼女が何を言いたいのかわからないほど私はとんちんかんではない。
そうよね…確かに言葉だけで叶うものなんてない。
行動で見せつけるしかないのだ、まだ希望はあるのだと…。
私は聖剣にかけていた透明化の魔法をとき、白面を投げ捨て素顔を晒した。
「…え?」
「白面…その剣と…その顔は…」
「うそだろ…?まさか本当に…」
みんなの注目が集まっているのを確認して聖剣に光の魔法を使いわざとらしく輝かせる。
そして地面に突き刺し、声を張り上げる。
「私の名前はレーナ…あなた達の言う【剣の聖女】レーナだ!勇者たちはここにはいないけれど、私がいる!私があなた達を守って見せる!だからお願い…少しだけ前を向いて!みんなの力を私に貸して!」
私は勇者じゃない。
ただの泥棒だ。
だから一人の力ですべてを救うなんてご都合主義展開は起こせない。
だからこそ願うのだ、みんなが幸せであれますようにと。
「私ひとりじゃ何もできない!ここにいるみんなの力が必要なの!だから…!」
「もういい白面…いや剣の聖女様」
ギルド長が私の前までゆっくりと歩いてきた。
そして少しばかり見つめあった後、ギルド長は私に背を向けて大声を出した。
「皆の者聞いたな!俺たちはまだ希望を失ってなんかいなかった!ここに剣の聖女様がいる!」
「「うおおおおおおおおおお!!!!」」
「ならばやることは一つだ!全員で生き残るぞ!俺たちの目標は東からくる魔物の群れの討伐!そして非戦闘員の避難手助けだ!やれるな!?」
「「もちろんだぜ!!!!」」
「剣の聖女様が俺たちのために戦ってくれるんだ!かっこ悪い姿みせられっかよ!」
「間違いねえ!!」
村のみんなが雄たけびを上げていた。
そして手早く陣形の相談や退避の準備などを済ませていく。
「ご主人様…よかったですね」
「ええそうね。さて!私も気合入れないとね」
「私は東の討伐隊に合流します…それがいいんですよね?」
「ええお願い。レフィナがいてくれるだけで向こうの勝率はかなり上がるはずだから」
聖剣を手に私は西に向かおうとした。
「ご主人様!」
いままで聞いたことのない大声でレフィナが私を呼び止めた。
「…どうしたの?」
「…かならず生きて帰ってきてくださいね」
「あはは、うん、帰ってくるよ。」
私はここで死ぬわけにはいかないのだ。
まだやり残したことがあるのだから。
これはそのための布石、第一歩。
運命を変える…そのための戦いだ。
近づいてくる破壊音とおどろおどろしい咆哮。
私は聖剣を握りしめそちらに歩みを進めた。




